新聞から殺虫スプレーが飛び出す、折ると「G」になる……KINCHOのユニークな新聞広告 制作の裏側は
たびたびSNSで話題になるKINCHOの新聞広告。宣伝担当者に心がけていることを取材しました。
新聞をめくっていると、あれ、紙面からスプレー缶が飛び出して見える……?
KINCHOの殺虫スプレーの新聞広告が、「買うまでが広告です」というストレートな売り文句に加え、「※今回に限り、買ったように見えるサービスをご用意しました」と殺虫スプレーが立体的に見える写真を掲載。ユニークな仕掛けだとTwitterで評判です。
2015年には「飛んでいる蚊」を順番に結んでいくと「買って」「ひま?」といった文字が浮かび上がるイラスト。2017年には折っていくとあの“黒い害虫”が完成する「超難解折り紙」など、アナログならではの手法で定期的にネットを騒がせているKINCHOの新聞広告。どのように制作しているのか、KINCHOの宣伝部担当者に取材しました。
押し付けがましい広告と思いきや……
今回の広告は、日本経済新聞や産經新聞の5月25日朝刊に掲載。殺虫スプレーに害虫のイラストが入っているのに嫌悪感を抱いていた人向けに、外装フィルムを剥がすと真っ白でシンプルなデザインに変わる仕様の新商品「ゴキブリがうごかなくなるスプレー」の宣伝でした。
広告は新聞紙を斜めから見ることで、写真のスプレー缶と、「拡散」「脱皮」「買う」いずれかの赤文字が浮き上がって見える仕様に。その下には、次のような押し付けがましい説明文がつらつらと続きます。
「この新聞広告。あなたは読者として見ています。それだけでは何も生まれません。へぇと思ったら、お店で買ってみる。そうしてはじめて、広告は広告としての使命を全うするわけです。経済の敵は、その無関心。わかりますよね、企業からの単なる一方通行メッセージの虚しさたるや。さあ、考えてみてください読者の役割。(中略)自らがみな発信源となれるいま、さらに成熟した読者の役割とは何か――。拡散するまでが、広告です」
図々しいなと読み進めていたら、最後に一文。「※今回に限り、買ったように見えるサービスをご用意しました」。なるほど、このスプレー缶の写真を斜めから撮ってSNSに投稿したら確かに買ったように見える。メッセージの意図に感心してしまう内容です。
実際にTwitterでは、「新聞も3Dの時代ですなぁ」「キンチョーの広告の最適な角度探してたらもう10時」といろんな人が紙のスプレー缶を立体的に見えるよう撮影して投稿。「キンチョーの新聞広告面白かったので」とツイートした写真は9000回近くリツイートされ、「まんまと俺たちはKINCHOのワナにはまったわけだ」「爆笑」「狙い通り」と多くのユーザーが食いつきました。
「買うまでが広告です」というストレートなコピーについてKINCHOの宣伝部担当者は、「無視されない、スルーされない広告を常に考えの原点においています」と踏まえて次のように制作背景を説明します。
「広告の役割はさまざまありますが、最終的な目的は買ってもらうこと。今回はこれをあえて身もふたもなくストレートにメッセージとして伝えることをアイデアとしました。小学生のころ、誰もが耳にしたであろう先生の名言『家に帰るまでが、遠足です』をヒントに、まことしやかな面持ちで図々しいことを直球で言う。厚かましくも知的なユーモアを狙ったつもりです(笑)」
スプレー缶のビジュアルデザインは、「広告がスルーされないために、何か手を止めてもらえるアイデアを考えた」とのこと。
「当初は『買うまでが広告です』というコピーに合わせて『ゴキブリがうごかなくなるスプレー』を買っていただき、それを新聞原稿の上に置いて撮影してもらおうというアイデアでした。しかしもっと誰もがすぐに参加できるアイデアはないかと再検討した結果、『脱皮缶』のビジュアルを打ち出したいのもあって、トリックアートを撮ったら飛び出して見える仕組みにしました」
「自分たちでも作ってみたところ思いのほか楽しかったんです。こんなにデジタルが進んでいる時代なのに、飛び出すだけで『あ!出てる出てる!』と盛り上がるものなんだと感動したので決定しました。コピーも買わずともひとまずは『買って見えるようなサービス』としました。そんな中で実際にやっていただけた方々、本当にありがとうございました」
実は毎回、SNS拡散は意識していません
KINCHOの新聞広告は、2015年は「蚊文字」、2017年は「超難解折り紙」と、KINCHOらしさと新聞のアナログ手法をかけ合わせたアイデアでたびたび話題になっています。今回Twitterでは「KINCHOの広告は相変わらず面白い」「毎回攻めていて好き」と定評を感じられる声がいくつもあがっていました。
これら3つはいずれも同じスタッフが中心となって企画制作しています。クリエイティブディレクターとコピーライターは古川雅之さん(電通関西支社)、アートディレクターは大松敬和さん(モノリス)、デザイナーは水江隆さん(モノリス)・苅田哲平さん(モノリス)が毎回担当。さらに「超難解折り紙」のコピーには直川隆久さん(電通関西支社)・廣瀬泰三さん(電通関西支社)、「買うまでが広告です」のアートディレクターには茗荷恭平さん(電通関西支社)が参加しました。
「“話題になる”という前に、“無視されない”広告を常に考えの原点においています」とKINCHO宣伝担当者。他の広告にはない「新聞広告」のおもしろさ、強みについて次のように説明します。
「流れて行くテレビやラジオ、通り過ぎるポスターや看板と違って、新聞はひとたび手を止めてもらえると滞在時間は自在です。1日家の真ん中にある、何度でも見られる、家族で話題にできる。パラパラと読み飛ばされてしまわないよう、少し手を止めてできるだけ長い時間、広告を通して『KINCHO』と接していただけるように、何かしらの『サービス』を考えています」
「また、アイデアでは『紙』ならではの特性がいかせないかをヒントにしています。書ける、折れる、切り抜ける……手を止めて参加してくださった方が、やられた! 面白かった! と楽しんでくれたり、誰かに言いたくなったりするような広告を目指しています」
一方、SNSでの話題づくりについて尋ねると、意外な答えが。
「実はSNS拡散は意識している風で、実はそんなに意識していません。『拡散してほしい臭』、たくらみやあざとさが全面に出ると裏目に出る時代なので……今回はそんな時代へのアンチテーゼとして、あえて拡散してほしいと直接お願いする話法をとりました(笑)。難しく考えすぎず、それが『面白い』『誰かに言いたい』と思った広告であれば自然に誰かに伝えたくなるでしょうし、そのツールが今はただ『SNS』であるだけだと思います」
「それを踏まえて、SNSで拡がるものは、ちょっと珍しいもの、何か発見があるものかなと思います。あと、面白さがひと言で誰かに伝えられる『コトバ』か『ビジュアル』です。そういった要素を含んだ『引っ掛かり』に共感が生まれたとき、話題となって拡散されるのではないでしょうか」
「拡散よりも本当はもっと見た人の心に直接刺さりたい、新聞広告を見てこれ面白いなと思ってもらいたい。せっかく広告を通してKINCHOと接していただけたなら少しでもその時間を楽しんでいただきたいです。今回はこの一方的な意見広告を理解していただき、そして多くの方に拡散していただけたことは非常にうれしく思います。『読者の役割』を果たしてくださったみなさま方に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。そして、買ってください!(笑)」
(黒木貴啓)
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