駅弁、そして郷土の食文化を次の世代へつなぐために今すべきこと 金沢駅弁・大友楼に聞く:金沢「百万石弁当」(1350円)
子どもたちへ「駅弁文化」「加賀料理の伝統」を伝えていくために、江戸時代創業の老舗駅弁店が考えている「駅弁の未来予想図」とは……。
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
北陸新幹線金沢開業から丸7年。いまの金沢の子どもたちにとっては、新幹線が当たり前の存在になってきているのかもしれません。そんな子どもたちの世代に駅弁文化、そして、加賀料理の伝統文化をどのように継承していったらいいか、江戸時代創業の老舗駅弁屋さんの模索が続いています。次世代を担う8代目は、いったい、どんな未来予想図を描いているのでしょうか。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第33弾・大友楼編(第6回/全6回)
北陸新幹線随一のビューポイントとして知られるのが、金沢のお隣・津幡町の「新幹線の見える丘公園」です。ここは7年前、平成27(2015)年の北陸新幹線金沢開業に合わせ、工業団地の一角が整備されました。天気のいい日には列車の通過時刻を見計らって、地元の親子連れが集まり、賑やかな雰囲気に包まれることもあります。この春は、早くも新幹線が金沢にやって来たころに生まれた子どもたちが、小学校に上がるんですね。
そんな新幹線の乗客も手にする加賀の食文化が詰まった金沢駅弁を手掛けているのが、江戸時代創業の「株式会社大友楼」です。8代目の大友佐悟常務いわく、加賀料理とは「料理と器」、そして「豊かな食材と東西の食文化」が融合した料理とのこと。今回は、「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第33弾、大友楼編の完結編。大友常務にこれからの加賀料理、そして駅弁について語っていただきました。
加賀料理も駅弁も、若年層へのアピールがカギ!
―大友楼では「加賀料理」をどう守り、発展させていきたいと考えていますか?
大友:加賀料理は、若年層の認知が少ないので、そこが課題だと思っています。まずは小さい子どもたちに郷土料理のことを知ってもらうため、金沢市内の小学校に出向いて、令和元(2019)年度から、特別授業を展開しています。子どもたちは、私たちの話を素直に聞いてくれているので、頭の片隅に少しでも残ってくれることが、金沢の郷土料理を守っていくうえで大事なことではないかと思っています。
―駅弁も若年層への展開が課題ですね?
大友:駅弁は日本固有の文化だと思います。ただ、駅弁マークが付いた昔ながらの折に入った駅弁を、若い世代があまり知らないということに危機感を抱いています。「駅で売っている弁当はみんな駅弁だ」という認識になってしまうと、駅弁業者としては少し悲しいです。「駅弁はコンビニ弁当とは違うもの」という差別化が必要だと思います。その上でいままでの大友楼がやってこなかったことをやっていく必要が出てくるかと思います。
郷土の食文化と、駅弁文化をもっと大切にしよう!
―具体的には、どのようにアピールしていくのがいいでしょうか?
大友:例えば、駅弁業者総出で“駅弁文化”を若い世代にアピールしたり、世論に振り向いてもらえるような取り組みを仕掛けていかなければならないと思います。まずは「駅弁がある」ということを認識してもらわなければなりませんので。いまは海外へ進出されている駅弁屋さんもありますが、フランスでは“駅弁ブーム”も起きていると聞いています。海外で受け入れられている駅弁文化ですから、日本人はもっと大切にしてもいいと思うんです。
―大友楼にとって、駅弁作りで最も大切なことは?
大友:美味しいのは当たり前で、「安心・安全」が最も大切だと思います。近年、衛生面もより厳しさを求められるようになりました。そのなかでも料亭の味を活かしつつ、地産地消にも取り組んだ弁当作りを続けていきたいです。とくに最近は健康志向で、ご飯も少量で構わないというお客様が多くいらっしゃいます。こういったお客様に対応できるお弁当を、地場の特産などとコラボするような形で、私の代では商品化できたらと思います。
加賀・能登ののどかな風景を眺めて駅弁を!
―それを踏まえて、これからの「金沢駅弁」は、どうありたいですか?
大友:郷土料理を軸に食文化豊かな金沢だからできる駅弁作りを続けていきたいです。私自身、駅弁は折箱に入った幕の内が好きで、守っていきたいと思いますし、手の込んだおかずを少しずつつまめる幕の内が金沢には合っていると思います。でも新たなお客様に振り向いていただくためには、いまの時代に合わせたものを作り出していくことも必要だと感じています。(名物食材に特化したような)新たな弁当も必要になるかもしれません。
―大友楼の駅弁を“美味しくいただくことができる”車窓を教えてください。
大友:金沢は海と山、両方が近いまちです。金沢から出るローカル線の列車に揺られて、のんびり海や山を眺めながら駅弁を味わっていただくのが、いちばん美味しいかなと思います。とくに七尾線は、羽咋(はくい)の辺りの田んぼのなかを走る風景がのどかです。よければ、能登への行きは金沢駅で駅弁をお求めいただき、お帰りは和倉温泉から特急「花嫁のれん」にご乗車いただいて、大友楼の食事も一緒に楽しんでいただけたら大変嬉しいです。
8代目の大友常務も愛してやまない「幕の内弁当」。大友楼が作っている最もベーシックな幕の内駅弁と言えば、「百万石弁当」(1350円)です。金沢駅の駅弁売場では、ほぼどこでも見かけることができます。上蓋のパッケージには、金沢の城下町の古地図やその風景が描かれています。現在の「百万石弁当」は、平成30(2018)年にリニューアルされたものです。
【おしながき】
- 白飯 梅干し ゆかり
- 五目御飯 錦糸玉子 グリーンピース
- 鮭の押寿司 レモン
- 焼鰤
- 蒲鉾
- 花五目巻き玉子
- 治部煮
- ひと口カツ
- 鶏つくね串
- いかのフリッター
- ミニトマト
- 煮物(竹の子、人参、ふき、椎茸、笹かまぼこ、信田巻)
- 中華山菜イカ
- 昆布巻き
- 大福
パッケージを開けると、ご飯が白飯、五目御飯、鮭の押寿司と、3種類も入っています! おかずは、日本海ならではのぶりの焼き魚、蒲鉾、玉子焼きの“幕の内三種の神器”をしっかり押さえた上で、大友楼の駅弁では定番と言ってもいい加賀料理の治部煮に加え、揚げ物やつくねなどのおかずも。少なめのご飯とともに酒のつまみにもちょうどよさそうです。料亭の味がたっぷり詰まって、満足度も“百万石”の金沢駅の幕の内です。
2年後の敦賀開業を目指し工事が進む北陸新幹線の高架橋を横目に、在来線特急の「サンダーバード」が大阪を目指します。時代の波にもまれながら、加賀藩御膳所御料理方の誇りを胸に料亭と駅弁の二刀流を貫いている「株式会社大友楼」。加賀料理の伝統が詰まったその駅弁は、彩りよく気品溢れるものばかりです。新幹線で高速移動できる時代だからこそ大切にしたい、金沢の食文化、そして駅弁文化です。
(初出:2022年3月25日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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