清原被告に「いろんな思いはある」けど 「かっとばせ!キヨハラくん」の漫画家・河合じゅんじさんが休載から現在までを振り返る

「諸般の事情」により休載、そして新作でのアンサー漫画は何を思って描いたのか。そして現在は……?

» 2016年05月17日 09時57分 公開
[加藤亘ねとらぼ]

 「どうしよう」――。「コロコロアニキ」(小学館)で「かっとばせ!キヨハラくん」を連載していた漫画家・河合じゅんじさん。清原和博被告(当時容疑者)が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されたと聞いて最初に思ったのは連載のことだった。

 清原被告は覚せい剤取締法違反(所持、使用)罪で起訴され、5月17日に初公判を迎える。その公判の数日前、ねとらぼの取材に河合さんは当時を振り返り、そして率直な気持ちを語ってくれた。

河合じゅんじ先生

河合じゅんじ先生 「コロコロアニキ」5号。「いつかのホームラン」も読める

 「かっとばせ!キヨハラくん」はプロ野球をパロディにしたギャグ野球マンガ。1987年から「月刊コロコロコミック」(小学館)で連載がスタートし、途中「ゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくん」「モリモリッ!ばんちょー!!キヨハラくん」とタイトルを変え、2014年に創刊された「コロコロアニキ」で復活連載していた。しかし、4号で「諸般の事情」により休載が発表され、現在発売中の5号には新作の「いつかのホームラン」が掲載された(関連記事)。

 河合さんが清原被告逮捕の一報を聞いたのは5号掲載分の打ち合わせをした1週間後だった。話の筋も決まっていたが、すぐに「諸般の事情」により休載が決定しすべてが白紙に。しかし、ただ休載するのではなく、河合さんの新しい作品を載せるということになった。


河合じゅんじ先生 河合じゅんじ先生(5月13日取材撮影)。清原被告逮捕の報道についてコメントを求められたが、すべて「その立場じゃない」「作品に専念したい」と考えてコメントはしなかったという

 「かっとばせ!キヨハラくん」もそうだが、あくまでもプロ野球のパロディであり、実在の選手そのものを描いているわけではない。復活連載が決まった当時、すでに清原被告に対する疑惑がウワサされていたのも耳にはしていたが、キヨハラくんとは別の話。読者も昔のままのキヨハラくんを望んでいたし、連載1本目の掲載後は安心したという声が多かった。しかし、パロディとはいえ実際の事件からの影響は無視するわけにはいかなかったようだ。

河合じゅんじ先生河合じゅんじ先生 4号に掲載された「かっとばせ!キヨハラくん」より

 当初新作はクワタくんなりマツイくんなり、既存のキャラクターの話にしようと思ったが、白々しいし作品としてツギハギだとして、自分自身を描くことにした。河合さんは近所の少年野球でコーチとして手伝いもしているので、その話にしようと担当編集者との打ち合わせで決めると、あとは一気に描き上げたという。

河合じゅんじ先生河合じゅんじ先生 「いつかはホームラン」扉絵と休載のお知らせ

 5号に掲載された「いつかのホームラン」は、心ここにあらずといった表情を見せる作者が、少年野球の一生懸命なプレイに一喜一憂するというとてもシンプルな内容だった。基本、ト書きのセリフはなくただ状況と表情で物語が進んでいく。セリフがほぼない分、どう感じるかは読者にゆだねられていたが、作中背番号3をつけた凛々しい少年が豪快なスイングでホームランを放つシーンでは、どうしても清原被告の若かりし姿を重ねた読者も多かったようだ。少年たちの躍動する姿に思うところがあったのか、マンガの中の河合さんはひと言「元気だして、やろうかね」と去っていく。

河合じゅんじ先生 背番号3の少年がホームランを打つシーンに読者は何を思ったのか

 休載のお知らせには作者のメッセージとして「いろいろ考えて、こういう漫画にしました。気持ちは入っております」とあり、かつ扉ページには「渾身のアンサーコミック」と題されていたこともあり、読者はいやがおうにも事件を想起したともいえる。5号が発売されるとさまざまな憶測と感動を呼び話題となった。しかし、当の作者である河合さんはそれほど事件のことは意識していなかったと明かす。

 「清原さんに似た子がいたら読者も考えることもあるかなとは思いましたが、実はそれほど深く考えてなかった」と、感動を狙っていたわけでもなかったし、一部メディアが伝えているような清原被告本人に読んでもらいたいということも一切なかったと断言した。「感動させる気はなかったけど、(そういう感想を寄せてくれたことは)意外だったし、描いたかいがあった」と河合さん。しかし、あくまでも休載に対してのアンサーであり、「本人に読んでほしいなんて上から目線な意図はない」。「確かにいろんな思いはあるし、悲しいなとは思う」と淡々と答えてくれた。

 新作の最後、「元気出してやろうかね」も特定の誰かに向けたものではなく、「どうしよう」と困惑し、休載が決まって落ち込んだ時に思った自分の心境をそのまま描いただけなんだとか。

河合じゅんじ先生 17日にある初公判について聞くと、「立ち直ってほしい」とは思うが、「何も言うことはないし、あったとしても、やはり言う立場ではない」とまっすぐな目で答えた

 実は河合さん、休載が決まりその代わりに新作をとなった時、のど元まで「今回はいいです」と断りの言葉が出かかったと明かす。あまり時間があるわけでもないし、思うがままに描くしかできないため、ネームの段階でも「これが面白いのかな」と思いながら描いていた。ただ、コロコロアニキ編集部からは「今しか描けないもの」だと評価された。

 「今まで描いた漫画は必ず(担当編集者から)『ここが分かりにくい』などの修正なり指摘が入るのですが、これはひとつも修正が入らなかった。初めてなんの直しもなくそのまま通った」と、ようやくここで少し自信をもったという。だが、読者がどう思うかは分からなかった。「計算とかできなかったし、よく思われようとか思っていない。気持ちだけは入れて書こう」と思った。前述した「いろいろ考えて、こういう漫画にしました。気持ちは入っております」のメッセージはこうして生まれた。

 「かっとばせ!キヨハラくん」もいつかは書きたいと思うが、今は次回作の打ち合わせをしているという河合さん。7月15日発売の「コロコロアニキ」6号では再びプロ野球のパロディ漫画を構想している。「レトロな野球ギャグ漫画しか描けないから」と河合さんは謙遜するが、野球の楽しさを少しでも感じてほしいとの思いはブレていない。「まだ誰を主人公にするかは全然決まっていないんだけどね」と飄々(ひょうひょう)としていたが、きっとクワタくんやマツイくんなどいつもの顔が変わらず登場してくれるのではないだろうか。そしていつか……。

 「いつかのホームラン」が掲載されているコロコロアニキ第5号は7月14日まで発売中。今のところ、コミックスへの収録予定はない。

河合じゅんじ先生

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