ロボットに心を持たせるべきか――“機械と心”の近未来描くマンガ「ミガワリメーカー」:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第20回
「失敗作」として廃棄された過去を持つロボットと、バグで「自我」を持ってしまったロボットが織りなす“身代わり”の物語。「かわいいロボットマンガ」以上のメッセージを持つ作品です。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。本連載がきっかけでまんが好きに拍車がかかり、とうとう5月5日の「COMITIA(コミティア)108」に行くまでになってしまった虚構新聞の社主UKです。
今これを書きながら、怒涛の更新を繰り返すねとらぼの「ニコニコ超会議3」特集を読んでいるところです。面白い企画が数々出展されている中でも、とりわけ社主は「才能の無駄遣い」系が好きで、VR(バーチャルリアリティ)ヘッドセット「Oculus Rift」を使ったミクさんとの握手会は本気で体験してみたいと、この滋賀の地から血の涙を流しながら眺めています。
今はまだ握手だけですが、これを全身に拡張すればただでさえ天使のミクさんがいよいよ実体を伴ってこの地上に降臨するわけで、ますます夢が広がるばかり。Oculus Riftをかぶらなくても、動くねんどろいどのようなロボットも出てきそうな勢いです。
そこで今回はかわいいロボットが出てくるマンガ「ミガワリメーカー」(〜1巻、以下続刊/恩田澄子)をご紹介しましょう。現在「少年シリウス」(講談社)にて連載中です。
本作は先月発売されたばかり。軽く作品をパラパラめくってもらうだけでも十分分かるのですが、こがわみさき先生のようなやわらかいタッチの、万人に好かれるとてもかわいらしい画風です。ただ今回「これは紹介案件!」と即断したのは、本作が単なる「かわいいロボットマンガ」以上のメッセージを持っていると確信したからです。
舞台は料理や介護、育児などの雑用をこなす「ミガワリ」と呼ばれるロボットが流行するようになった近未来。主人公は外見をさまざまな人間に変えて依頼をこなしていく少女型ロボット・7号。本作はこの7号が依頼者の笑顔を何よりの糧として、ダンボールをかぶった助手のロボット・ろーど君と一緒に日々仕事をこなしていくという物語です。
こう書いてしまうと何だか普通のマンガのように思えそうですが、全くそうではありません。2人が住んでいるのは人も近寄らないさびれた町はずれの無人地区。なぜなら7号とロード君はどちらも人間に捨てられた「ゴミ」なのです。7号は亡くなった女性のミガワリとして、今はどこかに消えた博士に作られたものの「失敗作」として廃棄された過去を持ち、ろーど君もまたバグとして自我を持ってしまったことで捨てられた元・労働ロボットです。
2人は「人を笑顔にするため」にミガワリの依頼をこなしているのですが、それは言い換えれば、人から見捨てられないようにするため。何事にもシニカルなろーど君の言葉を借りるなら「そりゃ人に感謝されている内はゴミじゃないからね」ということでもあるわけです。
「機械と心」という長年のテーマ
毎回依頼者の悩みに応じて頑張って立ち回る7号。そしてそのいずれもがとてもよくできた心温まるストーリーなのですが、作品全体に通底する何とも淡い哀しさは何なのだろうと、社主はこの数週間ずっと考えてきました。そしてそれは「機械と心」という長年のテーマでした。
最初にも書いたように、恩田先生のかわいい絵柄に引きずられて軽く流してしまいそうなのですが、本作は少し前ならSFの分野で済んだけれど、まもなく私たちが本気で取り組まざるを得ないこの問題をしっかりとらえています。
「ミガワリメーカー」の世界では、まだ普通のミガワリは自我を持っていません。けれど、イレギュラーとは言え、7号やろーど君は自我を持っています。だから単なる使い捨ての機械ではなく、人に必要とされたいという一心でミガワリの仕事をこなしているんです。もうこうなってくると、私たちが生きる動機とほとんど変わりません。第2話に登場する依頼者の少女が7号に「ミスするなんて……/ロボットのくせに人間みたい/修理が必要なんじゃない?」と言い放つシーンなど本当に示唆的です。
ロボットに心を持たせるべきか、それともただの労働機械でとどめるべきか――本作「ミガワリメーカー」が描く近未来は、ちょうどその分岐点の時代にあります。
「ロボットに心を」あなたは賛成派ですか?
