東大に入るために「最も重要なもの」を答えなさい――地頭、努力、経済力 受験漫画のブレーンが語る「東大生を作ったもの」(1/3 ページ)
「二月の勝者」(スピリッツ)×「ドラゴン桜2」(モーニング)。東大生ブレーン5人に話を聞いた。
2018年1月、青年誌ならではのリアルな描写が特色の受験漫画が2作登場しました。一つは中学受験をテーマにした『二月の勝者-絶対合格の教室-』(高瀬志帆、小学館)。もう一つは“東大合格”を徹底追求したヒット作の続編『ドラゴン桜2』(三田紀房、コルク/講談社)。
ねとらぼではこの度、週刊ビッグコミックスピリッツ編集部・モーニング編集部協力の下、『ドラゴン桜2』の現役東大生ブレーン5人に取材。東大に合格できた要因、家族ができる環境の整え方、受験にまつわる印象的なエピソードなどを伺いました。漫画本編とあわせてお届けします。(聞き手:高橋史彦、杉本吏)
東大生ブレーンとは?
東大合格請負漫画こと前作『ドラゴン桜』は、担当編集(佐渡島庸平氏は灘・東大卒)の受験経験を反映させたことで知られる。完結から10年経って受験環境が変化したため、現在の状況を把握するために組まれたグループ。作者の三田紀房先生と週1程度で打ち合わせ、勉強方法や受験生の最新情報などを提供しているという。
今回の参加メンバー
- 西岡さん:経済学部3年生、東京出身
- 西山さん:文学部4年、新潟出身
- 寺道さん:教育学部3年、大阪出身
- 小川さん:文科三類2年、青森出身
- 飯田さん:法学部3年、東京出身
- 千代田さん:文学部2017年卒(小学館 『二月の勝者』担当 )
漫画『二月の勝者』 6月12日にコミックス2巻発売
中学受験界のスーパー講師・黒木蔵人(くろきくろうど)。「生徒を第一志望校に絶対合格させる」という彼は“受験の神様”のような存在でありつつも、ときに怖いほど過激な発言をする“悪魔”。物語は新米講師・佐倉麻衣(さくらまい)の就職先に、黒木が新校長として赴任するところからスタートする。
漫画『ドラゴン桜2』 7月23日にコミックス2巻発売
元暴走族の弁護士・桜木建二(さくらぎけんじ)が経営困難となった落ちこぼれ高校で「東大合格者100人」を掲げて学校改革を実施。大きな実績を残すも、桜木が顧問弁護士を辞めた後にやってきた“女帝(理事長代行)”により同校の雰囲気は一変してしまう。低迷した進学実績の前に桜木が再び現れて――。
――早速ですが、受験において大事なことを聞きたいです。「東大に合格できた要因」をいくつか挙げてみたのですが、重要だと思う順番とその理由を教えてください。
西岡:
- 1位.家庭の経済力
- 2位.友人関係
- 3位.努力の量
- 4位.住んでいる場所
- 5位.先生
- 6位.地頭の良さ
僕の出身高校は偏差値でいったらとても低いところで、そこから二浪して東大に入りました。なので、まずは経済力。それから浪人時代に予備校に通って「東大を目指す仲間」が初めてできて、ものすごく鼓舞されたり精神的に安定したので友人関係も上位になります。地頭の優先度が低いのは自分が頭良くないから。小学校時代に受けたIQテストは散々だったし、二浪したときは「ダメだな」と落ち込みました。それをいろんなものでカバーして何とか(東大に)滑り込んだんです。
西山:
- 1位.努力の量
- 2位.地頭
- 3位.先生
- 4位.友人関係
- 5位.住んでいる場所
- 6位.家庭の経済力
