桐乃の想いを何とかしてやりたかった――「俺の妹」伏見つかさは今何を思う
アニメ2期も大きな反響を呼んでいる伏見つかささんの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』。6月に発売された12巻で物語が完結したが、著者の伏見つかささんに今の心境を吐露してもらった。
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』――電撃文庫から出ている伏見つかささんの作品は、間違いなく今の電撃文庫を代表する作品の1つといってよいだろう。
そんな「俺の妹」、6月7日に発売された12巻で物語が完結したが、勢いはとどまるところを知らない。4月から放送されているアニメ第2期は、第13話までテレビ放映、第14話から第16話は8月18日に全世界同時公開予定で、多くのファンがそれを待ち焦がれている。
少し目をほかに移せば、ニワンゴが6月から始めた無料小説配信サービス「ニコニコ連載小説」で、同じく電撃文庫の人気作品『とある科学の超電磁砲』とのコラボによる『俺の妹がこんなに可愛いわけがない 〜とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)〜』で、両作品が完全に融合してしまった新たな試みを見せていたり、作中の設定を生かした“芸能活動”という形でさまざまな企業とのコラボが行われていたりと、まさに縦横無尽で自由闊達な動きを見せている。
そんな『俺の妹』の著者、伏見つかささんと、アスキー・メディアワークス電撃文庫副編集長で同作品の担当編集である三木一馬さんに今の心境を聞いた。
桐乃の想いをなんとかしてやりたかった
―― 最終巻となる12巻が6月7日に発売されて、足かけ5年となる物語が完結しましたね。ご自身のこれまでの作品の中でも最も長期連載となった作品だと思いますが、書き終えられたいまの心境は?
伏見 どちらかというと発売日を迎えた感想になってしまいますが、やっぱり寂しいです。書き終えた後はとにかく“安心した”という気持ちが大きくて。かなりの難産でしたし、アニメでも最後までやるということで、完成させなくてはというプレッシャーが非常にきつかったです。
そのプレッシャーをこれからは感じずに済むんだなという安心感が当時は強かった気がしますが、いまはとにかく寂しいです。やっぱりこみ上げてくるものがありますし、読者の皆さんからの感想がとにかくうれしいです。
―― 12巻で完結というのは、早い段階からご自身の中で決められていたんですか?
伏見 はい。ある程度結末は考えてはいました。12巻で終わるだろうと具体的に固まってきたのは、アニメ第1期のBD特典映像を作っていたころのようです。最近、BD特典を見なおしてみたら、京介がまさにそのとおりのことを言っていて自分で驚いてしまいました(笑)
―― すでに最終巻を読まれた読者には既知の結末になるんですが、エンディングに向けての展開はどういう風に決めていったんですか?
伏見 ゲーム(編注:俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル)の脚本を書かせていただいた影響が大きいと思います。IFではあるものの「俺の妹」のさまざまな形のエンディングを書いてみて、桐乃の想いが完全に報われる結末が(IF設定の力を借りなければ)ひとつもなかったんです。普段表には出さないし、いろいろな事情があって、分かりやすい形で書いてあげることもできないけれど、彼女がとても主人公のことを想っているのを、僕は知っていたので、何とかしてやりたかった。ここまで踏み込むのを決めたのは、それがきっかけです。
―― 作者として女性キャラクターの中で一番ご自身が愛情を注いでいるキャラは?
伏見 最終的には桐乃になってしまいましたね。最初桐乃はムカつくキャラクターとして生み出したもので、僕自身も嫌いで、主人公と同じように見ていたところがあったんです。第1巻から、彼女の秘められた恋心を設定して、少しずつ描写してきたのは、嫌いなヒロインを何とか魅力的に書こうと苦心した結果でもありました。それが、ストーリーが進むにつれて、積み上げてきた描写が効果を発揮し出して、桐乃を好きだといってくれる方がどんどん増えてきて……本当にうれしかったのを覚えています。
とても恵まれたアニメシリーズで、スタッフには感謝してもしきれない
―― 4月からはテレビアニメの2期も放送されていて、ちょうどいいタイミングで最終巻が出るという流れになった印象ですが、これはあらかじめ意識されていた動きなんですか?
伏見 原作が終わるタイミングは、僕がある程度自分勝手に決めたので、偶然の部分が大きいのではないでしょうか。それでも完全に一致したわけではなく、読者の皆さんを少なからず待たせてしまったことは、本当に申し訳ないし、いまだに悔しいです。
―― アニメに関していうと、第13話まではテレビ放映し、第14話から第16話は、8月18日13時(日本時間)に全世界同時で公開(編注:日本では『俺の妹』公式サイト、ニコニコ動画、dアニメストアで公開)するという、アニメの作り方としてはまだ珍しい方式ですが、その辺りのご印象はいかがですか?
伏見 とても恵まれたアニメシリーズで、柏田プロデューサー、神戸監督をはじめ、アニメスタッフの方々には感謝してもしきれません。原作を最後までアニメ化するには、テレビ放映枠だけでは絶対に無理なことが最初から分かっていたので、今回のような変則的な形でのリリース方法はありがたいことです。
―― アニメ2期の盛り上がりは何が要因だとご自身でご想像されますか?
伏見 やっぱりアニメスタッフの力じゃないでしょうか。原作が良いから良いアニメになるというものでもないですし。『本気で作っていただいている』というのは、現場の空気で感じ取れます。僕はひたすら、足手まといにならないようにするので精一杯でした。
作品の内容の自由度の高さがバラエティに富んだ展開を可能に
―― 先ほど完結して「安心した」というお言葉もありましたが、作品のメディアミックス手法も多様ですよね。例えば企業広告のキャラクターとしての展開だったり、ブルーレイの一巻では書き下ろし小説が付いていたり、ニコニコ連載小説で展開されている『超電磁砲(レールガン)』とのコラボなど。こうした取り組みはどういった目標を掲げてされているんですか?
伏見 さまざまなコラボのお話を、ありがたいことに各方面からいただいていて、どんどん大ごとになっていくなぁ、もう止められないなぁ、と僕自身は思っています。
三木(担当編集) 作中が時世に沿ったというか最新のネタを結構取り入れたりとかして、そういう意味では廃れていくというか、色あせていくリスクがあるんですが、最初に「それは気にしないでいこう」という話を伏見さんからも仰っていただいていて。
メディアミックス展開をしていくときも作品によってはあまりできないようなものもあるんです。でも『俺の妹』は、そもそも話の内容自体が今風にちょっと好き勝手にやっているものだったので、「こういうことはできない」というメディア展開がこの作品にはあまりなくて、大変バラエティに富んだ展開ができたと思います。
作中のキャラクターがモデルになっていろんな企業の広告塔になるなんて、あまりいい印象を持たれない方もいるんですけど、桐乃はそもそも(作品の中で)モデルだし、いろんなものを紹介していくようなお仕事をやっているから、だとしたらいいんじゃないかとか。作品の内容の自由度の高さがあったのかなという気はしましたね。
―― こうした企業広告キャラクターとしての利用は、この作品が完結という形を迎えた後も継続して募集されるんですか?
三木 原作が終わってもアニメはまだしばらく続きますし、ご希望いただければもちろん。「桐乃さんはみんなの心の中にずっと生きてるぜ!」っていう……『AKIRA』の最終回で金田君が言ったような気持ちで頑張ります!
コラボするときは相手の作家さんは敵(笑)
―― 先ほど少し出てきたニコニコの連載小説では『超電磁砲(レールガン)』とのコラボになっていますよね。
伏見 好き勝手に書かせていただきました。
三木 まずニコ動で電撃文庫コンテンツを小説連載しようという話が立ち上がって、それでいま一番大変人気で支持を得ている作品の1つである「俺の妹、どうですか?」と伏見さんに相談しました。ちょうどそのとき『超電磁砲(レールガン)』とコラボをしていたものですから、『超電磁砲(レールガン)』キャラもちょっとだけ登場させるとかどう? という話をしたら、「分かりました」と!
あがってきたものはちょっとどころじゃなくて「ノベライズか!」と思うくらいすごい気合いが入ったものだったので、素晴らしかったです。
伏見 コラボ相手が、すごい作家さんなので、無難なものを書いたら誰も読んでくれないぞという気持ちがありました。方針としては、遠慮なく好きなように書いてみて、文句あるなら鎌池さん(編注:鎌池和馬さん)が何か言ってくるだろう、と、崖から飛び降りるような覚悟でした。怒られたら謝ろうと準備していたのですが、何も言ってこなかったので、許された……のかな……。次にお会いするのが、ちょっと怖いです。
―― これは6月中に4回掲載されるんですね。こういう派生の作業もまだしばらくはひっきりなしにあるでしょうと思いますが、ご自身の中で次回作の創作意欲などはどうですか?