ところで最近私たちの世界では「ロボットバブル」が起こっていると言われています。福島での原発事故などをきっかけに、人間のように判断して作業できるヒューマノイドへの注目度は上昇。あのGoogleも昨年、日本の人型ロボットメーカーSCHAFTなど7社のロボティクス関連企業を買収して、ロボット事業に本格参入しました。
一方でGoogleは、モバイル端末に人間と同じような空間・運動把握能力を持たせる「Project Tango」という取り組みも進めていてNASAの球形ロボットに組み込むことも明らかにしています。こういったソフトとハードを統合した先にあるロボットの未来に社主はわくわくします。
欧米ではロボットを、軍事利用や3D――dull(単調)、dirty(汚い)、dangerous(危険)――に従事させるための機械として重視する傾向があると言われています。その背景には研究予算獲得という現実的な問題に加え、アイザック・アシモフのロボット3原則「ロボットは人間に危害を加えてはならない」「人間の命令に服従しなければならない」「この2つに反しない限りにおいて自己を守らなければならない」の影響もあるでしょう。映画「2001年宇宙の旅」に登場した完全無欠の知能「HAL9000」の反乱やターミネーターにおいては、ロボットを自律させることに対する恐怖のようなものが感じられます。
ちなみに7号が誘拐される「ミガワリメーカー」第3話では、助けにやってきたろーど君に殴られた誘拐犯が「こいつイカレてんぞ!!」と叫んでいることから、どうやら本作もまたこの3原則が守られている世界のようです。
これに対し、日本においてはロボットが心を持つことに抵抗がない、いやむしろ進んで友達のような親しみあるロボットを実現させようという機運が強いのは、哲学、宗教観の違いもあるでしょうが、「鉄腕アトム」や「ドラえもん」などマンガの想像力が寄与した側面が大きいのではないでしょうか。ホンダのASIMOも、企画のスタートが「アトムを作れ!」だったことは有名です。
人とロボットの関係、心の在り方についての想像力は、ロボット3原則を順守しようとする欧米と異なり、ケンカもできるドラえもんを古くから見慣れた私たちの方がより柔軟だと思います。そして、そのマンガを下敷きにした豊かな伝統が脈々と受け継がれた結果が、ミクさん握手会のような「あいつら未来に生きてんな」につながったことは想像に難くありません。
ミクさん握手会に使われた「Oculus Rift」の創業者が、日本の作品は「まったくベクトルが違う」と話したように、こういう「才能の無駄遣い」こそが、機械と共存できる明るい未来につながっていくのかもしれません。労働の代替という機械本来の目的を達成するだけであれば、7号やろーど君の持つ自我はまさに無駄(バグ)でしかないのだから――。
繰り返しになりますが、「ミガワリメーカー」が描く近未来は、ロボットに心を持たせるべきか、それともただの労働機械でとどめるべきかというちょうどその分岐点の時代です。そしてその世界は、まさにこれからの10年私たちが真剣に考えないといけないところまでやって来ました。もはやSFではないのかもしれません。
「自我を持ったロボットは人間に対して反乱を企てるかもしれない」という恐怖にも似た悲観論もあります。あるけど、おそらく本連載を読んでくださるマンガ好きのみなさんは「ロボットに心を」に賛成派なんじゃないでしょうか。と言うか、7号みたいなかわいいロボットが俺の嫁になるんだったら、社主はロボットに反乱起こされて人類が滅亡してもいいです。
かわいいは正義! 何だかんだ言ってこれに勝る名言はありません。先日幕張でミクさんと握手した人なら、きっとそれを身をもって実感したことでしょう。ちくしょう。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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