「スケベ」「汚い」「お説教臭い」を払拭 「おっさんレンタル」はなぜ5年間客が途絶えないのか、創業者を取材
「イケてると勘違いしているおっさん」が1時間1000円でレンタルできるサービス。
1時間1000円で中年男性をレンタルできるサービス「おっさんレンタル」。なぜ人々はおっさんを求めるのか――。おっさんレンタル創業者の西本貴信さんを取材しました。
おっさんが嫌われる理由を払拭した「おっさんレンタル」
「イケてると勘違いしているおっさん」を1時間1000円でレンタルできるサービス、おっさんレンタルは今年で設立5年目。多くのメディアにも取り上げられ、現在では60人から70人のおっさんが在籍しています。最近では、夏コミにおっさんをレンタルした話や、手術の立会いにおっさんをレンタルしたツイートが話題になりました(関連記事)。
取材に応じてくれたのは、おっさんレンタルCEOの西本さん。爽やかな笑顔が印象的なイケメン系おっさんです。
――早速ですが、なぜおっさんレンタルをはじめたのでしょうか
西本:最初は「おっさん」の地位向上が目的でした。「おっさん」という言葉自体が既に面白いというか、軽視されているところがあると思うんですよね。それを何とかしようと思って。僕の本業はアパレル関連なのですが、今ではおっさんレンタルの方が忙しいです(笑)。
――1日何件くらいの依頼が来るのでしょうか
西本:1日だと30件から50件くらいでしょうか。人気のおっさんになると1人で月に50〜60件対応している人もいます。
――すごい人気ですね! スバリ、おっさんレンタルのシステムってもうかるんでしょうか
西本:あんまりもうからないですねぇ。でもお金だけではない部分が大きいのでやっていけています。
――お金ではないというのは
西本:依頼を受けてお伺いさせていただくおっさんや、僕自身も楽しいということです。所属してもらうおっさんは必ず僕が面接しているのですが、その時は黒髪で地味だったおっさんが、1年後には茶髪にしていて垢抜けていたり。おっさん自身も成長できるんですよね。
――所属のおっさんはどんな方が多いですか
西本:仕事を定年退職した人もいますし、会社員という方も3割位はいらっしゃいます。あと意外と高学歴な人も多いですね。あとは元NHKのアナウンサーとか芸能関係の人もたまにいます。ただ「イケてると勘違いしているおっさん」を集めているので、完璧すぎる人はいません。だっておっさんですから(笑)。
――サイトを見てみると、「ドリームメーカー」さんや「アンクル=マンデー 千葉」さんなど、ユニークなニックネームの方も多いですね
西本:あれはおっさん自身に付けてもらっています。プロフィールなんかに関してもおっさんに任せているので、「センスないなぁ」っていうところがあっても、おっさんらしいと思っていただけたらと。
――あと、どのおっさんもレンタル料は1時間1000円なんですね
西本:ランクをつけたりしないのもおっさんレンタルの良さなので、みなさん一律1時間1000円でお願いしています。
――おっさんは西本さんが探してくるんですか
西本:いいえ、スカウトはしません。基本的には自分で応募してきてもらうという形です。
――先ほど面接という話がありましたが、具体的にはどんなところを見るのですか
西本:おっさんが嫌われる条件は「スケベ」「汚い」「お説教臭い」の3点です。この3つに当てはまらないかどうかは必ず見ます。もっと言えば「(お客さんと)同じ目線に立ってしまう」「最後まで聞いてから『でもね』と逆説の持論を展開してしまう」このあたりもダメです。完全に勘違いしているおっさんは基本的に落としています。
――いろんなおっさんやお客さんがいると思いますが、トラブルもあったりしますか
西本:お叱りを受けることはあります。原因は大体「お説教臭かった」とか「上から目線だった」といった、面接時に確認する事項が多いです。うちは3回クレームの入ったおっさんとは契約解除をするようにしていますが、今のところ解除になったおっさんは居ません。ちなみにおっさんにクレームが入ったと伝えると、「この度は誠に申し訳ございませんでした」みたいな、“いかにもおっさんらしい反省文”が送られてくることもありますよ。あとはおっさんには「加盟金」を収めてもらうことにしているので、それもトラブルの抑止力になっているかもしれません。
――加盟金とはどういうものですか
