デマニュースを流して小銭を稼ぐ、Webメディア運営SLG「Fake it to Make it」を紹介 デマサイトができる仕組みをリアルに描く
直訳すると「だまして稼げ」。
『Fake it to Make it』は、今や熾烈な競争がおこなわれている「Webメディア」を運営するシミュレーションゲームだ。本作は無料のブラウザゲームであり、サイトに訪れれば誰にでもプレイできる。ゲームとしては単純であるが、全編英語となっているので、導入の段階でつまずきやすい。できるだけわかりやすく、ゲームの基本的な流れを説明していきたい。
小遣い稼ぎのサイト運営
まずゲームを始めると、運営者の名前やナビゲートを担当するガイドなどを決定する。ここでポイントとなるのが「Webメディアで得た利益で何を買うか」の目標を設定するというオプションだ。楽器、アパートの一室、車など目標はランク分けされている。導入の段階から「小銭を稼ぐ」というゲームコンセプトが提示されているのが面白い。後述するが、このほかにも本作は随所にメタ的な視点を持ち込む一風変わったタイトルだ。最初は一番安価である楽器の購入を目標にするのが無難だろう。
さっそく導入を終えてWebメディアを作成するところまでたどり着くと、さきほど選択したガイドから「頑張って利益を得てくれ。そのためには真実にこだわる必要はない。デマニュースの方が拡散されやすいし、時間もかからない。事実に基づかなくてもいい。」と痛烈な皮肉のこもったアドバイスを浴びせられるのが印象的だ。
次にWebメディアを作ることになる。かなり細かいカスタマイズができるが、重要なのは「Creditability(信頼性)」と「Money(費用)」のバランスだ。無料のレンタルサービスを借り、無料のテーマを使用してもいいが、この状態だとあまりに信頼性がなくアドセンスサービスを利用できない。有料ドメインを取得し、いわゆる“メディアっぽい”レイアウトのテーマを有料使用することで、無事に広告表示のあるWebサイトを立ち上げることができる。
信頼をとるかドラマをとるか
規模は小さいながらもWebメディアを開設した次は、ガイドから「他サイトからニュースをふたつコピーしてこい」と指示される。ゲーム内には記事が大量に存在しており、どれをコピーするかはプレイヤー次第。記事ごとに「Creditability(信頼性)」と「Drama(ドラマ性)」が存在する。信頼性が高くドラマ性も高い“優良記事”も存在するが、大体の記事はどちらかの要素しか持ってない。事実に基づいていれば面白さは低く、面白い記事の多くは事実に基づいていない。信頼性は一定水準さえあればいいので、ついドラマ性の強い記事を選んでしまうだろう。気をつけたいのは、ただ面白そうなニュースをコピーすることには意味がないという点だ。誰に読んでもらうWebメディアにするのかを意識し、そうしたイメージに基づいて記事をコピーする必要がある。この編集方針に関しては後述するSNSでの植え込みが大きく関係してくる。とりあえずは、コピーする記事のテーマに対して一貫性を持たせるよう意識しておけばいい。
コピー記事は手軽に量産できるが、読者が存在しなければ記事は読まれない。次なる一手は「Plant An Article」をクリックし、記事をSNS上でシェアをすることだ。SNSでシェアをするためには、新しくアカウントを作ってもいいが、一定のフレンド数を持つ安価なアカウントを購入するのがスムーズ。またシェアをするためにはなんらかのコミュニティを選ぶ必要がある。SNS上にはざっくり「パープル」と「中立」、そして「オレンジ」コミュニティが存在する。パープルは富裕層が多く、現政権を支持し、移民などを嫌う思想を持つ人々。オレンジは現政権を嫌い、子どもと動物と自由を愛する人々だ。中立コミュニティはその名のとおり、中立の政治思想を貫く人々となる。中立思想を持ちWebメディアを運営するならば、生活やスポーツ、娯楽に関する話題を扱うことになるだろう。
しかし、あなたが本気でWebメディアでお金を稼ぎたいなら、特定の政治思想を持つ読者をターゲットにしたほうが手っ取り早い。移民が事件を起こしたというニュースを、パープルコミュニティに貼ればスポーツニュースを扱うのがバカらしくなるほどシェアされる。信用性がかなり低くとも、子どもに対する補助金が減るというニュースをオレンジコミュニティでシェアすれば、手っ取り早く小遣いが稼げる。中立的に事実に基づいたニュースを流すメディアを1か月運営して得られるお金が、事実を考慮せず政治思想を色濃く出せば1日で手に入る。あなたがただ楽器を稼ぎたいだけならば、後者を選ぶ方が圧倒的に手っ取り早い。ネガティブな内容のニュースは強い影響を持つが、時に特定に政治思想を称賛する記事を投稿し、読者を幸せにする必要もある。アメとムチを使い分ける発想が重要なのだ。どちらにせよ、重要なのは読み続けられることだ。ひとつの記事がシェアされたところで得られる金額はたかが知れている。伸びる記事を日々量産していくことが、利益を得るうえで不可欠となる。
ゲームを進行させていけば、コピーせずに他社の記事を“参考にして”作成することもできる。自身で記事を作成すれば、信頼性とドラマ性のバランスを微調整できるなど内容を細かく設定しやすい。自分で書く場合には、真実性を持たせるためにデマの一部に真実を混ぜたり、架空の人物の発言を引用したりするなど、幅広いオプションが利用可能。一方で、記事の執筆は、コピーするよりも圧倒的に時間がかかる。どちらを志向するかはあなたの編集方針次第だ。
闇へ引きずり込まれるシミュレーター
『Fake it to Make it』は、デマニュースサイトがいかに生まれるかというプロセスを丁寧に、かつ自然に描く社会派ブラウザゲームだ。一度火がついた記事は勢いよくシェアされていき、その広がりを見ているだけでも楽しさを感じるだろう。そして、多くの人々にシェアされ、いわゆる“バズ”状態になった際には記事に多くの賛否両論のコメントがつく。プレイヤーがしているのはあくまで他サイトからコピーしているというだけであるにもかかわらず、妙に承認欲求が満たされる。自分がインターネット上に出したものが人々の感情を揺るがし、その反応を見る楽しみは、どれだけ手口が汚くとも快感を得る可能性がある 。そうした承認欲求を満たすために、記事はどんどん事実を追わなくなっていく。人々を傷付けることなど意図していないが、そういった内容の記事を量産する。ただ見てもらいたいがために、話題性の強いニュースをコピーしていく。そうするうちに、なんとなく始めたWebメディアは、無垢な悪意で染まっていく。そして手元には、大金が残るというわけだ。こうした流れがごく自然に導入されているという点では、本作は優良な反面教師 といってもいい。
興味深いのは、本作のコンセプトに賛同できないプレイヤーがメタ的な視点でゲームを進めることになるというデザインが、実際のフェイクニュースサイトの運営に照らし合わされているように見える部分だ。フェイクニュースを流布するという行為をテーマとした本作においては、ほとんどのプレイヤーは「Webサイトを運営している自分」になりきるのではなく、「Webサイトを運営している自分を見つめる自分」としてゲームを進めていくことになるだろう。視点のレイヤーが異なるので、ゲーム内でモラルに欠けた行動をとっても、良心の呵責は痛まない。本来の自分は良識があり、行動しているのはあくまで見守っているもうひとりの自分だと思い込む。それゆえに、悪意のあるニュースを書いても心は痛まないし、攻撃対象の人々に憎悪もない。切り離されたもう一人の自分が汚れ仕事をして、注目が集まれば本来の自分が喜びを得る。もちろん、本作はフィクションなので心が痛まないのは当然だろう。しかし、メタ視点からデマニュースを発信することで、葛藤や苦しみにそれほど煩わされずサイトを運営できるという心理は、現実の運営に共通するものがあると思えてならない。人間が気付かぬうちにWebメディアの闇に染まる可能性を示唆しているという点は、恐ろしくもある。
『Fake it to Make it』は、ゲームとしては単調でそれほど面白くない。しかしデマニュースを流すWebメディアの運営者という職種を体験できる点では、極上のシミュレーターだといえる。Webメディアがデマサイトにならないためには、事実に基づいて報道するのは大前提として、承認欲求という人間感情をコントロールし、執筆するニュースに対する責任を、書き手自身が負うことが重要なのかもしれない。
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