伏見 さっそく新作を書いているのですが、まだ内緒です。
―― 『高坂桐乃』は、電撃文庫を代表するキャラクターの一人になっているのではないかと思いますが、そういう状況をご自身はどう見ていますか?
伏見 トラブルメーカーで、本当に申し訳ないです。他の電撃文庫作家さんたちには、ご迷惑ばかりかけている自覚があります。『また伏見のやつ、ろくでもない理由でニュースになってるよ』って、呆れられてしまっていると思います。
―― 重圧を感じられますか?
伏見 執筆しているときはまったく感じないです。トラブルメーカーで申し訳ないと、心から思っていますし、公共機関とコラボしていたりもするので、本当なら配慮して、自重しなくてはいけないところなのかもしれませんけれども……それで作品の内容を変えてしまうのはイヤなので、まったく気にしないで書いています。ときには変えざるを得ない場合もありますが、最初からぬるいものを書いたことはありません。
―― 伏見さんご自身の創作のモチベーションは何でしょう?
伏見 僕の一番のモチベーションは、やっぱりファンレターですね。このインタビューの前にもファンレターをいただきましたが、ファンレターで「面白かった」って言っていただくのが一番のやる気の源です。
―― それは例えばTwitterなどのソーシャルネットワーク上で交わされる応援のコメントよりも、ファンレターという、書くのもそれなりのコストが掛かるものにより重みを感じるということでしょうか。
伏見 どちらも嬉しいですよ。ただ、執筆に集中している期間はネットを見ることができないので、執筆中のやる気充電は、ファンレターであることが多いです。
そうそう、この前サイン会をさせていただいたんですが、本当に楽しかったですね。読者あってのお仕事だと思うので、読者が喜んでくれるのが一番うれしいです。
皆さんがいたから、5年間、書き続けることができました――
―― eBook USERという媒体の視点で少し気になるのが、電撃文庫の電子書籍への取り組みです。『俺の妹』はまだ電子書籍では出ていません。この辺りはいかがですか?
三木 詳しくは未定なんですが、タイミングを見てリリースしていきたいと思っています。
伏見 送り手側としては、どんな媒体で読まれようが構わないというのが本音です。物語の面白さが変わるわけではないので。あぁでも、本で読まれることを想定して改行調整しているので、一行の文字数が変わるのはちょっとイヤかもしれません。それでも、読者が増えるメリットの方が大きく見えます。
ユーザーとしては、手軽に買って読める電子書籍は、とても便利だと思います。
―― 伏見さんご自身は電子書籍で何かを読まれたりは?
伏見 Kindle Paperwhiteを持っているので、結構買っていますね。
―― 電子書籍を使っていてこれはストレスだなと思う部分はありますか?
伏見 やはり紙と比べるとページめくりの速度が遅いですね。小説はいいんですが、マンガを読むには遅いと思います。あと、発売日の問題が一番大きいです。僕、発売日に読みたいので、我慢できなくて結局実物を買ってしまうことが多いです。本棚を圧迫してしまうので、できるだけ電子書籍で買いたいとは思っているのですが。
―― いま、マンガや表現に関して動向が注視されるものがありますよね。例えば児童ポルノなどもそうですが、出版業界の動きで気になるものはありますか?
伏見 僕が好きで、面白いと思うものが、規制される世界にはなってほしくないと思います。
―― では最後に、作品のファンに向けたメッセージをいただけますか。
伏見 最後まで読んでいただきましてありがとうございました。皆さんがいたから、5年間、書き続けることができました。何度感謝しても足りません。「俺の妹」という作品で生まれたキャラクターたちを、ひとりでも好きになってくれたのなら、嬉しいです。これから新作に取りかかっていきますが、桐乃たちに負けないような魅力的なキャラクターを生み出してみせます。いつか彼らが、皆さんと出会う日を、楽しみにしております。
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