「2010年代のオタクは、推しに毎日会えるようになった」 ”カップリング表記研究家”に聞く、奥深い同人文化の世界(2/2 ページ)

» 2017年09月05日 11時00分 公開
[ちぷたそねとらぼ]
前のページへ 1|2       

 そうです。ドラマ・特撮ときた実写作品人気の流れにハリー・ポッターがさらに拍車を掛けました。そして同じ年には「ロード・オブ・ザ・リング」も来たことで、一気に洋画系の波が来ています。



 洋画ジャンルの当たり年だったんですね。



 そう、当たり年みたいな流れってありますね。両作品ともイギリスの小説が原作でしかもファンタジーっていう共通点も面白い。ハリー・ポッターって一般層を多く取り込んでいた作品でしたし、ここで足を踏み外……同人界に足を踏み入れた方も結構いるんじゃないかと思います。ちなみにその前は中華ブームがありました。90年代後半の中華ブームは、封神演義、それに「最遊記」……。



 最遊記は「最遊記RELOAD BLAST」が現在放送中ですね。そして「魔法陣グルグル」も放送中だし……今年って本当に2017年なの……?



2000年前後に起きた中国ブームの担い手となった最遊記シリーズ。「最遊記RELOAD BLAST」はアニメ放送中

 作者の峰倉かずやさんはもともと同人作家さんで、その頃オリジナルで描かれていた作品が商業化されてます。調査中にサークルカットで見かけましたが、格段に絵がうまくてオーラがありましたね。中国の話に戻ると、この時期ゲームでは「幻想水滸伝」が人気です。最遊記の元ネタ「西遊記」と同じ中国三大奇書仲間の「水滸伝」が元になってる作品ですね。それと2000年からは「真・三國無双」のシリーズが出始めてます。



 やっぱり、特定のジャンルが当たり年みたいな流れってあるんですよね。不思議ですよねえ……。



 偶然もあるとは思いますが、「この分野が熱い」となると他の人たちも参戦してくるからではないでしょうか。それでさらに盛り上がる。



 ファンとしても、「このジャンルがおいしいぞ!」ということになると類似作品に手を出してみたりしますからね。必然ですねきっと。



 ハリポタで面白いのが、私は普通に主人公の三人組が人気なのかと思っていたら、実際に人気があるのは親世代なんですよね……。



 えっ! ハリポタのカップリング人気は親世代なんですか? 親世代がピンと来なくて取り残された気分です。そしてこれと同じ感覚を「忍たま」の時に感じていました……。2000年代半ばくらいに忍たまが盛り上がった「忍たま彗星」が訪れたときも、「乱太郎、きり丸、しんべヱじゃないんだ」って取り残された気持ちになりました。上級生なんですよね。


「忍たま彗星」として一部ではおなじみの「忍たま乱太郎」。「カップリング表記データブック・作品ガイド」p.28より引用した画像は2000年代半ばの「忍たま彗星」より前のもの

 あ、でも土井先生は人気ですよ。一般認知度も高いですよね。



 あーー、土井先生は分かります! 「土井先生が初恋の人」って言っている子が周りに何人かいたはずです。



 忍たまは常に一定数のファンがついているようなイメージなのですが、時々「忍たま彗星」が飛来するとはよく聞きます。そろそろ調査に差し掛かる年代だと思うので、どんな彗星だったのか周期とか成分を調べられると思うとわくわくしますね。


2000年以降の同人文化


 2000年代は何がトップジャンルなのかイマイチ見当がつかないですね。テニプリは2004年がピークといわれているので中盤まではテニプリが強いと思いますが、「ハガレン」(鋼の錬金術師)と「ガンダムSEED」のブームもどこかにあるはずで、後半には「リボーン」(家庭教師ヒットマンREBORN!)に「ヘタリア」に「ガンダムOO」、そして「おお振り」(おおきく振りかぶって)と、かなり群雄割拠なのではないかと。2010年代になると「黒バス」(黒子のバスケ)が出てくるので、分かりやすくなってくるんですけど。



 なので、2000年代についてはこれから調べるのが楽しみです。私の本を読んでくださっている方は、このあたりで同人の世界に入った方が多そうですし、特にテニプリで新規参入された方も多いと思いますので、その熱気のある時代を早く知りたいですね。