性格上、「周りがいなくても勉強できる」「結局は自分の点数が頼り」と考えているのでこうなりました。3番目以降はいずれも環境に関わるものですが、私の親は勉強や受験にノータッチでした。母からは「私は何も分からないから先生のところに行きなさい」と言われて、実際高校の先生にはとてもお世話になりました。毎日教務室に通って添削……東大を目指すのが私しかいなくて、ほとんど1対1で教えてもらいました。場所と経済力が下なのは、最終的には自分次第であり、どこにいても学力は上げられると思っているから。「東大生の親の平均収入は高い」というデータはありますが、我が家は平凡な家庭。両親はともに高卒で特に役職のある立場でもないけれど、結果的に東大に通えています。
寺道:
- 1位.地頭の良さ
- 2位.住んでいる場所
- 3位.家庭の経済力
- 4位.友人関係
- 5位.先生
- 6位.努力の量
僕の場合、東大に合格した一番の要因は中学受験で成功したことです。灘高出身なのですが、中学受験だと努力よりも地頭の良さが関係してくるので……勝手な思い込みかもしれないけれど。小学4年生で塾に入ってたまたま最初に受けた模試が成績上位でした。それで「灘を狙えるぞ」となって、スタート地点がそもそも良かった。また灘まで通学できる範囲に住んでいたのも大きかったです。もちろん、私立学校や塾に通える経済力は大事。そして灘だとみんなが自然に東大を目指しているので、受験に関する情報も必然的に入ってきました。僕がいた環境に誰かを置けば高確率で東大に入れると思うので、努力は最後です。
――割り切りがすごいですね……。続いてお願いします。
小川:
- 1位.家庭の経済力
- 2位.住んでいる場所
- 3位.友人関係
- 4位.努力の量
- 5位.地頭の良さ
- 6位.先生
最優先に経済力を置きました。自分は高校受験で失敗して第一志望ではない私立に通い、浪人もしました。周囲にはお金がないから大学を志望しない層が一定数いました。幸い自分はを自由を与えてもらえましたが、やはり経済力は大前提だと思っています。次が場所。青森県の蓬田村という人口3000人未満の土地で育ち、大学浪人で上京したところ、入ってくる情報量から設備から何もかも違って。いる人間も多様で刺激を受けました。
地頭が下位なのは、小学校時代の体験から。小さい村なのでクラスは25人程度、勉強することの価値基準も決して高くない環境でしたが、成績は4位止まり。僕より明らかに賢かった3人がいたんです。ただ、その3人の進路は地方国立大学、短大、高卒。なので“受験という世界”においては地頭はそれほど重要ではない。最後は先生。これに関しては、受験に明るい人はネットにもたくさんいるので、必ずしも先生を頼る必要はないと感じています。
飯田:
- 1位.努力の量
- 2位.地頭の良さ
- 3位.住んでいる場所
- 4位.友人関係
- 5位.先生
- 6位.家庭の経済力
勉強ができる、努力ができることも才能の一つだと思っています。「勉強してわかるようになる。そうすると楽しい」というサイクルに入れるかもある程度個人差がある。僕は中高一貫校の麻布出身で、そこは勉強の効率が良い子が多かった。高2まで部活や文化祭などに気合を入れるのに、それが終わると帳尻を合わせてくる。周りの友人が頑張るから自分も努力できた。当時入っていた水泳部ではいい感じに競い合う関係が築けてメンバー全員が東大に合格しました。そういう個人的な体験から順番は相対的に決めました。
――それぞれ説得力がある。振り返ってみて「親が受験を成功させるためにやっていたこと」はありますか?
