ゲームのパクリは許されるのか?――グリー&DeNAが開けた禁断の扉
ゲームのインタフェースやシステムに著作権は認められるのか。グリー対DeNAによる訴訟が、ゲーム開発者たちに与える影響は。
ゲームの「模倣」や「類似」はどこまで許されるのか――。グリー対DeNAの訴訟が、思わぬ波紋を呼んでいる。
既報のとおり、東京地裁(阿部正幸裁判長)は先月、携帯電話用釣りゲーム「釣りゲータウン2」を運営するDeNAらに、ゲームの配信停止と約2億3400万円の損害賠償支払いを命じる判決を下した(※)。グリーが運営する「釣り★スタ」に内容が似ているとして、著作権侵害が認められたためだ。
※追記:その後、第ニ審(知的財産高等裁判所)ではDeNA側が逆転勝訴し、DeNAはグリーの著作権を侵害していないとする判決が下されています。グリーはこれを不服として最高裁に上告しましたが棄却されており、本件はDeNA側の勝訴で決着しています
DeNA側は即日控訴しており、裁判は高裁へと持ち込まれる形となったが、今回の判決に驚いているゲーム関係者は多い。ゲーム内容の模倣・類似が「著作権侵害」だと判断されたこと、そしてゲームのインタフェースやシステムについて「創作性」が認められたという点で、今回の判決が持つ意味は大きい。
争点となった「引き寄せ画面」とそのシステム
これまでゲーム開発者の間では、基本的にゲームの「模倣」や「類似」については、かなりのラインまで「セーフ」であると考えられてきた。さすがにプログラムやデザインなどを丸々コピーしていればアウトだが、それこそ「スペースインベーダー」の時代から、大ヒットしたゲームに他社が追随するというのはよくあることで、「ルールやシステム、インタフェースなどが似ている」程度で、著作権侵害と判断されることはまずなかった。
今回の判決では、針にかかった魚を引き寄せるシーンが一つの争点となった。どちらも画面中央にダーツの的のような同心円が描かれており、黒いシルエットで表現された魚が、的の特定の位置に来た時に決定ボタンを押すと引き寄せることができる。確かにパッと見た印象はそっくりに見える。
しかしよく見ると微妙な違いはある。例えば「釣り★スタ」では、魚が的の中心に近いほど引き寄せやすくなるが、「釣りゲータウン」では的が放射状に分割されたパネルになっており、当たりのパネルとハズレのパネルがある。また中心部はボーナスパネルになっており、ここでボタンを押すとスキルのようなものが発動する。デザインやシステムを丸々コピーしているというわけではない。
しかし今回の地裁判決では、これを「著作権侵害」だと判断した。判決文を読んだところ、判断に至った理由はおおむね次のようになる。
- 視点が水中に固定されている
- 三重の同心円で的を表現
- 魚を黒い魚影で表現
- 魚が同心円の一定の位置に来た時に決定キーを押すというゲーム性
特に重視されたのは、魚を釣り上げるという行為を表現するにあたって「他にも多数の選択肢があるなかで、意図的にこれらを選択した」という部分のようだ。
視点は水中でなく水上でもよかったし、「魚が同心円の一定の位置に来た時に決定キーを押す」というシステムについても、他に表現する方法はあった。加えてこれらの表現を取り入れたのは、携帯電話用釣りゲームでは「釣り★スタ」が初であり、「創作性の高い表現」であると判断された。ゲームのインタフェースやシステムについて「創作性」を認めたケースは過去にほとんど例がない。判決文には「相違は認められるものの、本質的特徴についての同一性は維持されている」とある。たとえ完全コピーでなくとも、「本質的特徴」が共通していれば著作権侵害にあたるということになる。
「引き上げ画面」以外については“セーフ”と判断
しかしグリー側の主張がすべて認められたわけではない。グリー側はもう一つの争点として、全体的な画面デザインやページ遷移の流れなどについても類似を指摘していたが、こちらについては主張が却下されている。
これらは以前の作品にもしばしば見られた「ありふれた表現」であり、アイデアレベルにすぎない、というのが大きな理由だ。また表現上の制約やユーザーの利便性を考えると、おのずと選択肢は限られてくる。携帯電話の画面で、ユーザーにとって遊びやすいインタフェースを追求すれば、ある程度完成型が似てしまうのは仕方がない、というわけだ。
総括すると、判断を分けたのは「多くの選択肢が考えられる中で、あえて似た表現を選択したかどうか」と、「これまでに前例のない表現だったかどうか」の2点だろう。逆に言えば、そうでないものは「ありふれた表現」、もしくは「表現ではなくアイデアレベル」であり、創作性は認められないということになる。
結局、ゲームのパクリはどこまで許されるのか
とは言え今後、今回の判決を他のゲームに照らし合わせた時に、どこまでが「創作性の高い表現」であり、どこまでが「ありふれた表現」もしくは「アイデアレベル」なのかを判断するのはやはり難しいと感じた。今回は「表現上の選択肢が他にあったか」と「前例の有無」が決め手になったが、それならゴルフゲームのパワーゲージは? 格闘ゲームのシステムは? ゲームにはこうした「伝統的な表現」が数多くあり、細かいところまで問い始めればきりがない。
あくまで筆者の感覚だが、今回の裁判も、判決文を読んだ限りではグリー側、DeNA側、どちらの主張にもそれぞれ一理あるように感じられた。おそらく高裁では、グリー側は「引き寄せ画面以外」の全体的な類似について引き続き主張するだろうし、DeNA側は逆に、引き寄せ画面の表現についても「ありふれた表現」であると主張するだろう。
結局はボーダーラインをどこに引くかであって、どこまでがセーフなのかはケースバイケースとしか言いようがない。特にソーシャルゲームの場合、現在主流となっているタイトルの多くが同じシステムを使い回しており、もしボーダーラインをシビアに設定すれば、最悪ほとんどのタイトルが著作権侵害ということになってしまう。
もちろん、すでにシステムが広まっているということで「ありふれた表現」と判断されるかもしれないが、仮にもし、どこかが「お宝の奪い合いはウチが元祖だ」とか、「カードコレクションの要素を取り入れたのはウチが最初だ」などと言い出したらどうなるのか。今回の裁判の行方を興味深く見守っているゲーム開発者は多いはずだ。
ゲームのインタフェースやシステムに「創作性」が認められたという点で、今回の判決がゲーム業界に与えた衝撃は大きい。しかし同時に、「模倣・類似は悪か?」という問題をあらためて投げかけた形にもなった。グリーが開いた禁断の扉、その奥に眠っているのは……。裁判の結果次第では、これまでの慣習や考え方も改めていく必要もありそうだ。
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