織田信長、未来人に遭遇しすぎ マンガやラノベなど約100作品を調査した同人誌『信長名鑑』が熱意の塊:元司書みさきの同人誌レビューノート
視点が面白い作品。
もうすぐ6月。441年前のこの季節、時代が大きく動こうとしていたのをご存じでしょうか。天正10年6月2日は、戦国武将、織田信長が襲撃された本能寺の変が起こった日です(旧暦。西暦では1582年6月下旬~7月ごろとされます)。戦国時代の中でもとりわけ有名な人物の一人、織田信長。彼の人気を表す同人誌がまたここに……。
今回紹介する同人誌
『信長名鑑2 織田家訪問のしおり』A5 84ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:姫川榴弾
タイムスリップ先として大人気! 織田信長のもとを訪れた現代人や転生者をカウントする
こちらは「マンガやライトノベルなどの作品の中でタイムスリップや転生をして織田信長と遭遇した人」について調査したご本です。作者さんは、さまざまな創作物において信長がどのような描かれ方をされているかを調べ上げ、『信長名鑑(しんちょうめいかん)』(太田出版、2019年)を出版しました。そんな方がこの同人誌では、信長のそばにタイムスリップしてしまった人や、同時代に転生してしまった現代人などをテーマに書いています。
年表、訪問者集計、分析……豊富な情報を丁寧にガイド
ご本は、どのような条件で調査しているかのレギュレーションから、信長の生涯と来訪者のかかわりが一目で分かる年表、掲載された作品の紹介、そして訪問者の集計、また「なぜこれほどまで多くの訪問者が織田信長のもとを訪れるのか」の分析までが文章でつづられています。
いやはや、「なぜこれほどまでに……」とされているように、時代を越えて織田信長と出会う人はなんと多く、そしてバリエーション豊富なことでしょうか! 歴史を知りたくて時間旅行をする小学生や、信長に筋トレ術を伝える高校生、信長の周囲の人物に転生してしまう人などが続々と出てきます。
調査によるとその数は合計100人を超えるとのこと。これらが信長生誕から本能寺の変までの時代を追いながら紹介され、分かりやすく見ることができるのですが、みんな事情が違うのでとにかく情報量の多さに驚きます! それを調査し、時代順に並べられたご苦労も推察されるのと同時に、どの紹介も短くポイントを押さえているところに、また感嘆させられます。どんなタイミングでどんな人がやってきたのかという個々の事情も、マンガや小説の作品紹介も、コンパクトにまとめられる要約力のすごさに助けられて、膨大な情報を興味深く読み進めることができました。
歴史の激動を新たな視点から照らす面白さ
そもそも、歴史上の人物に現代人が会うのは空想でしかかなえられない、特殊な状況です。しかしそれがこんなにも多彩に描かれ、しかもたった一人の武将を中心に巻き起こっているなんて。今までにない切り口でまとめられたことにより、またあらためて織田信長の人気、ドラマチックさ、そして創作の面白さにも光が当てられたように思いました。
441年前なら、もうすぐ時代の節目を迎えるころ。もしかしたら何かの拍子に織田信長に出会うような事態になってしまうかも? ご本を読んで備えておくのもいいかもしれませんね。
今週の余談
創作作品をきっかけに歴史がぐっと身近になるの、何度も体験してきました……。学生のころは授業でその時代に触れるのが待ち遠しかったり。いろんな入口があるのっていいですね。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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