友達にならせてしまってごめんね 『月曜日の友達』第2集、中学時代は自信がなくてみんなヒリついていた
誰かに出会って、その人を思って、大人になっていく。
少年少女の、子どもから大人になる間の悶々を描いた阿部共実『月曜日の友達』。完結巻となる第2集が2月23日に発売されました。
中学生時代に言葉にならないモヤモヤを経験し、戦い、大人になった人全てに読んでもらいたい。読んで、かつて自分の居場所が見つからなかった時のことを思い出して、お焚きあげしてほしい。
あらすじ
幼くて元気で友達の多い水谷茜(みずたに・あかね)。透き通った容姿であまり目立たない月野透(つきの・とおる)。中学一年生の2人は、月曜日の夜限定の友達になった。それ以外の日には話しかけず、接点があるのを気付かれないよう、約束した。
ヒミツの場所は、夜の校庭。月野は超能力を引き出そうと、教室から机を十六個持ち出して並べ、実験する。世間話をしたり遊んだり、走ったり、ボールをばらまいたり、泳いだり。2人は、この時間だけは自由だと思っていた。
どんどん親しくなっていく2人。特別になっていく時間。しかしふとした事件で、月野と水谷の間に亀裂が生じてしまう。
みんな苦しんでる
中学一年生。何もかもが楽しいのに、何もかもが苦しく感じる、心が落ち着かない時期だった人、多いと思います。感情が急にたかぶったり、かと思えばどん底まで落ちたり。身体と心の成長が、どうにもかみ合わなくて、いら立つ。
この作品に出てくる、特に迷走する3人の中学一年生を追ってみます。
まず水谷。裏表のない、極めて真っすぐな少女です。月野が奪われたゲーム機を取り返すべく、同じクラスのいじめっこ的位置の少女火木香(ひき・かおり)に詰め寄ります。
水谷「私と月野透は友達だ! 私も友達を傷つけられて、お前を許せない」
全ては正義感と、月野に喜んでほしいがゆえ。彼女にとって月野は、特別な友達でした。
けれどもこれが、月野を傷つけてしまった。彼は2人でいることを、特別中の特別だと思っていたから、それを他人に言った水谷を信じられなくなってしまう。
月野「月曜日の約束はもうやめようか。ふたりは変だから爪はじきもの同士と君は言った。でも本当はわかってた。君と俺は違う。水谷は変じゃない。強すぎるだけだ」
月野の心中は複雑です。本当は、水谷がウソをつかない正直な子だと知っている。けれども彼が水谷と2人で会うようになったきっかけの1つは、居場所が見つからず苦しむ仲間同士、周囲のしがらみに一切とらわれない時間が欲しかったからでした。水谷が強くて、感受性豊かで、純真で、人に好かれていることに、コンプレックスを感じていた様子。その上、ヒミツに対しての価値観が違ったことにショック。
「友達にならせてしまってごめんね」というセリフが、悲しすぎる。でも自己否定は一度スイッチが入ると、止まらない。
何もない中学生の悩み
水谷「こんなにつらい痛みがあることを私は知らなかった。これが大人になるということなんだろうか」「火木みたいに謝罪すれば、夢の中の2人みたいに戻れるだろうか。こわい」
水谷は怒らない。「自分が月野を傷つけてしまった」という思いに溺れ、苦しみます。あまりにも無垢。人を疑うとか、自分を守るとか、全くこの子は考えない。心が強そうに見えて、むき出しだから、簡単に傷ついてしまう。
中学生時代にぶち当たる問題の1つ、「私自身には何もない」。水谷と月野が、居場所がないと不安になるのは、これが原因。自信がないから、家族から、クラスメイトから、浮いているように感じてしまう。
水谷「姉に抵抗することや月野といることで、自分の存在を確かめていた。私自身には何もない、空っぽな人間だと思い知らされる」「自分の未来を知らないふり続ける人間は、幼い声そのままのしわしわに老いた子どもになるんだ」
自己と言葉
