レビュー

「人間辞めたい」→着ぐるみ作ろう 同人誌『ツキノワグマと学ぶリアル着ぐるみ作り方本』が教える理想のもふもふになる方法司書みさきの同人誌レビューノート

ほんとにリアルなやつだ。

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 前回の同人誌レビューは、夏の工作のイメージが湧くようなご本でしたが、今回も自分の手で作り出していくご本をご紹介。作り出す対象はより大きく、自分がすっぽり入れる着ぐるみ製作の同人誌です。

今回紹介する同人誌

『ツキノワグマと学ぶリアル着ぐるみ作り方本』表紙カラー・本文モノクロ

著者:ぬいたち


実際に作られた様子を表紙のキャラクターたちが教えてくれます

「人間辞めたい」から着ぐるみ製作へ。かわいいマンガで解説

 テーマパークや商品のPRイベントなど、着ぐるみは意外とあちこちで、そしていろんな形を見掛けます。なかでもこちらのご本はふわふわした毛皮風の布を使った、現実の動物に近い姿の着ぐるみ製作を紹介されています。

 作者さんはもともと、デフォルメしたタイプの着ぐるみ製作の経験があるそうで、リアルな動物風の着ぐるみを製作されたきっかけは「人間辞めたい」と思われたからだとか。あら……なにか大変でいらしたのですね……。けれどそこはさらりとつぶやかれ、さくさくと製作に入っていきます。「こんな姿がいいな」とイメージするところから、材料、手法、着ぐるみらしく見えるためのコツなどが、順を追ってマンガで描かれます。

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 メインは製作の手順紹介なので型紙がついているわけではなく、一つ一つの縫い方を詳細に説明するような「記載の通りにしたら同じものが作れる」タイプのご本とは趣が違います。しかし、取り組みの前段階から「作業部屋の確保(毛がとても舞う)」や「毛皮風の布の保存の仕方」に言及するという経験者ならではの気付きが実に細やかに、それでいてすっきりした線でマンガになっているので、実際に作ってみたい方の参考になりそうなのはもちろん、どんな世界なのかな? とのぞいてみたい人にも分かりやすい内容となっています。


想像から立体へ

これは一大プロジェクトでは!? 手順を惜しみなく公開!

 ここで、作者さんから提供いただいた完成した着ぐるみ(ツキノワグマで名前はキャラメリゼちゃん)をご覧ください。

 なんという存在感! 写真に納まるとナチュラルに世の中になじんでおり、ご本を読んで製作の裏側を知った今はただただ拍手を送りたくなるお姿です。

 人が入ることができ、しかも動くこともでき、さらに自然の動物らしさをも感じさせる……これらの実現のために、ご本ではさまざまな技と工夫がページをめくるごとに繰り出されていきます。構造を理解して型取り、材料の特性を知って切り貼り、稼働するためのギミックなどなど、すごい情報と技術が詰め込まれているんです。これはもう一大プロジェクトですよ! 暑さ対策にバッテリー式のファンの設置を試みたり、リアルな鳴き声のためスマホを仕込んだり、「自分の思い描くような姿を表現する」ため今どきの技術も盛り込まれています。それらが惜しみなく、たっぷり40ページに渡って公開されているのがうれしいです。


「どうやっても毛が他の部屋まで飛んでいく」……リアルな体験が参考になります

現実を写し取り、現実に出現させるための努力が輝く

 工作、手芸の技に加え「どんな風にするとリアルか」を探っていくのも、面白いポイントです。耳や足の形、口の中や毛並みの色などにも注目し、資料を参考にしたり、ときに動物園で観察して情報を収集している様子が分かります。それがあるからこそ、毛並みのカットや、肉球や爪の素材選びなどの具体的な落とし込みへとつながっているのではないでしょうか。

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 すてきだなと思う姿をまとうため、「どうすると、自分のイメージに近づけることができるのか?」と、見て、考え、手を動かす根本に、モチーフに対する興味と愛情の大きさを感じました。また、生物として活動しているからこその現実と向き合い、技術とアイデアと経験を集結し、理想をすり合わせて形にする……最終的にその中に人間が入ることまで合わせて考えると、それは生きているということを大切にする一つの形のようだとも思えます。ページをめくると、一着に込められた壮大なプロジェクトをひもといてみることができました。


好みを形にするためには対象の観察も大切なのですね

サークル情報

サークル名:小動物ケージ

Twitter:@Futoagon614

入手できる場所:BOOTH冊子版電子版

次回イベント参加予定:おもしろ同人誌バザール 8/1~14開催「おもバザハンズ広島・静岡

今週の余談

 着ぐるみのオンシーズンは秋から春先とのこと。そうですよね、毛皮は暑いですよね……。今から取り組むと、ベストシーズンに完成かもしれませんね!

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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