『異世界居酒屋「のぶ」』2018年アニメ放送決定! 作者・蝉川夏哉にインタビュー「見たあとコンビニに走る羽目になる」

アニメ1話の見どころはビールの汗が重力に引っ張られて落ちるところ。

» 2017年11月02日 11時40分 公開
[幻夜軌跡ねとらぼ]

 仕事帰りのうまいビールと料理は、一日の疲れを吹き飛ばしてくれますよね。近年、食をテーマにしたグルメ作品が多数存在する中、異世界を舞台にした飯テロ小説の異名を持つ『異世界居酒屋「のぶ」』(宝島社/以下、『のぶ』)が人気です。

異世界居酒屋 のぶ アニメ アニメ『異世界居酒屋「のぶ」』2018年放送決定! トリアエズナマ!

 同作は、日本の寂れた商店街にあった居酒屋が、ある日突然異世界とつながってしまうという設定。料理人の“タイショー”と給仕の“シノブ”が切り盛りする店に訪れる異世界の住人が料理とお酒のとりこになる中で、店の内外でさまざまな出来事が起こる物語。蝉川夏哉さんが小説投稿サイト「小説家になろう」で2012年10月から連載。2014年9月に宝島社から商業出版され、2015年にはコミカライズもスタートしました。

 同作のアニメ化は2016年に発表されていましたが、11月1日、2018年中のアニメ放送がアナウンスされました。異世界を舞台にしたグルメ作品がどうしてここまで人気を得たのか、著者の蝉川さんに聞きました。

異世界居酒屋のぶ 蝉川夏哉 『異世界居酒屋「のぶ」』著者・蝉川夏哉さん

―― はじめに、『異世界居酒屋「のぶ」』はどうやって生まれたのですか?

蝉川 昔からファンタジーRPGなどのゲームが好きでした。その中でも、例えば「ドラゴンクエストIV」に登場する武器商人トルネコのように、勇者目線ではなく、市井で商売に生きる人の姿にすごく興味があって、そういう物語を書きたいと思ったのがきっかけです。

 でも、ただ単にファンタジー世界のお店を描くだけじゃつまらない。なので、現実の日本の居酒屋がファンタジーの世界に行ったらどうだろう、と思ったのが『のぶ』の始まりですね。

―― ファンタジー世界のお店というと、武器屋などを思い浮かべそうなものですが、なぜ居酒屋?

蝉川 ぶっちゃけると、飲み歩くのが好きだったからです(笑)。私は大阪に住んでいて、他の地方から友人が来たときに、自分が好きなたこ焼き屋さんなどに連れて行くことがあります。そこで「うまい! うまい!」と言って食べてくれるとうれしいじゃないですか。こういう経験って、皆さんお持ちだと思いますが、それを物語として表現したかった。

 『のぶ』では居酒屋が舞台の中心ですが、こういうお店って料理だけでなく、空間がすごく大事なんですよね。飲んだり食べたりする上で、いかに気持ちよく過ごせるかが問われる場所。この空間の良さを言葉で表現してみたいと思ったんです。

 よく、「『のぶ』の主人公は誰なのか」と聞かれることがありますけど、そこで働くタイショーやシノブちゃんではなく、『のぶ』というお店そのもの、というのが私の答えです。

異世界居酒屋のぶ アニメ 「トリアエズナマ」で始まる『異世界居酒屋「のぶ」』、2018年アニメ放送

―― 「食」にこだわった理由は?

蝉川 食べることって、読者全員の数少ない共通体験なんですよね。特に今の若い方は共通の体験というものがない。昔は、皆がテレビを見ていて、学校に行くと「前の日テレビで何を見た?」って盛り上がれたと思うんですよ。でも今の若い人は、インターネットもあるし、そもそもテレビを観ない人も珍しくない。ネット上で見ているものは全員バラバラです。

 今のご時世、読者の共通体験と言えるのは、「食べること」「寝ること」「仕事でしんどいこと」の3つぐらい。でも、寝ることは物語にしにくいし、しんどいことを小説にしても読みたくないですよね。となると、やっぱり「食べること」かなと。読者の心に響かせることもできますからね。

―― 「食べること」を描く上で、どんな点を注意したのですか?

蝉川 今話したように、共通体験があることは本当に大事なことなので、基本的には皆がどこかで食べたことのある料理を取り上げるようにしています。おいしい料理を食べた思い出って、記憶に積み重なりますよね。小説を通じて、読者が持つそうした記憶を呼び覚まさせるのを狙いにしています。

 少し前までのグルメ漫画だと、キャビアやフォアグラのように、皆が食べたことがないおいしいものを取り上げることが多かったように思います。読んでいて「いつか俺もこういうものを食べてやろう」という気持ちにさせてくれたのですが、経済成長の行き詰まりからか、そういう考え方をする人も減り、読者の共通の思いでなくなってしまったわけですね。だからこそ、『のぶ』ではなるべく皆が食べたことがあるもの、食べようと思えば食べられるもの、家にあるものをちょっと頑張って料理すれば食べられるものをお出ししています。

『異世界居酒屋「のぶ」』 文庫 4巻 『異世界居酒屋「のぶ」』文庫4巻は11月7日発売

―― 蝉川さんが作家となる以前は小売業をされていたと伺いました。その体験が作品作りに生かされたところはありますか?

蝉川 食材を扱う小売業だったから食材への知識が得られたということよりも、お客さんと向き合う職業に就いていたことが大きかったです。こちらの善意がお客さんに伝わるかどうか、どんなおもてなしをすればいいかは、接客業全てに通じますから。

 例えば8月に「小説家になろう」に投稿した回では、生まれたばかりの双子の赤子を連れた若夫婦が来店するお話を書きました。この夫婦にはウナギのひつまぶしと若鶏のから揚げを振る舞うのですが、2つを時間差で出したんです。こうすることで、妻がひつまぶしを食べている間に夫が赤ちゃんをあやし、食べ終わったタイミングで赤ん坊を妻に預けて、若鶏のから揚げを食べることができる。物語を展開させる上で、どうすれば2人が落ち着いて温かいご飯を食べることができるかを考えたとき、小売という接客業の経験が生きているんじゃないかと感じましたね。

―― そんな『のぶ』、サンライズ制作で2018年いよいよアニメ放送ですね。

蝉川 アニメではシリーズ構成から脚本の打ち合わせまで、かなりの回数参加させていただきました。土台の部分からしっかり関われたのではないかと思います。

 著者の顔を見ていないと、原作通りガッチリやろうと萎縮して現場で良いアイデアを出し切れないことが発生すると思うんです。だから、その場ですぐ聞いてもらえるよう、可能な限り参加する形にさせてもらいました。

 でも一番すごいなと思ったのが、制作現場から背景や食べ物の絵が上がってきたときです。自分が思った以上に素晴らしいものになっているなと実感しました。『のぶ』は居酒屋を通して異世界を見るという側面があって、その異世界というのは中世ヨーロッパがモデル。小説では言語化しづらかった部分ですが、それが素晴らしいできで、プロの仕事だと感嘆しました。

異世界居酒屋のぶ アニメ 千家しのぶ設定画
異世界居酒屋のぶ アニメ 大将(矢澤信之)設定画

―― 肝心の料理のできはどうでしょう?

