「怖すぎ」「完全にホラー」と騒がれていた「ブラック・ジャック」ピノコのリアルすぎるロボットに会ってきた

コワッチョンブリケ!

» 2015年03月28日 10時00分 公開
[朝井麻由美ねとらぼ]

 マンガ「ブラック・ジャック」に登場するピノコを完全再現した早稲田大学のロボットが、先日ネット上で「怖すぎ」、「完全にホラー」、「コワッチョンブリケ」と話題になっていた。これは「漫劇!!」が、去る2月18日〜22日に上演した舞台「『漫劇!!手塚治虫 第一巻』〜手塚治虫の名作が舞台で蘇る!〜」に、早稲田大学理工学術院の高西研究室(高西研)が協力したもの。暗い舞台照明の中で撮影された写真はなるほど確かに、夜道などでは出会いたくない類いのそれだ。とはいえ、このピノコロボットは、作中のブラック・ジャックによる手術シーンを、原作通りに再現するのを可能にした画期的なロボットだという。早稲田大学理工学術院の高西研究室で、噂のピノコに実際に会ってきた。

 研究室の扉を開けると、さっそくいた。


画像 ちなみに、舞台上ではピノコの手術着姿しかお披露目されておらず、私服姿は本記事初公開

 近くで見ると、怖……くはないような、意外とかわいいような。


画像 おめめぱっちり

 ちなみに、「怖い」とネット上で騒がれていた写真と並べてみると、違いがよく分かる。


画像画像 もはや別人

 「近くで実物を見ると意外とかわいらしいんですよ。舞台でじかに観たお客さんからは『かわいかった』と言っていただけてるんですから(笑)」と語るのは、「漫劇!!」の演出家でもある工藤龍生氏(Human Art Theater代表)。工藤氏は、かれこれ20年も前から、手塚治虫作品の舞台化を夢見て、「生身の人間をいかに舞台上で漫画のキャラクターに近づけられるか」を研究し続けてきた。早稲田大学高西研との最初のコラボレーションは、2年前に上演した「ブラック・ジャック」の「人面瘡(じんめんそう)」。手塚作品をよりリアルに舞台化するために、このとき初めて、舞台にロボット技術を取り入れた。

 「最初は飛び込みだったんです。ロボットの最先端の研究をしているのが早稲田の高西研究室さんだったので、舞台作品を一緒に作っていただけないか、と身ひとつでお願いしに行きました」(工藤氏)

 今回の、ピノコに取り入れられたロボット技術の一番の見どころは、手術中に、バラバラになっている手足や臓器が勝手に動く点。

 「姉のコブの中で、手足や臓器がバラバラの状態になっていたピノコを、ブラック・ジャックが手術で取り出して人間の体の形につなげていく、というシーンなんですが、ここで実際に子役を使うわけにはいかない。でも、演出でごまかさずに、作品通りにシーンを作り上げたい。こういった、役者だけでは達成できない部分をロボットにやってもらってシーンを作る、というのが今回の舞台で目指したものです。これは高西研究室さんのご協力なしにはできないことでした」と工藤氏。

 培養液の中に入った手足と臓器(以下の動画参照)は、舞台裏で無線で遠隔操縦している。

動画が取得できませんでした
ピノコの動く手足

画像 手足を動かすコントローラー

 このバラバラのパーツを、舞台上のブラック・ジャックがつなげていく。ちなみに、ブラック・ジャックの手術用眼鏡に仕込まれたカメラにより、手術されている最中のピノコが舞台奥のプロジェクターに映り、客席から細部までよく見える工夫がされている。


画像 これが舞台上のワンシーン。写真右上が、プロジェクターに映されている手術中の様子

 「舞台上で役者さんが演技しやすいように、組み立てが容易なように工夫しています」(高西研の博士・橋本健二氏)というように、実際に目の前で解体し、組み立ててもらうと、はめ込むだけでパーツをつなげられるような単純な作りになっていた。


画像 腕。サクッと差し込める


画像


画像 肺。単純なコードでつながっている


画像画像 解体されしピノコ

 高西研で目指しているのは、「ピノコのようなヒューマノイドロボットが、舞台にいろどりを加えることで、文化の発展の一助になるように」(橋本氏)。そして、「漫劇!!」は、「今後も手塚作品の上演を続けていく上で、原作に忠実に、手塚先生の意志を舞台上で正しくお伝えしていきたい。次の公演は7月を予定していますが、今回の試みで、また少しそれに近づけたと思います」(工藤氏)と、舞台芸術におけるリアルさをより追求していくのだという。「ホラーだ」と騒がれたピノコロボットは、日本一原作に忠実な手塚治虫作品の舞台を完成させるための、努力の結晶なのだった。

朝井麻由美(@moyomoyomoyo)。フリーライター・編集者・コラムニスト。ジャンルは、女子カルチャー/サブカルチャーなど。ROLa、日刊サイゾー、マイナビ、COLOR、ぐるなび、等コラム連載多数。一風変わったスポットに潜入&体験する体当たり取材が得意。近著に『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA中経出版)。構成書籍に『女子校ルール』(中経出版)。ゲーム音楽と人狼とコスプレが好き。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた