希望とか夢とか語ったりするな――「病院訪問教育」の現場描く漫画『マジスター〜見崎先生の病院訪問授業〜』が連載開始
教育って何だろう。
山本純士さん原作、棚園正一さん作画による漫画『マジスター〜見崎先生の病院訪問授業〜』が、5月11日発売の『ビッグコミックスペリオール』(小学館)から連載開始しました。
同作がテーマにしているのは「病院訪問教育」。多くの人には聞き慣れない言葉ですが、長期入院する児童を対象に、特別支援学校の教師を病院まで派遣して授業を行う制度のこと。似た制度として教師が病院内に常駐する「院内学級」もありますが、院内学級が設置されているのは限られた病院だけ。病院訪問教育の制度自体は全国的にありますが、特に愛知県では活発で、県内どこの病院でも小中学生が長期入院する場合は病院訪問教育が実施されています。
長期入院する必要があるということは、重い病気であることが多いわけで、不安や焦燥、無力感、そして絶望などさまざまな思いを抱えながら過酷な現実と向き合う子どもたち。当然、「教育のかたち」も学校のそれとは違うものになります。作中では、病院訪問教育のベテランたちと学校教員をへて新任でやってきた女教師(鷲見梅)の視点からそうした実態が描かれています。
山本さんも棚園さんも愛知県在住で、山本さんは『15メートルの通学路』で院内学級を受け持った経験をつづったこともあり、そのリアリティーは抜群。また、記者は約4年前、棚園さんが不登校だった実体験と『ドラゴンボール』の作者・鳥山明さんとの出会いを描いた『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)の刊行時にインタビューしましたが、当時から人の弱さやその心情などの細かな感情を丁寧に描き出していた棚園さん。ここ2年半ほどはずっとこのテーマに向き合ってきたとし、現職の病院訪問教育担当の教師である山本さんとのタッグで連載に至りました。今作でも、教師の情熱がかみ合わずに空回りし逆効果となってしまう苦悩や病室の外からでも漂ってくる子どもたちの負の感情などがつぶさに描かれ胸を打ちます。
「お前の持ってる教育論なんて役に立たん。希望とか夢とか語ったりするな。何もするんじゃない」「入院している子どもたちにとって、教師のコトバは時に鋭い刃になる」――。ベテランから忠告されるも、その真意をまだ理解できないままただ奮闘する鷲見先生。ラテン語で「教師」などを意味するタイトルが示すように、彼女が病院訪問教育の現場でつかんでいく「教育のかたち」は、子を持つ親にも、教育に携わる人にも読み応えのある展開となっていきそうです。
(C)山本純士・棚園正一/小学館ビッグコミックスペリオール
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