高度に発達した出落ちマンガ「出落ちガール」 思わずノリツッコミしたくなります虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第18回

「坂本ですが?」「聖☆おにいさん」など「マンガ界の一大トレンド(?)になっている「出落ち」のなかで、社主がお気に入りなのはこの「出落ちガール」です。

» 2014年04月04日 10時00分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 2004年に開設した本紙サイトもおかげさまで今月1日に10周年を迎えました。単なる一個人サイトであった本紙がここまで続けてこられたのも、多くの読者のみなさんからの支えがあってこそのものです。この場をお借りして改めて感謝申し上げます。今後とも本紙をよろしくお願いいたします。

画像

 さて、今回取り上げるのは鈴木小波(さなみ)先生の短編集「出落ちガール」。掲載誌は「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)。同誌からのピックアップは本連載第2回の「僕らはみんな河合荘」(宮原るり/1〜5巻、以下続刊)以来です。そう言えば、「河合荘」は今月からアニメが放送されますね。アニメを視聴する参考になるかもしれませんので、ご興味あればこちらもご覧ください。社主は真弓さんにもてあそばれたい今日この頃です。

 本作「出落ちガール」ですが、まずはこの「出落ち」という言葉について少しだけ。分かっていそうで実はなかなかはっきりと説明しにくいこの言葉、簡単に言えば「出だしのインパクトが強い」という感じでしょうか。ただ、お笑いで「出落ち」と言われるのは、最初がオチになってしまって、それ以降笑える部分がない状態を指すことが多いので、必ずしも良い意味とは限りません。本紙でも以前「現代のベートーベン、佐村河内守さん、ヒロシマ語る」という記事を掲載しましたが、これなどはまさに写真オンリーの出落ち記事です。

 本作に収録されている出落ちな短編は全部で7本。まずはこの中から特に社主お気に入りの3本を軽くご紹介します。

画像 脱エバ!より
  • 脱エバ!

 タイトルは三途の川の渡し賃・六文銭を持たない亡者の衣服を剥ぎ取る老婆「脱衣婆(だつえば)」から。どんなお話かと言うと、川のほとりで若い武士の主人公と、エバと名乗る女の子が野球拳をしながらどんどん服を脱いでいくという……って、それ出落ち! あっ、そうでした、このマンガはそういう短編集でした。

  • クーパー伊東さん

 身長130センチ、あだ名は「チビ太」。少年・太海草太がつまづいたミニクーパーのミニカーの中から現れた黒タイツ一丁、身長10センチの女の子。草太がつけた名前は「クーパー伊東」。確かに登場第一声は「はい〜〜〜〜」だし、黒タイツだし、ミニクーパーから出てきたし……って、それ出落ち、出落ちですよ! そうでした、このマンガはそういう短編集でした。

  • ヒトミとゴクー

 山の主・ゴクーの怒りを鎮めるため、村人がいけにえとして差し出した娘・ヒトミ。涙が真珠に代わるという不思議な力がヒトミにあると知ったゴクーは、彼女を襲って泣かせようとするものの、全く泣かない。そこでゴクーは作戦を変えて、ワサビたっぷりの寿司を食べさせたり、部屋の中で煙を炊いたり、ねこをたくさん部屋に招き入れたり四苦八苦。もちろんタイトルの由来は「人身御供」からですね。というか、先にそのタイトルがあって、このストーリーですよね、うんうんなるほどなるほど……って、やっぱり出落ち!

出落ち、だけじゃないんだな、これが

画像 ヒトミとゴクー

 普段ノリツッコミなどしたことがないので、大変お見苦しい紹介になったことをお詫び申し上げます。とまれ、こんなふうに本作は全てこんな出落ち、あるいは「そのままじゃないか!」とツッコまずにはいられない短編ばかりが収まっています。

 それではもうこの数行の紹介文さえ読んでしまえば事足りるのか、最初の数ページだけ読んで「それ出落ち!」とツッコんで本を閉じてしまえばいいのかと言うと、そんなはずはありません。そんな安直なマンガを本連載で取り上げるはずがありません。

 本作はタイトルこそ「出落ちガール」ではありますが、収録作全てにおいて最大の見どころは何よりそのオチなのです。一見冒頭で出落ち作品と見せかけておきながら、実のところ、その最後の落としどころまでのストーリー展開がどの作品も大変すばらしい。まさに「お見事!」と言うほかありません。

 ふざけた野球拳から始まったはずの「脱エバ!」には心温まるエンディングが、「クーパー伊東さん」にはSFのような奇想天外なエンディングが、「ヒトミとゴクー」にはまるでおとぎ話のようなエンディングが――、いずれの短編にもそれぞれ異なる多彩な結末が用意されていて、まさに短編集のお手本とでも言うべき秀作ぞろいです。最初に少し触れたように、「以後楽しめるところがない」という意味での「出落ち」でないのです。むしろそこから先こそを本当に読んでほしい。そう言わずにはいられません。

