ポスターに隠された意味、いま明かされる宮崎駿・高畑勲伝説【ほぼ全文書き起こし】映画「夢と狂気の王国」公開記念鼎談(3/5 ページ)

» 2013年11月20日 22時23分 公開
[高橋史彦,ねとらぼ]

川上会長が高畑監督にインタビュー 「9割お説教」

川上 「かぐや姫の物語」は、高畑さんに怒られてあまり撮れなかったんですよね。一生懸命遠くから撮影して……。高畑さんに僕が2回くらいインタビュアーで挑戦したんですけど、どちらも、3時間か4時間のうち9割くらいお説教をされました(笑)。

齋藤 それ特典につけましょうよ

川上 僕は宮崎監督にも怒られたことがあるんですけど。宮崎さんが怒ったときって、理屈が通じないじゃないですか。何言ってももうダメって感じなんですけど。

石井 宮崎さんは怒ったあとに、パカーって笑うじゃないですか。あれでね、すべてが許されるんです。

川上 高畑さんは、それはないですよね。フォローゼロ(笑)。でも、なにか反応しても「なに言ってんだ」ってならないんですよ。怒ってる相手の言ったことも、深く聞いてくれたうえで、さらにそこを否定してくるんですよ。

石井 それが3時間かかるんですね。

川上 でも、ちゃんと聞いてくれるのはすごいと思いましたよ。

齋藤 「かぐや姫の物語」のプロデューサー西村義明は、僕らと同世代で、初プロデュースなんです。映画に関しては川上さんと同じです。

石井 8年作ったんですもんね。

齋藤 どこかでも言ってたけど、この映画を作ってる間に、子どもが小学校に上がったっていうね。

川上 「となりの山田くん」以降に、高畑さんの映画を作ろうとした人って、全部途中で挫折してるんですよね。

齋藤 討ち死にしてますね

石井 3、4人ぐらいいましたよね。西村くんだけが最後まで。

齋藤 今一番尊敬できるプロデューサーだと思ってますよ。

「夢と狂気、両方すごい」高畑勲伝説

川上 高畑さんは、石井さんもお付き合いされたんですよね?

石井 僕は「となりの山田くん」の後半にジブリに入社したので、そのあとに、いくつか短編的な企画とかを一緒にやらせていただきましたけど。よく鈴木さんとか、宮崎さんがね、「ほんとうにすごいのは高畑勲なんだ」と言うじゃないですか。そうなんですよ。夢と狂気、両方すごくてですね。これ、言っちゃって良いのかな……。「となりの山田くん」が、アニメってオールラッシュってあるんですね。もう全部完成という。当時はフィルムですから、フィルムも焼いて、棒つなぎになって完成しました。そのあとに、僕ら製作部にいたら突然、高畑さんがすごい顔でやってきて、「作画からやり直します!」と。

川上 これから上映するというのに(笑)。

石井 まさに1カ月後公開なのに、「やり直します」って。その理由が「となりの山田くん」は、「かぐや姫」もそうですけど、上下左右に余白があるんですよ。映画館で上映するときに上下左右が少し切られちゃう。「この作品は、余白まで作品なんです」「そのことをもっと早く言ってもらえれば、僕はその余白を意識して演出したはず」「やり直します」と。

川上 「山田くん」は余白だらけのやつですよね。その余白が、ちょっと切れるのがまずいと。絵が隠れるんじゃなくて、余白が減るのが許せないと。

齋藤 レイアウト変わりますからね。

石井 僕と隣にいた先輩は、もう泣くしかないですよね。怖くて、涙をぽろぽろ流しながら嵐が過ぎ去るのを……。もう1つは、ピアノの曲が出来上がったんですよね。それで「なにか音が違う」っておっしゃるんですよ。プロの方が「いや、これであってます」と。「違うと思います。調べてください」と。そのピアノを弾いた方は、アメリカにいたんですが、国際電話で伝えたら、その方が、「あ……私その当日、薬指を突き指しておりまして、ちょっと力が弱かったかもしれません」と。

齋藤 なるほど。

石井 で「やり直しましょう」って。これが、毎日ですよね。

齋藤 高畑監督の音楽に関する知識と造詣の深さと、音楽の演出としての力って、それは劇場に限らずじゃないですか、テレビシリーズも含めて。

久石譲を見出した高畑監督

川上 「風の谷のナウシカ」で久石譲を見出したのも、高畑さんなんですよね。

石井 ほかに候補の方が、2人有名な方がいて。双方すごいけど、「風の谷のナウシカ」はナウシカという少女の話でしょう。少女の心を奏でることができるのは久石譲さんですよ、って決まったみたいです。

齋藤 よく歴史を知ってますね。

石井 高畑さんは伝説の人ですからね。一緒に出雲大社に行った時も、お寺を指差して「石井さん、あの寺の間取りは分かりますか?」って言われたんです。

川上 それは教養を試されてるのか、外見から判断しろって言ってるのか(笑)。

石井 「外見から、中を想像できますか」「できません」と応じたら、鼻で笑われました。ただ、あとで宮崎さんにその話をすると、宮崎さんは若いころから言われていて、高畑さんに聞かれて答えられるようにしたんです。だから、すらすらすらすら間取り描けるじゃないですか。

川上 僕もジブリ見習いで入って、最初驚いたのは、ジブリの中で高畑さんの名前をすごく聞くんですよ。みんな高畑さんの話をしてる

石井 いないにも関わらずですよね。本社のほうにはいないですからね。

川上 いないんですよ。でも、みんな高畑さんの話をしてるんですよ。宮崎さんをはじめとして。

齋藤 それ「夢と狂気の王国」も、まさしくその通りじゃないですか。そこから、いつ出てくるんだろうなって、心待ちにする感じですよね。

「風立ちぬ」に突きつけられたもの

川上 「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」これはご覧になってどうでした?

齋藤 「風立ちぬ」は試写に限らず、2回ほど自分で見に行きました。それぐらい、いろんな意味で突きつけられました。とってもピュアで、すごく力強くて、そしてとっても清々しい。作中でも語られてますが、宮崎監督は72歳でね、ああいう映画をお作りになって。鈴木さんが65歳ですか? そういう、ある種のキャリアとか年齢になって、「こういう映画作れるんだ」と。本当に力の限りを尽くして、今自分はどう生きてるのかということを突きつけられたみたいな感じがありましたね。

川上 年齢的な安心感をすごく思いました。65歳と、72歳と、(高畑監督が)78歳ですよね。そうすると、自分から考えると、あと20年はやれるんだっていう。そういう勇気はもらえる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/06/news042.jpg ハードオフに1650円で売られていた“まさかの掘り出し物”→修理すると…… 見事な復活劇に「相場が上がってしまうw」
  2. /nl/articles/2501/06/news014.jpg 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら……3年半後、目を疑う結果に大反響 2024年に読まれた植物、家庭菜園記事トップ5
  3. /nl/articles/2501/05/news001.jpg 幼稚園の「名札」を社会人が大量購入→その理由は……斜め上のキュートな活用術に大反響 2024年に読まれた面白記事トップ5
  4. /nl/articles/2501/06/news043.jpg 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  5. /nl/articles/2501/06/news090.jpg 【編み物】10年前祖母が教えてくれた編み物、まさかの作品を生み出して…… 二度見必至の完成品に「信じられない」
  6. /nl/articles/2501/05/news006.jpg 目からウロコな“ビニール袋のたたみ方”が100万再生 超便利な“裏技”に「こっちの方が絶対いい」
  7. /nl/articles/2501/05/news033.jpg 「昔はモテた」と話す母→全然信じていない息子だったが…… 当時の“異彩を放つ姿”に驚き「わぁ!」「とても魅力的」【海外】
  8. /nl/articles/2412/27/news137.jpg 男性に「きみの友だちを紹介してよ」と言われてきた女性、40キロの減量に成功し…… 人生激変した姿が120万再生「自信がついてさらに輝いている!」【独】
  9. /nl/articles/2501/06/news046.jpg 北海道の用水路で“巨大な外来魚”を捕獲→さばいてみると…… 中から出てきた“ヤバすぎる物体”に大興奮「ずっと釘付け」
  10. /nl/articles/2501/05/news015.jpg 【編み物】白と黒の毛糸をひたすら編んでいくと…… “あの人気キャラ”の完成に「あなたは魔法使いですか?」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  2. 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
  3. 「すごい漢字!」 YouTuberゆたぼん、運転免許証公開 「本名の漢字」に衝撃の声続々
  4. 「麻央さんにそっくり……」 市川團十郎の11歳息子・勸玄の成長ぶりに驚きの声 「大きくなってる!」「すでに貫禄がある」
  5. チェジュ航空社長、日本語で謝罪 犠牲者は170人以上との報道 公式サイトは通常のオレンジからブラックに
  6. 「スマホ入荷しました」 ハードオフ店舗がお知らせ→まさかの正体に大横転 「草しか生えない」
  7. 母「昔は数十人もの男性の誘いを断った」→娘は信じられなかったが…… 当時の“想像を超える姿”が2800万再生「これは驚いた」【海外】
  8. 毛糸で作ったお花を200個つなげると…… “圧巻の防寒アイテム”完成に「なにこれ作りたい……!!」「美しすぎる!」と100万再生【海外】
  9. 「思わず泣きそう」 シャトレーゼの“129円クリスマスケーキ”に衝撃 「すごすぎない!?」「このご時世に……」
  10. 「デコピンを抱き寄せたのはもしかして」 妻・真美子さん第1子妊娠発表で大谷翔平の発言と行動に再注目 「“もう帰る?”は気遣っていたのかも」
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」