「アトピーだけど、こんなふうに生きてるよ!」――そんな情報が集まったとき、私たちは初めてちゃんとアトピーと向き合うことができる
ムズムズをワクワクに。
「私、アトピーなんです。最近やっと自分の病気と向き合うことができて、アトピーの人のためのサイトを作ろうと思うんです。私はまったくプログラミングとかできないので、やりたいことだけがあって、まだ全然実現の可能性が見えないんですけど、頑張ってみようって思ってるんです」――2013年7月26日、Open Network Labが主催したスタートアップイベントの懇親会で、筆者と同年代くらいの女性がエビの串揚げを食べながらこんなことを言っていた。
それから約3カ月。Facebookにメッセージが届いた。
こんにちは!ご無沙汰しております。
以前イベントでご挨拶させて頂いた、野村です。覚えてらっしゃるでしょうか……?
あのとき、アトピー患者向けサービスを立ち上げる予定で、ローンチしたらご報告させて頂くと申しておきながらも、結構時間が経ってしまいました>_<
やっとβ版をローンチすることができたので、今さらかもしれませんが、この度ご連絡させていただきました!^ - ^
http://atoping.com
アトピーの人が日常で起こるアトピー状況を抑える為の対策・小技口コミサイトです。
野村 千代
2013年11月、アトピーの人の悩みをアトピーの人と一緒に解決するクチコミサイト「untickle(アンティクル)」β版が生まれた。そして、それから半年以上を経て2014年9月10日、スマートフォンアプリ(iOS)「untickle」が正式リリースされた。
untickleは、自分と似たアトピー症状の人がどのような対策を行っているかなどの情報を見えやすくするサービス。アトピーとうまく付き合っていく方法を見つけやすくしてくれる。
つい1週間ほど前にリリースしたアプリのダウンロード数は、現在200ほど(2014年9月22日時点)。今後、Web版、Android版と順番にリリース予定だ。
「アトピーだって、わくわくする毎日を送りたい」――このサービスは、そんな思いで作られた。これを立ち上げたのは、untickle代表取締役社長の野村千代さん。彼女自身もアトピー性皮膚炎を持つ患者の一人であり、彼女はこれまでに3度の寝たきり生活を経験している。「アトピー」と聞くと皮膚の炎症のみを想像する人もいるが、実際には命にかかわることもあるという。
野村さんがアトピーと向き合うことができたのは、2013年5月に起こった3度目の寝たきり生活のとき。それまでは、自分がアトピーであることを認めるのが嫌で、「アトピーじゃないもん!」と、無理やり自分の心をなだめながら薬を塗っていたという。
「普通の人になりたかったし、やっぱり向き合いたくなかったんです。でも、3回目に倒れたとき、この波が3年おきにきていることに気付きました。そのとき、今アトピーと向き合わなければ、同じことがまた3年後に起きてしまうと危機感を感じました」(野村さん)。
それからというもの、野村さんは自分のアトピーについて学び始めた。本を読み、サイトを回り、アトピーについて調べた。しかし、情報は漠然とたくさんあるにもかかわらず欲しい情報は見つからなかったという。野村さんは、ただ、自分の症状・環境に合った情報が欲しかった。
既存の情報はつまらないものばかり
「ネットや本の情報は、どれも治療に関する情報ばかりなんです。それって、なんかこうわくわく感もないし、つまらないなと思いました。最初から完治を目指すのではなく、まずは自分の症状や気持ちをうまくコントロールしていこうのが、このサイトのメッセージです」――野村さんは、untickleのコンセプトをこう語る。
例えば、野村さんは頭皮にアトピー症状が出やすいタイプ。そのため、同じような症状を持つ人がどのようなシャンプーやリンス、整髪剤を使っているのかという情報が何よりも有益な情報となる。逆に、頭皮にアトピーがない人に使っているシャンプーを聞いても意味がない。
また、アトピー症状がある人は、生活上のさまざまな不便があるという。その1つが、食事だ。食事の材料は基本、有機栽培のものがいいとされている。人によっては、有機栽培以外の食材を口にすると、症状がひどくなってしまうこともあるという。そうなると、外食するのにも場所を選ぶ。
野村さんのオフィスがある渋谷にも、外食できる場所は1〜2件しかない。しかし、彼女は「これでも良い環境だ」という。聞けば、ものを口にできるお店が周りに1件もない地域も少なくないそうだ。その場合は、毎朝早起きをして自分でお弁当作る。これは、体力的にも負担が大きい。また、東京で無添加の食材を手に入れ続けるということは金銭的にもかなりの負担が掛かる。「お金がないときちんとしたアトピーケアができない」と言っても過言ではないというのが現状だ。
このように、アトピー症状を持った人にはさまざまな「制限」がつきまとう。食べるものも、着るものも、シャンプーも、化粧品も、日常の多くに「我慢」という言葉が頭をよぎる。「とにかく制限がかかるんです。それが面白くないんです」――野村さんは言う。
ムズムズをワクワクに♪
こうして生まれたのが「untickle」だ。untickleは、自分と似た症状の人たちが普段どのようにアトピーケアをしていのるかが分かるSNSサイトである。
始めに、ニックネームと年齢・症状の程度やアトピーエリアを登録し、アカウントを作成する。ここで登録する「アトピー症状の程度」は、日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を基に決定し、アトピー症状が出るエリアの登録などついては自分の体験や友人のヒヤリングによって決定している(近日実装し、アップデート予定)。
では、untickleによって生活はどのように変化するのか。実際に、untickleで解決された例を見ていきたい。
「無印良品のタートルネックは、首と腕の部分がコットンでできているため、かゆくなりにくい」――untickleには、こんな知識が投稿されている。この投稿は、首にアトピー症状を持つ多くの人たちにワクワクをもたらす。今までかゆくて着れなかったタートルネックも、もう諦める必要はない。野村さん本人も、この情報に出会ったとき「おしゃれできるじゃーん!」と、大きなワクワクを得たという。
また、アトピー症状を悪化させないためには、お風呂上がりに髪の毛を素早く乾かすことが重要。untickleを開けば、「キッチンペーパーを使うと乾きやすくなる」といったような知恵がある。
untickleには、他にも「授乳中、かゆみがひどくてゆっくりソファーに座って授乳することができない」「肘の症状がひどく、クリームを塗っても良くならないのだが何か対策を知っていますか」などといった具体的な質問が。untickleはそんなリアルな悩みを解決してくれる「知恵袋」となっているのである。
野村さんは、untickleについて次のように話す。「アトピーの人だって、もっと全然ワクワクできるはずです。『アトピーだけど、こんなふうに生きてるよ!』という情報がいっぱい集まったとき、私たちは初めてちゃんとアトピーと向き合うことができるのではないでしょうか」(野村さん)。
野村さんに初めて出会ってから数カ月。彼女は会社を作り、仲間を作り、アイデアを形にしていた。「untickleによってきっかけを提供することで、その人自身のアトピー人生が気軽になればうれしいです」と、野村さんは言う。
今までおしゃれしたくても我慢しなければいけなかった、友だちとおしゃべりしながらおいしいごはんを食べたくても一緒に行ける場所がなかった……でも、これからはみんなの知恵袋「untickle」で、ちょっとワクワクが増えるかもしれない。
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