「完全なファン目線で、どこまで凝れるか」 別次元のクオリティで『HiGH&LOW』世界を再現した「ハイローランド」誕生の秘密(2/4 ページ)
“普通のお兄ちゃん”が作った感を追求したTHE LAND
――山門から入ったところにTHE LANDがある、という設計でしたね。
本来はTHE LANDへの入り口はよみうりランドさん側から脇の細いルートを使ってほしいということで。だったらこの山門を通さないとダメだろうと。じゃあ山門の額も「達磨一家」に変えなきゃということになったんだけど、この山門自体は本物なんですね。だからよみうりランドの人からは「クギは打たないでほしい」と言われたので……さて、クギを打たずにどうやって固定しようって頭を抱えました(笑)。
――山門の色ももともとあの赤色だったんですか?
そうです。狙ったかのようなカラーリングですよね。ただ、山門だけだと唐突なんで、あれの周りをいかに達磨一家っぽい雰囲気にしていくかっていうのを練っていった感じですね。山門の前に巨大な太鼓が置いてあったじゃないですか。あれはPVの撮影で使ったもので、それが倉庫に残ってたんです。バカバカしくていいなあと思って、「何に使えるか分かんないけど、なんか使おうよ」ということで持ってきてた。で、お客さんが並ぶところにはインパクトがほしいから、ここに置いちゃおうと。あれ、実際はスチロールでできていて軽いんですよ。雨ざらしにして耐えられるものじゃないんで、ちょっと丈夫になるように加工して、ワイヤーで引っ張って固定してます。
――道を歩いてたらいきなり巨大な太鼓が出て来るのはすごいインパクトでしたよ!
「山門の脇の太鼓」っていうのは当初のプランからずっと入れたかったんです。本当はお客さんが入るたびにドーン! って鳴らしてほしかったんですけど(笑)。スタッフが達磨の法被を着てるのも最初から決まってましたね。夜は篝火(かがりび)だろってことで「絶対無理だね……」って言いながら当初のスケッチには篝籠とかも描いてたんですけど、これはやっぱり無理でした。
――火を使うのはダメでしょうねえ……。あの山門の前で篝火が燃えてるのは見たかったですけど。
あと山門の横に板塀があるんですけど、あれも自分たちがいつも番組のセットを作るときに使ってるものです。でもそんなに何枚もないので、和風に見えてコストも圧迫しない素材……って考えたときに、木製のフォークリフト用パレットを使おうと。他の番組向けのセットでも、パレットってよく使うんですよ。安くて見た目も面白いんで。木にプラスチックに金属と、素材も選べますし。
――あのパレットにはびっくりしました。
ああいう素材を使うのも、もともとのコンセプトに沿って「若い連中が誰かを頼って資材を集めて会場を作った」っていうことの表現なんですよね。板塀が足りないときに彼らはどうするだろうかって考えたときに、近所の資材置き場に行って、そこのおっちゃんに「これくれよ」って話をつけたりとか、そうやって集めてきたんじゃないかと。山王街のステージにしても、ダン・テッツ・チハルの三人が近所の建設会社を回って鋼板とかを集めて作ったというテイストですね。
――ダンさんやテッツやチハルがやっていそうなことをトレースしたわけですね。
夏祭りだからステージの周りを紅白で飾るんだけど、山王の連中がやってることなんだから、これは紅白の幕ではないだろうと。提灯はいいとして、鋼板で作った壁にペンキで紅白の模様を描いたほうが絶対に面白い。それで実際に塗るんですけど、これもきれいに描いちゃダメだと。このへんは協力会社の人たちに塗ってもらったんですけど、職人さんだからやっぱりきれいに描こうとするわけです。だから「ローラー貸して!」って自分でバーン! ベシャー! って雑に塗って見せて。ペンキもダラダラ垂れてくるような仕上がりで「それでいいんですか!?」っていわれるんですけど、「こうじゃなきゃダメ!」って押し通しました。
――いい話ですねえ……!
自分たちはきれいに塗れちゃうけど、彼らの立場になって考えるわけです。20代前半くらいの特に何か勉強しているわけでもない連中が好きにやってる作業なんだから、それなりの仕上げになっていないとリアリティが出ない。当然自分たちの好きなポスターやフライヤーを貼ったりとかは自由にやるだろうっていう、連想ゲーム的な作業ですよね。きっとこのへんでタバコを吸うだろうっていうところがあればそこには灰皿がわりの缶を置いてみたりとか、ストーリー性がないと面白くない。それをお客さんがどこまで気がついてくれるかとは別問題ですけど。
――見てる側も試されてるような感じだったんで、目を皿のようにして見てしまいました。
ありがとうございます(笑)。ステージ部分のグラフィティも自分たちで描こうということになって、THE MUSEUMのコンテナの落書きも含めてデザイナーがみんなで描きました。コストの問題もあるんですけど、「せっかくだから自分たちで描いたほうが楽しくない?」っていう方が理由としては大きかったんです。でもこれも専用のスプレーじゃないと描けない。普通の塗装用スプレーだと塗料が楕円に広がっちゃって、細かいところが描けないんです。ちゃんとグラフィティ用スプレーというのがあって、現場に入ってから慌てて調べたら、袖ヶ浦に扱ってるところがあって。車で60本くらい買ってきて、みんなで「おっ! 描きやすい描きやすい! やっぱこれだよ!」とか言いながら描きました(笑)。グラフィティ用のスプレーって一般の塗装用スプレーより低圧なんですよ。だからゆっくりノズルを動かしても塗料が一箇所に付きすぎない。あと乾燥が早くて隠蔽力が強いですね。
――けっこう性能が違うんですねえ。そういえばステージ奥の壁にもグラフィティがありました。
奥の壁に関しては、キャンプ座間とか沖縄とかで見られるような、ちょっと日本風でしょっぱい感じのアメリカっぽさを意識してます。『HiGH&LOW』らしいムードってそこだなと思ってて。完全に昭和っぽいディティールだけだと単に鄙(ひな)びた雰囲気になっちゃうんで、要所要所にアメリカっぽい雰囲気を入れつつ、でも日本の商店街に見えるようにアレンジしてます。
――確かに、普通の店舗についてるような分電盤とか、ディティールは日本風なんですよね。
あの売店の脇の分電盤も、実際によみうりランドに入ってる電気屋さんの配電ボックスなんです。自分たちがいろいろ工事をしてると、「これも飾る?」って持ってきてくれるんですよ。「えっ! いいんすか!」って(笑)。他の部品も「あれもいいっすか?」って聞いたら「いいよいいよ!」ってくれるから、若い奴が電ドリ持ってってウィ〜ンってすぐくっつけて。「小池電機商会」って入ってるのはいいけど、電話番号はまずいかなってはがしたりとかして。こういう作業をやってると意外に楽しんで乗っかってくれる人がいるんです。
――その場でくれたものを即取り付けたんですか……!貸店舗の看板とかもありましたよね。
ああいう汎用性のある看板は、もともと小道具として持ってるんです。看板自体はイベントのために作ったものではないんですけど、日本の商店街っぽいディティールをつけたいから、そういうテイストの道具を集めてくれっていう指示をして集めました。「山王街振興組合」とか、地域特定した看板は全部新規で作ったものです。そのへんは今回最年少のデザイナーの女子がこだわってやってくれた仕事です。大から小まで、現場で思い付いたことはどんどん取り入れてますね。
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