画風も見どころですよー

 また本作もう1点の見どころは、鈴木小波先生の個性的な画風です。コミカライズ作品「ブラック★ロックシューター イノセントソウル」(全3巻/KADOKAWA)のころから、その独特のタッチと画力の高さに定評ある鈴木先生ですが、「クーパー伊東さん」に見られるようなコマ表現や、「ヒトミとゴクー」「万引きGガール」に登場する人外キャラの造形など、ストーリー以外にも見どころはたくさん。

 いろいろなジャンルの集合体「短編集」という形態で、その短編どれもにこの画風がマッチしていることを考えると、今後熱血、リリカル、コミカル、いろんな方向での連載がありえそう。そういう意味ではこれからの鈴木先生の活躍に注目しています(ちなみに既刊「ホクサイと飯」(全1巻/KADOKAWA)は、マンガ家の日常と飯作りを主軸に据えた半自伝的(?)フィクションという、これまたユニークな作品です)。

高度に発達した出落ちマンガは秀逸な一般マンガと見分けがつかない

 さて、最後に少しだけ最近のマンガにおける「出落ち」について。

画像 聖☆おにいさん 第1話「ブッダの休日」 by 中村光 is licensed under a Creative Commons 表示 - 改変禁止 2.1 日本 License.

 ここ4、5年マンガ界全体においてもこの種の出落ちマンガが1つのトレンドになっているような気がします。例えば現代に降臨したイエスとブッダの日常を描いた大ヒット作品「聖☆おにいさん」(中村光/〜9巻、以下続刊)などはすでにこの設定が出落ちですし、何事にもクールな高校生・坂本のキャラが話題を呼んだ「坂本ですが?」(佐野菜見/〜2巻、以下続刊)もその1つでしょう。少女マンガでも「俺物語!!」(河原和音・アルコ/〜5巻、以下続刊)は表紙のインパクトですでに出落ち感が漂っていました。

 「最初はいいとして、長く続けていけるんだろうか……?」と余計な心配をしてしまいそうなこれら出落ちマンガですが、実際「聖☆おにいさん」がこれほど続いていることを考えると、かの名言「高度に発達した出落ちマンガは秀逸な一般マンガと見分けがつかない」かもしれません(←今考えた)。出落ちマンガは扱い方こそ難しいものの、まだまだ未知の可能性を秘めていそうです。

 記事を執筆するとき、その扱いにくさから出落ちを敬遠している社主としては、鈴木先生のような起承転結の「起」と「結」の両方で読者をうならせることのできる記事を書きたいと願うところでもあります。本紙次の10年に向けてぜひその発想の秘訣を鈴木先生からご教授願いたいと思いつつ、これにて筆を置きます。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/24/news014.jpg 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. /nl/articles/2407/25/news017.jpg 「これが生えたら庭終了」 プロも降参する“何をやっても全部ムダな最恐雑草”の正体が400万再生「ほんとこれ厄介」「土ごと変えないと不可能」
  3. /nl/articles/2407/26/news151.jpg イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
  4. /nl/articles/2407/25/news012.jpg 夜、山中の側溝をのぞいてみたら…… 思わず声がもれる“あらぬ生物”の姿に「ヤバいw」「生で見てみたい」
  5. /nl/articles/2407/25/news007.jpg 水槽の中で卵を発見→慎重に見守って1カ月後…… 小さな命の誕生に飼い主も視聴者もメロメロ「まじで可愛すぎるほんとに可愛い」
  6. /nl/articles/2407/25/news138.jpg 「お父さんはママのオタクだった」 母親が「元・おニャン子」のタレント、アイドルとオタクが“つながっちゃいけない理由”を問いかける
  7. /nl/articles/2407/25/news050.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」 中1の“斜め上の解答”に「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2407/26/news119.jpg 工藤静香、15歳の愛犬が天国へ 感謝の言葉つづるも……「泣いてばかり」「心が追いつかない」と悲痛な思い
  10. /nl/articles/2407/26/news008.jpg 外国人が来日して“3年後”…… マクドナルドの“オーダーの変化”に「胃袋が日本人のそれなんよw」とツッコミ
先週の総合アクセスTOP10
  1. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  2. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない
  3. 「お釣りで新紙幣来た!!!!!と思ったら……」 “まさかの正体”に「吹き出してしまった」「逆に……」
  4. 赤いカブトムシを7年間、厳選交配し続けたら…… 爆誕した“ウルトラレッド”の姿に「フェラーリみたい」「カッコ良すぎる」
  5. ダイソーで買った330円の「石」を磨いたら……? 吸い込まれそうな美しさが40万回表示の人気 「夏休みの自由研究にもいいのでは?」
  6. 「これ最初に考えた人、まじ天才」 ダイソーグッズの“じゃない”使い方が「目から鱗すぎ」と反響
  7. もう笑うしかない Windowsのブルースクリーン多発でオフィス中“真っ青”になった海外の光景がもはや楽しそう
  8. アジサイを挿し木から育て、4年後…… 息を飲む圧巻の花付きに「何回見ても素晴らしい」「こんな風に育ててみたい!」
  9. スズメの首は、実は……? 「心臓止まりそうでした」「これは……びっくり!」“真実の姿”に驚愕の声
  10. 【今日の計算】「8×8÷8÷8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」