水谷が自分を、月野を考えるシーンは、かなり変わった描かれ方をしています。身の回りのいろんなものを吸収しながら、考えに考えて、言葉を黙想し、自分の悩みを整理していく。まるで哲学。彼女のモノローグの言葉選びは、ちょっと中学生レベルじゃない。
ただ、いくら考えても納得の行く答えに到達しません。単純に経験値不足。ここは極めて中学生らしい。
彼女の、真っすぐで考え抜いた言葉は、ねじくれた月野の心に刺激を与え、視野を開きました。一方月野がそれを聞いて考えて発した言葉が、今度は水谷に作用し、彼女は自分を客観的に見はじめます。
この波長が呼応し、2人の思考が蓄積することで成長していく様子が、丁寧に描かれています。元気なのに静謐(せいひつ)とした、考える少年少女の空気感は、作品を実際に読んで体感してみてください。
月野「生きている限りどんな人間も前に進んでいる。時間をとめることは決してできない。その渦中でどういう生き方を選択するかの自由が人生だ。世界を変えることは人にはできないが、自分が変わることはできる。それが可能性だ」
月野が行き着いた結論は、人生への覚悟。気づいたのは、水谷への特別な感情でした。
2人はほとんど恋人のようだけど、ちょっと違う。お互いがぶつかりあいながらたくさん考え、自分を探す。だから最後まで「友達」と呼び続けています。
この繊細な感覚、大人ならきっとわかると思う。自分が抱く感情に名前を付けてカテゴライズするのは、もうちょっと後でもいい。クライマックスの2人の、言葉を手探りで見つけていく会話は、まるで詩のように美しい。
あがいてもあらがえない孤独
第2集でスポットがあたる3人目の中学生が、月野にちょっかいをかけていた火木。不良友達とつるんでおり、月野に対しては嫌がらせにしか見えない行動が多かった彼女。水谷から見たらイヤな奴でしかありません。
ところが月野は火木のことを、思ったより悪い奴じゃない、害はない、と言います。
いつもふてぶてしい態度だった彼女。兄を亡くした苦しさから、彼女はずっと抜け出せない。虚勢の笑顔で、彼女にものすごく愛を注いでくれた兄の幻影を追い続けています。
孤独だった月野は、火木の孤独も敏感に察知したのかもしれません。3人仲良くなってからは、加速するかのごとく火木は元気になっていきます。彼女の心の救済劇は、水谷・月野と別の方向で、優しく描かれます。
途中までは、不良グループすらも彼女から離れて、痛々しいシーンが続きます。でも月野と水谷が受け入れてくれたことで居場所ができ、偽りのない本当の明るい顔に変わっていく。そうなってからというもの、めちゃくちゃいい奴なのが見えてきます。本当によかった。
火木「私な、友達がたくさんできたんだ。放課後や休日一緒に遊んだりするんだ!」「私のせいでちょっともめかけたこともあるけど、許してくれたいい奴らなんだ」
大人になるということは我慢することだけじゃない、人のためになることや、自分の義を守る前向きなわがままも必要だ。この思想が、火木の奔放かつ芯の通った性格に込められています。
3人とも幸せになれ、なんてうかつなことは言えない。だって3人ともこれから大人になるにつれて、「友達との仲たがい」なんて目じゃないくらいにつらい経験をして、絶望することもあるはずだもの。その時に中学時代を思い出して、自分で道を選ぶことができたら、本当の自由をかみしめられるのだと思う。
このマンガの3人のセリフは、読者側の「孤独」の悩みに呼応するかのような、繊細さと力強さがあります。共鳴ポイント、是非探して欲しい。
なお、同作に感銘を受けたamazarashiが楽曲「月曜日」を書き下ろすという展開も。2月26日にJ-WAVE「SONAR MUSIC」(21時〜24時)で初オンエアされ、3月12日より配信されます。この透き通った世界をどう歌で表現したのか、あわせて体験してみてください!
(たまごまご)
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