レビュー

「全日本吹奏楽コンクール」の課題曲64曲を独自の目線で紹介 70年以上の歴史を振り返る同人誌元司書みさきの同人誌レビューノート

同人誌『短編小説(あと、ミリタリー)が好きな奴は吹奏楽コンクール課題曲を聴こう!(追補版)』をご紹介。

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 7月を迎えて、気温もぐっと高くなってきました。開けた窓からは意外といろんな音が飛び込んできます。今回は楽器を奏でる人たちが競う、吹奏楽のコンクールに関連する同人誌です。

今回紹介する同人誌

『短編小説(あと、ミリタリー)が好きな奴は吹奏楽コンクール課題曲を聴こう!(追補版)』A5 60ページ 表紙・本文モノクロ

著者:ジンボー・キンジ


課題曲紹介のはじまりです!

83年前から続く吹奏楽コンクールの課題曲を読み解く

 こちらは全日本吹奏楽コンクールの課題曲のうち64曲を文章で紹介しているご本です。作者さんは多彩なコンクール課題曲から吹奏楽をよく知らない人にも興味を持ってもらえればと2017年に1冊目を発行。それから5年が経過し、追補版として出されたのが今回の同人誌です。

 全日本吹奏楽コンクールとは、1940年に開催されたのをはじめに、途中戦争による中断を挟みながら2023年の第71回まで続いている大会です。中学校の部、高等学校の部、大学の部、職場・一般の部があり、課題曲と自由曲を1曲ずつ決めて挑みます。大会の開催は10月ですが、そのための全国予選はまさにいま各地で開催中で、参加者のみなさんにとっては熱い夏になっている時期なのです……!

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 このご本では各回2~5曲ある課題曲の中から、64曲をピックアップし、「座って聴いていられない、恰好良すぎる曲」や「日本の美を聴く、和物課題曲」といった作者さん独自の目線で5章に分け、各曲について語られます。


独自の視点で章分け

曲調、パート、作曲の由来……課題曲にはドラマがいっぱい

 ずらっと並んだ課題曲も、実は私にはなじみがありませんでした。ですが、まずは目次で曲のタイトルと作曲家名が示されており、それと同時に「人々の度肝を抜いたアバンギャルド」「アイデア勝負! まさかこれがメロディに?」といったポイントとなる一言が添えられているのが最初のガイド役になってくれました。分かりやすい一言、助かります。

 そして解説本文では、曲の雰囲気や、使用されている楽器、曲が作られた背景などが語られるのですが、短い中にもぎゅっとドラマが詰められているのがひしひしと伝わってくるんです。めったにない演奏方法が大胆に取り入れられていることや、作曲に込められた意図……決して長くはない解説の中に、エピソードがバランスよく詰められてるのは、確かに短編小説のようなドラマチックさを感じます。

 しかも、「サッカーの試合なら、最初の五分間は守備をかなぐり捨て、ゼロ-ゼロ-十のフォーメーションを敷くようなもの」というような、たとえ話が頻繁に織り込まれているのも楽しい気分になって、門下外もなんとなく想像しやすくなっているのもうれしいんです。

 キャッチーな言葉選びと、エピソードやたとえ話で迎えられるうち、全く知らなかった楽曲の魅力に引き込まれ、どんな曲なんだろう……どう演奏されるのかな? と曲にも演奏にも興味が沸いてきました。

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聞いてみたくなる!

曲の背景を知り、音楽を言葉で伝え、残すこと

 もう一つこのご本で印象的なのが、時代の流れについて言及があるところです。コンクールの当初は国家の方針や軍楽隊と結びついたスタートだったこと、課題曲にもポップスが取り入れられ流行した時期など、大きなうねりを把握した上で個々の曲の果たした役割に触れるのはなかなかできることではないと思います。

 また、コンクールの審査員や課題曲に複数回採用された作曲家についてコラムがあったり、学校の先生をしながら作曲をして課題曲になった例などについて書かれている点も、コンクールや曲にもう一歩踏み出して知りたくなるんです。

 音楽を文字で伝えるのは容易ではないですが、技を尽くして言葉で魅力をつづり、聞いてみたい! な気持ちに引っ張ってくれたこの同人誌を片手に、この夏からコンクールをのぞいてみるのも楽しそうですよ。


曲の特徴とともに歴代の課題曲中での立ち位置にも言及

サークル情報

サークル名:一人の会

Twitter:@jing_boe_quing

入手できる場所:BOOTH

次回参加イベント:主に東日本のイベント会場

今週の余談

 市や区などの公共図書館は公園のそばにあったり、利便性のいい街中にあったりするので、窓の外から吹奏楽の生演奏が聞こえてくる例は少ないかもしれません。開け放した窓から楽器の練習の音が聞こえてくるのは、学校図書館の特権かもですね。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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