「怖すぎ」「完全にホラー」と騒がれていた「ブラック・ジャック」ピノコのリアルすぎるロボットに会ってきた
コワッチョンブリケ!
マンガ「ブラック・ジャック」に登場するピノコを完全再現した早稲田大学のロボットが、先日ネット上で「怖すぎ」、「完全にホラー」、「コワッチョンブリケ」と話題になっていた。これは「漫劇!!」が、去る2月18日〜22日に上演した舞台「『漫劇!!手塚治虫 第一巻』〜手塚治虫の名作が舞台で蘇る!〜」に、早稲田大学理工学術院の高西研究室(高西研)が協力したもの。暗い舞台照明の中で撮影された写真はなるほど確かに、夜道などでは出会いたくない類いのそれだ。とはいえ、このピノコロボットは、作中のブラック・ジャックによる手術シーンを、原作通りに再現するのを可能にした画期的なロボットだという。早稲田大学理工学術院の高西研究室で、噂のピノコに実際に会ってきた。
研究室の扉を開けると、さっそくいた。
近くで見ると、怖……くはないような、意外とかわいいような。
ちなみに、「怖い」とネット上で騒がれていた写真と並べてみると、違いがよく分かる。
「近くで実物を見ると意外とかわいらしいんですよ。舞台でじかに観たお客さんからは『かわいかった』と言っていただけてるんですから(笑)」と語るのは、「漫劇!!」の演出家でもある工藤龍生氏(Human Art Theater代表)。工藤氏は、かれこれ20年も前から、手塚治虫作品の舞台化を夢見て、「生身の人間をいかに舞台上で漫画のキャラクターに近づけられるか」を研究し続けてきた。早稲田大学高西研との最初のコラボレーションは、2年前に上演した「ブラック・ジャック」の「人面瘡(じんめんそう)」。手塚作品をよりリアルに舞台化するために、このとき初めて、舞台にロボット技術を取り入れた。
「最初は飛び込みだったんです。ロボットの最先端の研究をしているのが早稲田の高西研究室さんだったので、舞台作品を一緒に作っていただけないか、と身ひとつでお願いしに行きました」(工藤氏)
今回の、ピノコに取り入れられたロボット技術の一番の見どころは、手術中に、バラバラになっている手足や臓器が勝手に動く点。
「姉のコブの中で、手足や臓器がバラバラの状態になっていたピノコを、ブラック・ジャックが手術で取り出して人間の体の形につなげていく、というシーンなんですが、ここで実際に子役を使うわけにはいかない。でも、演出でごまかさずに、作品通りにシーンを作り上げたい。こういった、役者だけでは達成できない部分をロボットにやってもらってシーンを作る、というのが今回の舞台で目指したものです。これは高西研究室さんのご協力なしにはできないことでした」と工藤氏。
培養液の中に入った手足と臓器(以下の動画参照)は、舞台裏で無線で遠隔操縦している。
このバラバラのパーツを、舞台上のブラック・ジャックがつなげていく。ちなみに、ブラック・ジャックの手術用眼鏡に仕込まれたカメラにより、手術されている最中のピノコが舞台奥のプロジェクターに映り、客席から細部までよく見える工夫がされている。
「舞台上で役者さんが演技しやすいように、組み立てが容易なように工夫しています」(高西研の博士・橋本健二氏)というように、実際に目の前で解体し、組み立ててもらうと、はめ込むだけでパーツをつなげられるような単純な作りになっていた。
高西研で目指しているのは、「ピノコのようなヒューマノイドロボットが、舞台にいろどりを加えることで、文化の発展の一助になるように」(橋本氏)。そして、「漫劇!!」は、「今後も手塚作品の上演を続けていく上で、原作に忠実に、手塚先生の意志を舞台上で正しくお伝えしていきたい。次の公演は7月を予定していますが、今回の試みで、また少しそれに近づけたと思います」(工藤氏)と、舞台芸術におけるリアルさをより追求していくのだという。「ホラーだ」と騒がれたピノコロボットは、日本一原作に忠実な手塚治虫作品の舞台を完成させるための、努力の結晶なのだった。
朝井麻由美(@moyomoyomoyo)。フリーライター・編集者・コラムニスト。ジャンルは、女子カルチャー/サブカルチャーなど。ROLa、日刊サイゾー、マイナビ、COLOR、ぐるなび、等コラム連載多数。一風変わったスポットに潜入&体験する体当たり取材が得意。近著に『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA中経出版)。構成書籍に『女子校ルール』(中経出版)。ゲーム音楽と人狼とコスプレが好き。
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