レビュー

作者は寿司屋の女将 仕入れた魚の美しい「ヒレ」をコレクションした同人誌『ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界』司書みさきの同人誌レビューノート

ヒレは下処理後にレジン樹脂でコーティングしているんだとか。

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 「きらきらしたもの」とお題があったとしたら、何を思い浮かべるでしょうか。宝石、星、華やかなスポットライト……今回のご本は、きらきらした魚の、そのなかでも特に「ヒレ」が並ぶ同人誌です。

今回紹介する同人誌

『ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界』147ミリ×147ミリ 28ページ 表紙・本文カラー

著者:ウオヒレウロ子


色も形もさまざまなヒレたち

18種のヒレたち、見逃せない美が集合

 いつもはまじまじと見たことなかったなぁ……そんな魚のヒレが、ご本ではいくつも紹介されています。本体から離れたヒレだけの姿がどん、と大きく掲載され、それに魚の名前、“胸鰭(むなびれ)”“尾鰭(おびれ)”といった部位、大きさの基本情報と、作者さんのコメントが添えられた形です。

 東京・銀座のお寿司屋さんで女将(おかみ)をされているという作者さんが、ご自身で仕入れた魚の下処理を行う作業の中で、残ったヒレの美しさに気づいたのがヒレコレクションのきっかけなのだそうです。ご本にも「眺めてみるとうっとりするほど美しい……」と書かれている通り、ヒレのどれもがなんとまぁきらめいていることでしょうか。

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 イトヨリダイの淡いピンクのかわいらしさ、イサキの背ビレのシャープなかっこよさなど、まずはインパクトの強いものに目を奪われ、さらにだんだんと「さすがの落ち着きと重厚感」とのコメントにうなずく、クエの趣のある渋さにも心ひかれる、さまざまなヒレを目で味わうことができます。


“かわいい”“可憐(かれん)”……いままでヒレに対して使ったことのなかった言葉が浮かんでくる愛らしさです

こんなに鮮やか、こんなに色とりどり。つやめくウオヒレ色と形を楽しむ

 掲載されているヒレは、下処理後にレジン樹脂でコーティングされているのだとか。なかには退色して、入荷時とは違う色になった、と書かれているものもありますが、それも含めてそのツヤが瑞々しく光り、水の中に居るときそのままのような鮮やかさにも見えます。

 このヒレの保存、そして写真の撮り方、紙面デザインも、ヒレが堂々と紙面の主役として輝く、大きな力になっているのを感じます。背景は爽やかな白一色、そこにはっきりと形が分かる美しいヒレを真ん中にして見せ、つやめきと同時に自然物の繊細な色を伝える撮影と印刷技術のすばらしさ。手元で見た美しさを写真などで同じように再現しようとしても、なかなか難しいものがあります。けれど、こちらのご本は見事にそれを超えて、ページをめくったときに「わぁ、きれい!」と思える環境が作られています。

 加えて、ページの端になじみのいいベージュ色で書かれたキャッチフレーズに見られるような、たくさんの魚と毎日出会ってきたからこその、作者さんの端的にまとまったヒレへの一言が効いているんです。形、色はもちろん、紙面では伝わりきらない手触りやにおいにまでが短い中にさらりと込められているのが、ヒレの魅力を一層伝えます。「蝶の羽のようなバランスのとれた広がり」はキンメダイの腹ビレ、「黄昏時、灯りを点ける前の暗い和室から格子戸越しに差し込む西日を眺めているような趣」なのはマダイの尾ビレです。魚を愛おしむ人だからこそ紡がれる言葉の数々に、おもわずすぐに魚に会いたくなってしまいますもの。


ご本の大きさが、掲載されたヒレの実物を思わせるような小さめな正方形なのもかわいらしい

本体から切り離された部位の持つ魅力

 文章には時々、魚の大きさや、顔など、紙面には載せられていない部分のことも出てきますが、このご本で魚の本体の絵図が出てくるのは、部位の位置を説明するための解説ページだけです。作者さんが営むお寿司屋さんでそうであるように、また読者である私の日常にも、いつもなら魚の“主”は胴体や、頭です。けれどこのご本では、常なら“副”として本体に寄り添う存在がきらめているんです。細やかな部分にも愛着を持たざるを得ないほどの作者さんの、魚が大好き!な思いが感じられます。

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 いつもなら切り離されていくだけの部位にあらためて光を当てる、その美しい細部の世界が本になってやってきて、ゆっくりと開いて楽しめるのは宝石箱を開けるのに似ているとさえ思うひとときになりました。


渋いかっこよさも見逃せない

サークル情報

サークル名:ひれ処志喜

Twitter:@yamabe_emiko

Instagram:@yamabe_emiko@uohadalove

入手できる場所:ひれ処志喜 ウオヒレウロ子STORE東京・銀座4丁目「すし処志喜」(※食事利用時に冊子の販売、ウオヒレ実物展示見学可能。要電話予約)、シカク(大阪・大阪市)、タコシェ(東京・中野)、mount ZINE(東京・駒沢大学)、ブックギャラリーポポタム(東京・目白)、ひるねこbooks(東京・根津)、SPBS本店(東京・渋谷)、百年(東京・吉祥寺)、エルミHAO(兵庫・甲子園町)

今週の余談

 自然の造形ってその美しさに驚くほどですよね。そしてそれがとどまらず、刻々(こくこく)と変わっていくのもすてきです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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