西本:所属しているおっさん全員に月額1万円を収めてもらっています。僕がおっさんレンタルを始めた当初は、若い男の子が相談に来るのかなと思っていたんです。しかしいざ始めてみるとお客さんのほとんどが女性でした。するとやっぱり下心をもって応募してくるおっさんがいるんですよ。その人達に「月額1万円の加盟金がかかる」と伝えるとすぐに身を引きます。例えばこれが3000円や5000円なら意味が無いと思うんですが、「月額1万円を払ってまでおっさんレンタルを続ける人」というところでトラブルの防止にもなります。以前有名なお笑い芸人の方も所属していましたが、芸能人だからといって特別待遇にはしないので、ちゃんと1万円収めてもらっていました。
「遠い存在(他人)」だからこその話しやすさ
――先日、手術の立会いをおっさんに依頼したという人が話題になっていましたが、そういった依頼はよくあるんですか
西本:僕の場合、手術の立会依頼はないですね。入院している方から「話し相手を兼ねてお見舞に来てほしい」とか「散歩に付き合ってほしい」という依頼はよく来ますし、僕自身は、がん患者の方が入られているホスピスに行ったこともありますよ。基本的に僕の場合はお伺いする前に詳しい内容を聞かないようにしているので、行ってから依頼内容が分かるということが多いです。
――変わった依頼も来そうな気がしますね
西本:映画のエキストラや再現ドラマのオーディションを受けるといったものもありましたね。他にはライブのチケットが余ったので同行してほしいっていうのもあります。最近でいうと、若い男の子から「SNS用に写真をとってほしい」とお願いされて撮りました。意外と友達にはお願いできないんだそうです。
――どんなお客さんが多いですか
西本:お客さんのほとんどは20代後半から50代くらいの女性なので恋愛のことが多いですよ。旦那さんや恋人の相談をよく受けます。中には泣いてしまう人も多くて、やっぱり女性が泣く姿はいくつになっても慣れませんね。あと「地方から出張で来たので、一緒にご飯を食べてほしい」という方も多いですよ。
――ちょっと変わったお客さんもいらっしゃいますか
西本:もちろんいらっしゃいますよ。ずーっと黙っている方とかね。そういう時はずーっと僕が一方的にしゃべってるんですけれども(笑)。
――海外のお客さんもいらっしゃいますか
西本:台湾、中国、ベトナム、韓国のお客さんは多いですね。今日もこの後海外から僕に密着するメディアが来てくれるらしいんですが、これまでにAP通信とかロイターの取材など海外メディアの取材を受けているのでそういうところで見てくださっているのかもしれません。
――グローバルですね。広報なども西本さんのお仕事なんですか
西本:そうです。おっさんレンタルには24時間依頼が来ます。それをなるべく早くおっさんに伝えてあげないといけないし、こういう取材のお願いもありがたいのでどんどん受けていますから結構忙しいですよ。
――今後の夢などがあれば教えてください
西本:オリジナルドラマ化とかされてみたいですよね〜。あとはおっさんが人生相談とかに乗るラジオもやってみたくて。でもラジオってスポンサーが必要らしいので、高須クリニックの院長先生とかスポンサーになってくださらないかな(笑)。真面目なところでいうと、おっさんレンタルで集まったお金で何か社会のためになることをやりたいです。
――社会のために、具体的にはどんなことをしたいですか
西本:おっさんと話していて分かったのは、「お金の使い方が分からない」っていう人が多いんです。そういう人に対して「こうすれば社会の役に立つよ」とか「自分のためになるよ」っていう使い道を教えてあげたいですね。そうすれば社会にお金も回りますし、おっさんも幸せになれると思います。
――最後におっさんレンタルがヒットした理由は何だと思いますか
西本:やっぱり「遠い存在(他人)だからこその話しやすさ」、でしょうかね。おっさんだからこそ気軽に話せるし、相談できる何かがあるのかもしれません。家族のことや、就職のこと、仕事のこと、友達関係など気軽に相談してほしいです。あともし興味を持ってくださったという方がいらっしゃったら、ぜひ僕の本「おっさんレンタル」日記を読んでいただけるとうれしいです。
最近は今日すぐに対応してほしいという場合に利用できる「クイックおっさん」のサービスも始めたという西本さん。取材日にもクイックおっさんに「家具の解体」の依頼の電話がかかってきていました。
と、ここで約束の時間が。実は今回の取材も西本さんをレンタルして行っていたので、1時間分の1000円をお渡しして爽やかにお別れしました。見ず知らずのおっさんとお話して、時間が来たらさっぱりと別れられることも今の時代に合っているのかもしれません。
(Kikka)
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