「辛くない時期はなかった」 月間1億2000万PVで得たもの/失ったもの 清水鉄平「はちま起稿」に狂わされた人生(2/3 ページ)
なぜはちま起稿は叩かれるのか
今回、インタビューにあたり清水氏への質問をTwitterで募集したが、まあ一言で言って、こちらの胃が痛くなるほどの「罵詈雑言の嵐」だった。結果はTogetterにまとめてあるので、勇気のある人は見てみてほしい。
なぜはちま起稿は叩かれるのか。叩いている人の意見(これも興味がある人はググってみてほしい)はさておき、清水氏はこう分析する。
「管理人の主張が見えるってのが大きいんだと思う。若いってのも追い打ちになった。身近な存在で目につきやすいから、叩きの対象になりやすい。逆の立場なら僕だって叩く」
また「ゲームの話題は特に荒れやすい」とも話す。特に2ちゃんねるまとめ時代には、以前は使わなかった「痴漢」「妊娠」といった“ゲハ用語”も多用し、ゲハ(ゲーム業界・ハード板)独特の空気を積極的に表現しようとした。「あくまで転載しているだけなので責任を追及されにくい」(書籍49ページ)という構造も「やりたい放題」を加速させ、アンチを増やす結果になった。
「結局は読者が求めてるからそういう傾向になってしまう。褒める記事よりも叩く記事の方が、良くも悪くも読者の反応が多いんですよ。その方が伸びるから、次はもっと反応がもらえるように持って行こうとする。それが続いていくうちにどんどん扇情的な書き方をするようになっていく」
これは「はちま起稿」に限らず、まとめサイト全体が抱える構造的問題なのかもしれない。本人に悪意はなくても無意識のうちによりアクセスを集めやすい、過激な方向へと進んでいってしまう。もし一線を踏み越えてしまっても、「転載しているだけ」だから責任を追及されることもない。アフィリエイトやバナー広告のように、PVがそのまま収益に還元される広告を設置していればなおさらだ。最初からそれを承知で悪どくPVを稼いでいるサイトも多いと清水氏は指摘する。
「お金」ではないモチベーション
だが「はちま起稿」の場合、更新のモチベーションは「カネのため」ではなかった。本当にお金が欲しかったら、アダルト広告を貼ったり「魔法石無料プレゼント!」といった詐欺スレスレの広告を載せたり、いくらでもやり方はあるという。だが、はちま起稿はそういった分野には手を出してこなかった。貼ってある広告も、他のまとめサイトに比べれば健全だ。
「読者が楽しんでくれる、ずっとそれだけがモチベーションだった。もちろん目に見える数字として、PVやアフィリエイトも気にはしていました。それも読者の反応の1つなので。僕自身が寂しい人間だから、自分がしたことに対して読者からリアクションが来るのがとても嬉しかったんです」
ただ、それでも読者に喜ばれたい一心で、結果的に扇情的な記事や不謹慎なネタを載せてしまった時期はあった。北海道から上京し、取り憑かれたようにサイト更新に没頭していた2010年4月〜2011年9月。この時期について清水氏は、本のなかでこのように書いている。
“はちま起稿の人気が大きくなるほど、もっと読者を増やすためにがんばらなければいけない。苦しいけど努力すればしたぶんだけブログは成長していく(略)。この1年半はまるで強迫観念に囚われたように記事を書き続けていたのです”(53ページ)
速報性を重視し、裏も取らずに誤報を掲載したり、明らかに一線を越えた不謹慎なネタもかまわずに掲載していたのがこの時期だ。
“右肩上がりで伸びるアクセス数に天狗になっていた僕は怒濤の連続更新を言い訳に、「記事を修正したり謝罪に時間を使うなら、1つでも記事を多く記事を書いた方がマシ」と言い訳し、批判や指摘に耳を貸しませんでした”(53〜54ページ)
しかし、本ではまるで過去のことのように書かれているが、現在もこの体質が完全になくなったとは言えないだろう。「記事が読まれる=読者に求められている」という点を評価軸にしていくかぎり、この問題を完全に絶つのは難しい。
「無断転載」悪意はなし 「アクセスを誘導している」と解釈
著作権意識についても聞いてみた。これもまとめサイトとは切り離せない問題の1つで、毎日のように記事を“転載”されている我々メディアとしても他人事ではない。
「はちま起稿では記事の要点だけを抜き出して、続きはリンク先で読ませる『引用』の範囲となるような書き方をするように(記者に)指示をしてる。Webの記事は見られてなんぼで、はちま起稿はそのお手伝いをしているという認識です。適切なポリシーの下で運用されることで一定の価値があると考えています。例えば『ねとらぼは知らなくてもはちま起稿は見てる』って人が、はちま起稿で記事にすることでねとらぼを知り、ブックマークに入れるかもしれない。流入とロスとどちらが多いかを一概に語ることはできません」
はちま起稿の引用スタイルは基本的に「サイトのキャプチャ画像+本文の一部」で、明らかにブラックな「全文転載」や「商用サイトからの画像無断使用」は2ちゃんねる転載禁止以降避けるようになった。このあたりは前述していた「トラブルが起きないよう、昔よりも健全なサイトにしていきたい」という思いから改善された部分だ。
ただ、今でも雑誌のフラゲ(発売日前に流出してしまった情報)をネタにしたり、明らかに“引用”の範囲を越えた記事の転載など、グレーな部分は残っている。
「よく聞かれるけど訴えられたことは1度もないです。だからといって好き勝手にして良いとは思っていません。誤って他者に迷惑をかけてしまった場合は申し訳ないと思います。正式な著作者による削除・修正要請には応じています。ただ、はちま以上にえげつない引用をするブログはたくさんあるので、それに安心して甘えてしまっている部分は確かにありますけど……」
現在の基本ポリシーは「掲載時には細心の注意を払う」だという。「明らかにこちらに非があるような場合は、言ってくれればすぐ直します。ただみんな直接言わないでTwitterや自分のブログで文句言ったりする。直接言ってくれよ! って思う時はある」
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