蝉川 これも本当にすごいんです。現場から料理設定が送られてくるんですが、その量からして山ほどありました。最近のアニメって、料理をどこまで上手く描けるかがバロメーターになっている面があるんですけど、『のぶ』は他には負けないと思います。同アニメの見どころの1つじゃないでしょうか。

 ティーザーサイトで公開されたメインビジュアルではビールが描かれていますが、まずはそれを見てほしいです。ジョッキの汗から本気度が違うことが分かると思うので。

異世界居酒屋のぶ アニメ 常連客のニコラウスとハンス

―― 小説でも、最初の回にビールが登場していますよね。

蝉川 アニメ1話でもこのビールが登場します。実際に映像を見ましたが、ビールの汗が重力に引っ張られて落ちるところは見どころ。従って1話の見どころはビールです(笑)。「え、そこ!?」って思うかもしれませんが、でも本当にすごい。正直、アニメ化の話が来たとき、最初は本当においしそうに描けるのかな? と不安に思ったこともあります。でも、そんな心配を軽く吹き飛ばしてくれました。

―― なるほど、楽しみですね! 最後に、読者に向けてメッセージを。

蝉川 アニメ1話を見るときに皆さんにお願いしたいことがあります。ビールなど飲み物を用意してください。さもなくば、見終わったあとにコンビニに走る羽目になるぞと(笑)。それぐらい力のある映像だと自負しています。一見の価値が確実にあります。

異世界居酒屋のぶ 蝉川夏哉 慈愛を感じさせる表情を浮かべる蝉川さん。ユーモアたっぷりでした


 なお、蝉川さんは、アニメーターに「どん兵衛」を差し入れたそう。油で手が汚れず、あまり気を遣わせずにおなかいっぱいなって気持ちよく仕事をしてほしいという思いからだとのこと。他人目線を大切にする姿勢が、多くの読者に受け入れる秘密なのかもしれません。

異世界居酒屋のぶ アニメ異世界居酒屋のぶ アニメ 作品の代名詞ともいえるトリアエズナマ、オトーシこと枝豆
異世界居酒屋のぶ アニメ異世界居酒屋のぶ アニメ 異世界でも鉄板の人気のおでん、しのぶが賄いで作ったナポリタン

異世界居酒屋のぶ 新刊情報

11月7日:『異世界居酒屋「のぶ」』文庫4巻発売 大将としのぶの過去のエピソード書き下ろし付き

11月25日:『このライトノベルがすごい!2018』発売 働くゲーアノートの書き下ろしエピソード付き


(C)異世界居酒屋〜古都アイテーリアの居酒屋のぶ〜製作委員会

幻夜軌跡


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/28/news195.jpg 岡田紗佳、一連の騒動を生中継で謝罪 頭を深く下げ「申し訳ございませんでした」
  2. /nl/articles/2501/28/news155.jpg がん闘病の森永卓郎、容態急変後にモルヒネ投与で“結構厳しい状況” スタジオ出られず弱々しい声で「そう長く持たないかもしれない」「本格的に転移が始まったよう」
  3. /nl/articles/2501/29/news045.jpg 新潟のお葬式で香典返しにもらった“謎の白い物体” パッケージにも情報なし「これなんだかわかりますか?」
  4. /nl/articles/2501/26/news053.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  5. /nl/articles/2501/29/news086.jpg 鮮魚店で売れ残ったタコを水槽に入れたら、数週間後まさかの展開が…… 胸を打つ光景に「目が腫れるくらい泣いてます」
  6. /nl/articles/2501/28/news034.jpg 大人なら5秒で解きたい!「9+0÷2−3」の答えは?【算数クイズ】
  7. /nl/articles/2501/29/news058.jpg 「うちの祖父(81)わけてほしいわこのセンス……」 衝撃的な私服コーデに驚きの声「本物のイケジイ」「目標にします!!」
  8. /nl/articles/2501/29/news023.jpg 買ったばかりの家の風呂場に”ありえない欠陥” 信じられない状況に「そんなことある?」「取り付けた業者……」
  9. /nl/articles/2501/27/news073.jpg 「昔はモテた」と自慢げな父→娘は“絶対ウソやん”と思っていたけど…… 当時の姿に「ハハハ冗談だろ?」【海外】
  10. /nl/articles/2501/29/news122.jpg 正方形のスカーフ1枚→切ってゴムを縫い付けるだけで…… 魅力的な完成品に「デザインがきれい」「簡単に作れました」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」