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» 2018年03月19日 10時00分 公開

練習ゼロでもマンガ家(風)になれる、意識の超低いデジタルマンガ本の作り方

マンガを描いたことがないのにマンガ風の連載を始めたライターが、独自のマンガの描き方と同人誌を自分で作るまでの方法論を明かします。

[斎藤充博,PR/ねとらぼ]
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 全人類があこがれる職業、マンガ家。ぼくも小さなころ、マンガ家になりたかった。毎日マンガを読んで、マンガ家への夢をつのらせていた。問題はマンガの練習を一切しなかったことだ。その結果、ぼくは指圧師というマンガとなんの関係もない職業に就いた。

 ところが、そんなぼくが「ねとらぼ」で1年ほど前からマンガ(風)の連載をできるようになった。マンガではなくてマンガ(風)なのが重要だ。

 ぼくのやり方だったら、今まで一切マンガの練習をしたことがない人でも、マンガ家(風)になって、編集部の目をあざむき、マンガ(風)連載にこぎ着けるくらいのところまではいけるだろう。

意識の超低いデジタルマンガ

 マンガで重要なのは「キャラクター」。そう聞いたことはないだろうか。

 しかし問題がある。まず、この世に存在しないキャラをゼロから作るのは大変ということだ。『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生は新しいキャラを出すときに、そのキャラの「履歴書」を書くという。履歴書! 想像しただけで難しそうだ。


 そこでマンガ(風)を作るときには、思い切って主人公は自分にしてしまおう。自分だったら取材は不要である。キャラのバックグラウンドを考える必要もない。履歴書は書かなくてもいい。

 ただし、荒木飛呂彦先生が考えた空条承太郎などのキャラにくらべて、魅力は格段に劣ってしまう。しかし、なんとかしてほしい。思えば現実の人生だって「自分」がずっとがんばってさまざまなつらいことを乗り越えてきたではないか。

 とにかく「自分を主人公にする」という決意があれば、キャラは決まってしまうのである。

意識の超低いデジタルマンガ

 マンガは絵を見るものだ。しかし、絵を上手に描くのは果てしない時間がかかり、めんどくさいという事実がある。

 東村アキコ先生の自伝エッセイマンガ『かくかくしかじか』を読んだことはあるだろうか。東村アキコ先生は、ものすごく怖い先生の塾でデッサン技術を磨き、美大に入学したというエピソードがある。あんな大変なことは、とてもできない。

意識の超低いデジタルマンガ

 そこで、マンガ(風)のものを作るときは、絵で説明するのはやめることにした。

 そのかわり文章で説明する。文字なら誰でも書ける。読む方も一瞬で終わる。文字という発明の偉大さに感謝しよう。

意識の超低いデジタルマンガ

 マンガ(風)なので、背景も最小限でいい。読み手の想像力に全力で甘えよう。きっと読み手の脳が活性化して、健康にいいのではないかと思う。

 このような心意気を持つことにより、マンガを描く上で最大の障害である「絵」の問題が消えた。また一歩前進である。お気づきかもしれないが、マンガ(風)に前進することは、ちゃんとしたマンガから後退することである。

意識の超低いデジタルマンガ

 このようにして制作していても、意外と時間がかかる。その間についついこんなことを考えてしまう。「このマンガ(風)、おもしろくないんじゃないか?」。

意識の超低いデジタルマンガ

 ……残念ながらその可能性は高い。そこで提案がある。頭の中から「おもしろ」という言葉を一切消し去ってほしいのだ。

 「これはおもしろいのか?」「どうしたらおもしろくなるのだろうか?」「果たしておもしろいとはなんだ?」

 いずれも恐ろしく時間を浪費する疑問だ。こんなことを考えると、一切何も作る気がしなくなってしまう。

 そこで違う目標を立ててみたい。それは「読んで話の意味がわかるようにする」ことだ。意味がわかると、読んだ人に感想が生まれる。ここが重要だ。

 原始の海の中で、最初の生命は有機物とアミノ酸の化学反応により偶然生まれたという。多様な感想の海の中で、「おもしろい」という気持ちがどこかに生まれるかもしれない。そこに賭けるのだ。

 悲しい目標に感じられるかもしれないが、「おもしろいかどうか」にハマって身動きできないよりはマシだと思う。そのうちに本当におもしろい作品もできるかもしれない。

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ

 ここまでやり方がわかったら、具体的な作業に入ろう。

 まず道具を買ってくる。マンガ制作ソフトの「CLIP STUDIO(クリップスタジオ)」と、板タブレットだ。板タブは気軽に買えるし、機材をそろえることでマンガ家(風)になった気分がグッと盛り上がる。

意識の超低いデジタルマンガ

 パソコンの電源を入れる。その後にうっかりブラウザを開いてTwitterなどを見てはいけない。おもしろツイートやネットバトルを見ているだけで寝る時間になってしまう。

 ましてやpixivは絶対に見てはいけない。自分が作ろうとしているマンガ(風)のショボさがわかってしまう。それを開くのはもう少し後だ。

意識の超低いデジタルマンガ

 一直線にクリップスタジオを起動しよう。新規のファイルを作成する際に紙の大きさを設定する。これはA4にしておこう。その次に枠線ツールでコマ枠を作る。

意識の超低いデジタルマンガ

 これを縦に3分割する。3秒くらいでできてしまうからすごい。現実だったらコマを3つ描くだけで1時間くらいはかかりそうだ。

 コマの数や大きさは後からかんたんに変えることができるので、この段階では何も考えずに割ろう。

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ

 マンガ(風)は、文字で理解してもらうもの。なので先に文字を入れる。手書きよりもフォントで打ってしまった方が早いし見やすい。

 マンガ(風)において、文字の配置は一番重要だ。細心の注意を払ってほしい。文字だけをスラスラと読んでもらえれば、読者は絵の下手さが気になりにくい。そんなことに気を遣うんだったら、ちゃんと絵の練習をしたがいい、というツッコミはなしにしてほしい。

 ぼくは絵を完全に書き終わった後も、微調整を繰り返している。一度描いたものを後から変えられるのはデジタルの利点だ。

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ

 人の位置を入れる。これでネームの完成である。

 ここで一度「ねとらぼ」の編集者にファイルを送って確認してもらう。ここだけ見ると本当のマンガのようだ。しかし、なにしろ編集者は「マンガ(風)」ではなくて「マンガ」の連載をしていると思っている。だから、マンガ家としてふるまい、だまし続けなければいけない。息を殺してメールの返信を待つ。

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ

 OKが出たら、レイヤーを追加して、いきなり本描きに入ってしまう。下描きはしない。いや、いくらマンガ(風)といっても、下描きはした方がいいというのは、わかっている。

 しかし早く描き終えて駅前の鳥貴族に行き、貴族焼(もも・スパイス)にかぶりつきたいという誘惑にはあらがいがたいものがある。鳥貴族がすばらしく良い店であることは、いまさら本稿で説明するまでもないであろう。

 鳥貴族はマンガを完成させるというモチベーションにもつながる。誘惑に流されて早く書き上げよう。

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ

 できあがったファイルを担当者に送付。Webページにアップしてもらう。

意識の超低いデジタルマンガ

 たまにバズる。たくさんの人に読まれることもうれしいのだが、これだけ反応があると、中には一つくらいは……

意識の超低いデジタルマンガ

 あった! 「おもしろい」という意見! たとえマンガ(風)でも、やっぱり最後まで描いてよかった。途中でくじけていたらこの反応は得られなかったのだ。

 鳥貴族で貴族焼を食べながら、このツイートをスクショである。

意識の超低いデジタルマンガ

 こうしてぼくの描いたマンガ(風)は無事公開された。ねとらぼ編集部からはギャラが無事振り込まれた。これで終了である。

 ……しかしマンガ(風)といえども、どうしても避けては通れない欲望がわいてくる。「出版したい」という気持ちだ。

 最近、Web発のマンガが出版されることが多い。Twitterでバズっているとすぐに出版社からのオファーが来る、なんてうわさも聞く。

 しかし、ぼくの描いたマンガ(風)は出版社から一切声がかからない。なぜだ……? バズっているのに。

 そう思って、マンガ雑誌を作っている知り合いの編集者に、自分が描いたマンガ(風)を送ってみたことがある。返事は「ネーム見せてくれてありがとうございます!」だった。なんてこった! ぼくが送ったのは完成原稿のデータだ。

意識の超低いデジタルマンガ

 ここでようやく気がついたのである。マンガ(風)では、本にはならない。だからみんな一生懸命魅力的なキャラを立てて、すてきな絵を描いて、おもしろいマンガを描こうとしていたのか! 

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ

 しかしマンガ(風)をあきらめてはいけない。自宅で少部数の冊子をきわめてカンタンに作る方法があるのだ。エプソンのA4カラーインクジェット複合機「エコタンク搭載モデル EW-M770T」である。

 なんとこのプリンターには、同人誌制作にうってつけのすごい機能が付いている。自動両面印刷とページを自動で面付けしてくれる機能(ブックレット印刷機能)だ。

意識の超低いデジタルマンガ

 本を作るときには、どのページがどこに印刷されるのか、というのを設定しなければいけない。これが実はとてもめんどくさい。EW-M770Tはこれをプリンターのプロパティからカンタンに設定できるのだ。

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ

 さらにこのプリンターは「エコタンク」というちょっと異常なほどインクが入るシステムを採用している。この黒インクを見てほしい、最初見たときに栄養ドリンクかと思った。

 なお、「エコタンク」のおかげでインク代が安くなるし、入れ替えの手間が省けるようになることは言うまでもない。

意識の超低いデジタルマンガ

 こんな感じでインクを注入。インクが適量入ると自動でストップするのがすごい。エプソンの人がきっと試行錯誤して工夫したのだろう。エプソンの人の意識が低くないことに感謝である。

意識の超低いデジタルマンガ

意識の超低いデジタルマンガ クリップスタジオで複数ページを開いて印刷を選ぶ(クリップスタジオEXの機能)

意識の超低いデジタルマンガ 「印刷のプロパティ」から「ページ設定」のタブに移動。「両面印刷」を「両面(自動)-長辺とじ」に設定。とじ方設定を「ブックレット」にする

意識の超低いデジタルマンガ

 あとはガーッと勝手に中とじの仕様に印刷してくれる。この段階になったらさっき我慢してもらったpixivを鑑賞して待つのも良いだろう。

意識の超低いデジタルマンガ あとは中をホッチキスで止めるだけ

意識の超低いデジタルマンガ このときに「ナカトジール」という冗談みたいな名前の定規を使うと便利

意識の超低いデジタルマンガ できた!

意識の超低いデジタルマンガ

 これがマンガ家(風)になれる方法の全てである。途中プリンターの詳細な説明を見て「なるほどプリンターの広告だからか……」と思った人もいるだろう。たしかにこの記事はエプソンの提供で書かれたものだ。

 しかし、実際使ってみると冊子を家で作れるというのはメリットが大きい。たとえば、同人イベントの前日や当日だって印刷が可能だ。つまりイベント当日ぎりぎりまでマンガを仕上げることができるのだ。この時間的メリットはうれしい。

 未完成でまだ人に見せたくないような状態でも自宅印刷なら自分以外には見られないので、いろいろと試し刷りをして実験することもできる。そうでなくても、一度プリンターでプロトタイプの冊子を作って実物を確認してから、印刷所にデータを納品して作ってもらうというのもアリだと思う。

 今回はマンガなのでクリップスタジオのファイルを使用したが、PDFファイルであっても同じように面付けをしてくれる。また、ワードなどからも作れるので、文芸を趣味としている人にもおすすめだ。写真用紙にも普通紙にもきれいに印刷することができるので、冊子だけでなく普段の印刷にも活躍してくれるだろう。

 というわけで、無事できた自分のマンガ(風)冊子を、今度の同人誌即売会で売ろうと思う。ぜんぜん売れない可能性は高いが、マンガ家(風)としては、「自分で作って売っている」という事実が重要だと思うのだ。

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