『異世界居酒屋「のぶ」』2018年アニメ放送決定! 作者・蝉川夏哉にインタビュー「見たあとコンビニに走る羽目になる」
アニメ1話の見どころはビールの汗が重力に引っ張られて落ちるところ。
仕事帰りのうまいビールと料理は、一日の疲れを吹き飛ばしてくれますよね。近年、食をテーマにしたグルメ作品が多数存在する中、異世界を舞台にした飯テロ小説の異名を持つ『異世界居酒屋「のぶ」』(宝島社/以下、『のぶ』)が人気です。
同作は、日本の寂れた商店街にあった居酒屋が、ある日突然異世界とつながってしまうという設定。料理人の“タイショー”と給仕の“シノブ”が切り盛りする店に訪れる異世界の住人が料理とお酒のとりこになる中で、店の内外でさまざまな出来事が起こる物語。蝉川夏哉さんが小説投稿サイト「小説家になろう」で2012年10月から連載。2014年9月に宝島社から商業出版され、2015年にはコミカライズもスタートしました。
同作のアニメ化は2016年に発表されていましたが、11月1日、2018年中のアニメ放送がアナウンスされました。異世界を舞台にしたグルメ作品がどうしてここまで人気を得たのか、著者の蝉川さんに聞きました。
―― はじめに、『異世界居酒屋「のぶ」』はどうやって生まれたのですか?
蝉川 昔からファンタジーRPGなどのゲームが好きでした。その中でも、例えば「ドラゴンクエストIV」に登場する武器商人トルネコのように、勇者目線ではなく、市井で商売に生きる人の姿にすごく興味があって、そういう物語を書きたいと思ったのがきっかけです。
でも、ただ単にファンタジー世界のお店を描くだけじゃつまらない。なので、現実の日本の居酒屋がファンタジーの世界に行ったらどうだろう、と思ったのが『のぶ』の始まりですね。
―― ファンタジー世界のお店というと、武器屋などを思い浮かべそうなものですが、なぜ居酒屋?
蝉川 ぶっちゃけると、飲み歩くのが好きだったからです(笑)。私は大阪に住んでいて、他の地方から友人が来たときに、自分が好きなたこ焼き屋さんなどに連れて行くことがあります。そこで「うまい! うまい!」と言って食べてくれるとうれしいじゃないですか。こういう経験って、皆さんお持ちだと思いますが、それを物語として表現したかった。
『のぶ』では居酒屋が舞台の中心ですが、こういうお店って料理だけでなく、空間がすごく大事なんですよね。飲んだり食べたりする上で、いかに気持ちよく過ごせるかが問われる場所。この空間の良さを言葉で表現してみたいと思ったんです。
よく、「『のぶ』の主人公は誰なのか」と聞かれることがありますけど、そこで働くタイショーやシノブちゃんではなく、『のぶ』というお店そのもの、というのが私の答えです。
―― 「食」にこだわった理由は?
蝉川 食べることって、読者全員の数少ない共通体験なんですよね。特に今の若い方は共通の体験というものがない。昔は、皆がテレビを見ていて、学校に行くと「前の日テレビで何を見た?」って盛り上がれたと思うんですよ。でも今の若い人は、インターネットもあるし、そもそもテレビを観ない人も珍しくない。ネット上で見ているものは全員バラバラです。
今のご時世、読者の共通体験と言えるのは、「食べること」「寝ること」「仕事でしんどいこと」の3つぐらい。でも、寝ることは物語にしにくいし、しんどいことを小説にしても読みたくないですよね。となると、やっぱり「食べること」かなと。読者の心に響かせることもできますからね。
―― 「食べること」を描く上で、どんな点を注意したのですか?
蝉川 今話したように、共通体験があることは本当に大事なことなので、基本的には皆がどこかで食べたことのある料理を取り上げるようにしています。おいしい料理を食べた思い出って、記憶に積み重なりますよね。小説を通じて、読者が持つそうした記憶を呼び覚まさせるのを狙いにしています。
少し前までのグルメ漫画だと、キャビアやフォアグラのように、皆が食べたことがないおいしいものを取り上げることが多かったように思います。読んでいて「いつか俺もこういうものを食べてやろう」という気持ちにさせてくれたのですが、経済成長の行き詰まりからか、そういう考え方をする人も減り、読者の共通の思いでなくなってしまったわけですね。だからこそ、『のぶ』ではなるべく皆が食べたことがあるもの、食べようと思えば食べられるもの、家にあるものをちょっと頑張って料理すれば食べられるものをお出ししています。
―― 蝉川さんが作家となる以前は小売業をされていたと伺いました。その体験が作品作りに生かされたところはありますか?