テニスの王子様。現在は「新テニスの王子様」がジャンプSQ.で連載中。画像はAmazon.co.jp

 やっぱりテニプリは強いですね……。



 当事者の方に聞いてみたら「テニプリは心に楔(くさび)のように残っている」と言ってました。今は別ジャンルが好きだったりするんですけど「それは跡部王国で見ている」という。最近跡部王国で「おそ松さん」とか「ユーリ」(ユーリ!!! on ICE)が流行ってる、みたいな。あとヘタリアが好きな人は、「体はイタリアにいる」とか。



 うわ「体はどこかに所属していて、そこから流行ジャンルもおいしく食べる」みたいな感覚めちゃくちゃ分かる……!



 ちょうどおそ松さんの話が出たところで、あれだけ二次創作の人気があるおそ松さんですが、コミケのカップリング表記では最高3位で、トップジャンルになったことはありません。


「おそ松さん」(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会(公式サイト

 社会現象にもなった「おそ松さん」、コミケでは覇権が取れていないだと……?



 ただこれは、近年コミケの立ち位置が変わってきた、ということがありますね。かつてのコミケは、「最大かつ唯一のイベント」みたいな意味合いが強かった。今でも最大のイベントではあるんですけども、旬の作品に限定すれば「オンリーイベント」の方が規模が大きくなってきています。

※オンリーイベント……特定のアニメやゲームなどの作品、もしくはその中に登場するキャラクターやカップリングに特化した同人誌即売会、同人イベントのこと。


 昨年の冬コミだとおそ松さんのサークルは500くらいしかなかったんですが、翌月のオンリーイベントでは1700サークル以上あったりしました。コミケには参戦しないでこちらのオンリーに合わせた方も多いと思います。



 ……でも、その事実を踏まえてみると、覇権は取れていなくてもコミケのカップリング表記的に上位にいることってめちゃくちゃすごいことですよね。



 本当にすごい。コミケのカップリング表記研究でいうと、歴代のトップジャンルはほとんどが漫画作品なんですね。おそ松さんみたいなアニメ作品は放送中に一気に盛り上がる傾向にあるので、申込みから開催までが長いコミケにはあまり合っていなくて、そういう意味でもフットワークの軽いオンリーの方がフィットしてる感じがあります。



 1クールは3カ月と短いですからね……。「おそ松さん」は2クールでしたが。そこでパーッと盛り上がって、徐々に徐々に沈静化していく。という感じですか……。



 そうですね。毎週あった「アニメ」という公式からの供給がなくなってしまうのはやはり大きいと思います。続編は決まっているので良いですが、それまでの期間で新しいアニメも始まりますし、当然人気が落ち着いてしまう。なので、「継続的に掲載している週刊漫画は強い」っていうのはそこですね。



 だから、週刊の少年誌の掲載作品が覇権になりやすいんですね。毎週マンガという公式からの供給がある。そして、「刀剣乱舞」の強さも……。



 そう! その戦術で今一番強いのがソシャゲなんですよ。



「推しに毎日会える」ソシャゲは強い


 ソシャゲはサービス停止しない限り、終わりがないですからねぇ。



 ジャンプは週刊誌ですから、基本週一で見てるわけじゃないですか。でもソシャゲには毎日ログインする。それがシンプルに強い。



 2010年代のオタクは、推しに毎日会えるようになった……!



 だから、今ソシャゲが同人で人気なのは分かります。ログインボーナスとかイベント周回のために毎日触れるし、SNSでも毎日のようにイラストやスクショが上がってきます。定期的にイベントもあるし、新キャラ投入はあるし、そのたびに盛り上がる。



 Twitterでもソシャゲの新キャラ投入やイベントのたびにトレンドに上がりますからね!



 そうですね。お祭りが日常になったかんじでしょうか。こういった安定した継続性もあって、同人へ参戦しやすくなってるんだと思います。


「カップリング表記データブック2001×2016」とタルトさん。ありがとうございます。


 今回は同人の人気作品の歴史について伺っていきました。週一で公式からの供給がある少年マンガ誌が強かった時代がずっと続いていたのが、ソシャゲの登場により2010年代のオタクは推しに毎日会えるようになりました。そして次回、今回盛り込みきれなかったカップリングの歴史や男性向け作品のカップリングへと続きます!

ちぷたそ

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた