“AI市長候補”が市長選に出馬して分かったこと 「握手ができないAIは選挙活動が苦手」(1/2 ページ)
突如現れた奇抜な候補者はいったい何を目指していたのか。
4月の多摩市長選挙で異彩を放っていた“AI市長候補”こと松田みちひとさんをご存じでしょうか。
何の前触れもなく選挙戦に登場した松田さんは、市職員の優遇問題や少子高齢化、投票率の低下等さまざまな課題を抱えた多摩市政へのAI導入を提唱。「AI市長によるチャット相談」「仮想通貨TAMAコインの発行」といった斬新な政策を掲げ、特徴的なポスターなども含めてSNSで注目を集めました。
「しがらみのない公明正大な市政」を謳い出馬した松田さんですが、健闘むなしく落選。選挙は現市長・阿部裕行さんの勝利に終わりました。
インパクトが先行していた感もある“AI市長候補”ですが、松田さんはいったい何を目指して立候補したのでしょうか? 選挙結果を受けた今後の展望も含め、松田さんに伺いました。
「顔も見せずに失礼だ」とお怒りになるお年寄りの方もいた
―― 「AI市長」というプロジェクトを立ち上げたきっかけを教えてください。
松田みちひとさん(以下、松田):もともとインドのGenic.aiというAIの会社(※)の社長や仲間うちで「AIであれば政治家のほとんどの仕事がカンタンにできるのではないか?」という議論をしていました。そのような中で、私の出身地である多摩市の市長選挙が「無投票選挙」になりそうだと聞いて、「AIを全面的に打ち出した選挙キャンペーン」をやることになりました。
※2016年アメリカ合衆国大統領選挙においてドナルド・トランプ大統領の勝利を予測したとされるAI「MoglA」の開発元
―― 「AI市長」の旗を掲げて選挙を戦った感想はいかがですか。
松田:AIは政策立案能力や分析・判断能力に優れています。ところが政治家の仕事を優秀にこなせたとしても、政治の世界で有名な「握手の数しか票は増えない」「握手3人で1票」ができないのですよね。
肝心の政治家になるための選挙活動が苦手である、といえるかもしれません。また、多摩市は高齢者が多く、「AI、ロボットによる政治」が受け入れられなかった点も苦しかったです。実際ポスターを目にして「顔も見せずに失礼だ」とお怒りになるお年寄りの方もいました。
多摩市議会はいわゆる「オール与党」状態で、ほとんどの市議が「現職市長の3選」を望み、誰も市長選に立ちませんでした。組織票を持たない私としては、投票率をあげることで無党派層を取り込みたいと考えました。一般的に選挙は投票率が低いと組織票を多く持つ候補が有利とされているからです。しかし、そこは力及びませんでした。
―― 市政や国政にAIを導入すると、例えばどのような効果があるでしょうか?
松田:行政でも民間企業でも、年度途中で予算が不足しないように、少し多めに予算を取っておくのが普通です。結果として、年度末に余った予算を使い切るための無駄使いが行われます。AIであれば、予測能力が高いため、精緻な予算編成が可能となり「少し多めに」予算申請する必要がなくなるので、減税することが可能になります。
また、聖徳太子は一度に10人の話を理解したといいますが、AIであれば一度に1000万人や1億人の話を聞くことが可能です。つまり、国民の代弁者としての国会議員や地方議員の数を大幅に減らすことができると考えます。国民が望めば、議会制民主主義を終わりにして、直接民主主義に移行することも可能になるのではないでしょうか。
直接民主主義は衆愚政治に陥る危険があるとされますが、インターネットが普及した現代においては議員よりも津田大介さんや山本一郎さんのようなSNSなどで情報発信している人たちがすでに有権者の代弁者としての役割を果たしているので、何ら問題ないと思います。
―― そう聞くと選挙で負けてしまったのが残念に思えてきます。
松田:実は前述のインドの会社(Genic.ai社)は、私が99.99%の確率で落選することを事前に予想していました。現職は2期8年間の公務を通じて、日々有権者と触れ合っており、いわば8年間かけて選挙活動をしていたようなものであり、わずか1週間の選挙活動で現職の支持率を上回るのはとても難しいと思いました。
―― 当選していた場合、まず何を行う予定でしたか?
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