蝉川 食材を扱う小売業だったから食材への知識が得られたということよりも、お客さんと向き合う職業に就いていたことが大きかったです。こちらの善意がお客さんに伝わるかどうか、どんなおもてなしをすればいいかは、接客業全てに通じますから。
例えば8月に「小説家になろう」に投稿した回では、生まれたばかりの双子の赤子を連れた若夫婦が来店するお話を書きました。この夫婦にはウナギのひつまぶしと若鶏のから揚げを振る舞うのですが、2つを時間差で出したんです。こうすることで、妻がひつまぶしを食べている間に夫が赤ちゃんをあやし、食べ終わったタイミングで赤ん坊を妻に預けて、若鶏のから揚げを食べることができる。物語を展開させる上で、どうすれば2人が落ち着いて温かいご飯を食べることができるかを考えたとき、小売という接客業の経験が生きているんじゃないかと感じましたね。
―― そんな『のぶ』、サンライズ制作で2018年いよいよアニメ放送ですね。
蝉川 アニメではシリーズ構成から脚本の打ち合わせまで、かなりの回数参加させていただきました。土台の部分からしっかり関われたのではないかと思います。
著者の顔を見ていないと、原作通りガッチリやろうと萎縮して現場で良いアイデアを出し切れないことが発生すると思うんです。だから、その場ですぐ聞いてもらえるよう、可能な限り参加する形にさせてもらいました。
でも一番すごいなと思ったのが、制作現場から背景や食べ物の絵が上がってきたときです。自分が思った以上に素晴らしいものになっているなと実感しました。『のぶ』は居酒屋を通して異世界を見るという側面があって、その異世界というのは中世ヨーロッパがモデル。小説では言語化しづらかった部分ですが、それが素晴らしいできで、プロの仕事だと感嘆しました。
―― 肝心の料理のできはどうでしょう?
蝉川 これも本当にすごいんです。現場から料理設定が送られてくるんですが、その量からして山ほどありました。最近のアニメって、料理をどこまで上手く描けるかがバロメーターになっている面があるんですけど、『のぶ』は他には負けないと思います。同アニメの見どころの1つじゃないでしょうか。
ティーザーサイトで公開されたメインビジュアルではビールが描かれていますが、まずはそれを見てほしいです。ジョッキの汗から本気度が違うことが分かると思うので。
―― 小説でも、最初の回にビールが登場していますよね。
蝉川 アニメ1話でもこのビールが登場します。実際に映像を見ましたが、ビールの汗が重力に引っ張られて落ちるところは見どころ。従って1話の見どころはビールです(笑)。「え、そこ!?」って思うかもしれませんが、でも本当にすごい。正直、アニメ化の話が来たとき、最初は本当においしそうに描けるのかな? と不安に思ったこともあります。でも、そんな心配を軽く吹き飛ばしてくれました。
―― なるほど、楽しみですね! 最後に、読者に向けてメッセージを。
蝉川 アニメ1話を見るときに皆さんにお願いしたいことがあります。ビールなど飲み物を用意してください。さもなくば、見終わったあとにコンビニに走る羽目になるぞと(笑)。それぐらい力のある映像だと自負しています。一見の価値が確実にあります。
なお、蝉川さんは、アニメーターに「どん兵衛」を差し入れたそう。油で手が汚れず、あまり気を遣わせずにおなかいっぱいなって気持ちよく仕事をしてほしいという思いからだとのこと。他人目線を大切にする姿勢が、多くの読者に受け入れる秘密なのかもしれません。
異世界居酒屋のぶ 新刊情報
11月7日:『異世界居酒屋「のぶ」』文庫4巻発売 大将としのぶの過去のエピソード書き下ろし付き
11月25日:『このライトノベルがすごい!2018』発売 働くゲーアノートの書き下ろしエピソード付き
(幻夜軌跡)
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テレビアニメは2017年10月から放送。Huluでは先行配信も。
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