福岡から大宮へ15時間! 伝説の「はかた号」を越える新生「キング・オブ・深夜バス」はどれくらいエクストリームなのか試してみた最後は謎の感動(1/4 ページ)

走行距離1170キロメートル、乗車時間は15時間10分。昨年12月にオープンした「日本最長」の深夜バスに乗って、福岡から東京まで帰ってみました。

» 2012年01月12日 16時31分 公開
[池谷勇人ねとらぼ]
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新幹線なら5時間半、バスだと15時間!

 2011年の末、僕は福岡にいた。正確に言うと、夜の天神バスセンターで深夜バスの到着を待っていた。何やらロマンチックな物語でもはじまりそうな書き出しだが、残念ながら実際はその逆である。僕はこれからまさに、深夜バスの「王」へと戦いを挑もうとしていたのだった。

画像 時刻は午後8時。天神バスセンターの出発ロビーでは、旅人たちがそれぞれの思いを抱きながらバスを待っていた(大げさ)

 福岡〜東京を14時間かけて結ぶ「はかた号」は、日本でもっとも長い距離を走る「キング・オブ・深夜バス」として、長らく深夜バスフリークたちに畏れられてきた。ところがこの冬、「はかた号」に代わる、新たなキングが現れたのである。

 新キングの名は「Lions Express(ライオンズエクスプレス)」。2011年12月に新しくオープンした路線で、1日1本、福岡〜埼玉間(1170キロメートル)を片道15時間10分かけて結ぶ。途中、横浜、池袋を経由して、終点は埼玉県のJR大宮駅。走行時間だけなら、一般道区間が多い「いわみエクスプレス」(新木場→津和野)の方が長いが、走行距離1170キロメートルは路線バスとしては「日本最長」だ(※ツアーバスまで含めると、東京〜長崎を結ぶ『キラキラ号』と上がいます)。

 正直に言うと、僕は普通に飛行機か新幹線でとっとと帰りたかったのだが、「水曜どうでしょう」好きな加藤編集長が、キラキラとした目で「乗るしかないでしょう!」と藤村ディレクター風に言ったのである。そう言われてしまうと、こちらとしては「ハイ乗ります」と言うしかない。かくして僕は、「ライオンズエクスプレス」で15時間10分かけて東京へ帰ることになったのであった。新幹線なら5時間半で帰れるのに!

画像 天神バスセンターの各所には「はかた号」と「Lions Express」のポスターがペタペタと貼られていた

画像 「Lions Express」は午後8時10分に天神を出発。大宮に着くのは翌日の朝(昼?)11時20分の予定だ

「逆ウラシマ現象」の恐怖

 乗る前に「ライオンズエクスプレス」についてちょっと説明しておこう。名前の由来は、現在の「埼玉西武ライオンズ」が、かつては「西鉄ライオンズ」の名前で福岡に拠点を置いていたことに起因している。現在と過去のライオンズ拠点を結ぶから「ライオンズエクスプレス」というわけだ。

 料金は、閑散期なら福岡〜大宮でわずか9000円(通常時1万1000円/繁忙期1万3000円)と、新幹線を使った場合(約35000円)に比べて格段に安く済む。その分時間はかかるが、閑散期なら新幹線の約4分の1、通常時でも3分の1以下の料金で大宮まで行けるのは大きい。途中の横浜、池袋で降りる場合にはさらにもうちょっと安くなる。

 僕が乗った12月22日時点ではまだ通常車両での運行だったが、12月26日からは側面に西鉄ライオンズのロゴがあしらわれた特別デザイン車両での運行となる。12月20日に行われた新デザイン車両の発表会には、西鉄ライオンズ時代に活躍したOBメンバーも招かれ、かつての西鉄ライオンズロゴとの再会を懐かしんだ。ちなみにLions Expressは西鉄高速バスと西武観光バスの共同運行で、西武観光バス側の車両はまた別のデザインとなっているらしい。

画像 発表会は天神にある西鉄グランドホテルにて行われた。車体は白がベースで、西鉄ライオンズロゴの黒がキリッとよく映える

画像 側面には西鉄時代のライオンズロゴがペイントされている。現在は「埼玉西武ライオンズ」だが、1972年までは福岡を拠点に活動していた

画像 発表会には西鉄ライオンズ時代のOBも参加。当日はかなり寒く、みなさん風邪をひかれないか心配でした……

 新車両はよくある観光バスと同じ4列シートだが、窓側座席にコンセントが付いているのがうれしい。その他、深夜バスならではの設備として、後方にはトイレと、乗務員の仮眠室も存在。さすがに15時間ずっと1人で運転というわけにはいかないので、運転手は2名体制で、途中のサービスエリアなどで運転を交代しつつ目的地へ向かう。

 深夜バスと言えば響きはいいが、実際に乗るとなるとなかなかエクストリームな乗り物だ。飛行機や新幹線と違って座席は狭いし、動けないし、なんと言ってもやることがない。かつて「水曜どうでしょう」の企画で「はかた号」に乗せられた大泉洋は、眠れなくて眠れなくて時間がちっとも進まないこの状態を「逆ウラシマ現象」と呼んだ。しかし、コンセントがあるならiPhoneでもノートPCでも使い放題である。あれ、この戦い、意外に楽勝なんじゃね……?

画像 発表会後、車内の写真を撮らせてもらうことができた。「はかた号」には3列独立型のビジネスシートもあるが、こちらは普通の4列シートタイプ

画像 座席はごく普通の観光バスといったところ。2人並んで座るとちょっと狭く感じるかもしれない

画像 足下にはフットレストがついていた。長時間乗ることを考えると、こうした小さな配慮はうれしい

画像 窓側座席にはコンセントがついていた。最近の高速バスにはコンセント付きも増えてきているそうだ

画像 車両後部にはトイレも付いている。新幹線や飛行機のトイレと同じく、エアーで「ズボッ!」と吸い込むタイプ

画像 最後部は乗務員さんの仮眠室になっていた。カプセルホテルのような感じで、ちょっと快適そう

 ――そんなことを考えながらバスを待っていると、いよいよ大宮行き、ライオンズエクスプレスがバスセンターに到着したとのアナウンス。事前に買っておいた切符を取り出し、乗務員さんに見せると、いよいよ新キングとのご対面である。2日前の発表会で(新車両の方は)さんざん見たが、やはりエンジンに火が入っている状態ではオーラが違う。これからこの中に15時間も監禁されるのか……。

 ということで、ここからは時系列順に当日の様子を振り返っていきます。時間が経つにつれて文章量が減っていくのは、僕の憔悴ぶりが現れているということでご容赦を。

画像 こちらはまだ新デザイン車両に切り替わる前のもの。こっちはこっちで別の迫力がある

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