西岡:
中学受験のときは親にめちゃめちゃ言われた結果、全く勉強しませんでした。“良い子”なら言うことを聞くかもしれないけれど、自分はそうじゃなかった。中学に入ってからは、干渉はなくなって応援だけしてくれるようになりました。親がすごく干渉して東大に合格した例ってあまり聞かないです。「良い意味での放任」が受かりやすいんじゃないかな。
西山:
学習面では全く干渉してきませんでした。そこに関しては先生の方が知識があるから任せる、と。一方で精神面ではたくさんサポートしてもらいました。「母:食事、父:マッサージ、兄:相談/談笑」と家庭内で分担されていて。家族は“その子自身を支える”のが上手なやり方だと思います。
寺道:
漫画に印象的なセリフがありますが、うちの母親がわりと狂っていて(笑)。小4のときに模試の成績が急落したら、漫画を全部クローゼットに隠して、代わりに図鑑やドリルを買ってきたんです。そして「一緒にやろう」と。母は別に勉強が得意なわけではなく、一緒に考えて解いてました。他にも塾に電話して「息子が分からないと言ってるので教えて」と。クレイジーなんですけど成績向上には役立ちましたね。当時は自意識がなく反発もせずに素直にやっていました。
小川:
勉強に集中できる環境を作ってもらいました。掃除洗濯送り迎え……そのせいで今一人暮らしで苦しんでいます(笑)。幼少期は「自分のやりたいこと」を尊重してくれて、絵本の読み聞かせや、理科の実験をしたいと伝えたら薬局で材料を買って来てくれるなど。あとはやったことに対してフィードバックをしてくれたのも大きかったです。
父は仕事で家にいなかったので母を中心に親戚が協力してくれて。親族で一番年下だったせいか皆優しかったですね。年上の人と話す機会が多かったことは、言語能力の面で鍛えられました。
飯田:
本がすごく大事だと思います。小さい頃は『ドラえもん』の学習シリーズをたくさん読んでいました。父が読書家で「本にはお金をかけてもいい」というスタンスで、いろいろ買ってもらって。小4のとき塾の体験授業で平方根の計算が出てきたんですが、事前に読んでいた本のおかげでスラスラ答えられて楽しかった。それが塾に嫌にならずに通える原点だったのかな、と。塾もおだてるのがうまい所で、座席の位置で成績が分かったり、模試で上位になると表紙に名前が出たり、カエルバッジ(小学生内で価値がある)がもらえたり――モチベーションを上げる仕組みが多数ありました。そこにうまく乗れたのは良かったです。
――子ども心をよく分かっていると。家族とのエピソードで印象に残っていることはありますか?
西岡:
うちの家族は、『ドラゴン桜』でいったら母親は菩薩のようで、父親は矢島勇介の父みたいなタイプでした。二浪の合格発表前日、単身赴任から帰ってきた父親が分厚い書類の束(センター試験の点数推移、合格最低点の予想、試験の難易度など)を持ってきて「どうなったか教えろ」と言うんです。「前日にそりゃないだろ!」と大ゲンカになったんですが、そのときに「でもさ、お前二浪したじゃん。これで受かんなかったらかわいそうじゃん」と言われて、そこで初めて自分のことを手放しで応援してくれていたと知りました。てっきり合格しないと父が困るのかと思っていて……。ちなみに合格結果は父親が先に見て、受験番号が20666だったからか「オーメン! オーメン!」叫んでいてヤバかったです。
西山:
親に対して自分の成績をまったく伝えてなかったんです。「テストどうだった?」と聞かれて「普通」と答えるのをずっと続けていた。あとで知ったんですが、あまりにも言わなかったら、両親が東大受験生のブログを読むようになって、そこで仕入れた情報を私に伝えていたそうです。あるとき、模試の成績が出たら父が「チャウコン(※)がな……」と言ってきて(笑)。受験生ブロガーの状況にすっかり詳しくなっていたのを聞くと、もっと自分の情報を伝えておけばよかったなと。
※東大を目指しているブロガー。とても人気がある
寺道:
高2のときに東大のオープンキャンパスに行ったことですかね。自分は興味がなかったけれど母親が「行ったら?」と新幹線の切符を買ってきて、ツアーにも申し込んでいた。その頃は言われたことに従うこと自体が好きじゃなかったけれど、そこまで整えられていたら断れない。母親はどうしても東大に行って欲しかったんだなぁと。父親は勝手に東大に行くものだと思っていて、勤務先で言いふらしていたそうです。だから一浪したときはびっくりしていた。
小川:
母からはよく「やりたいことをやるべき、そのために最低限課されたものはやろう」と言われました。小中は野球漬けだったのですが、野球をするためには学校の課題もこなさないといけない。自分がやりたいことに協力してくれる半面、締めるところではガッツリ締める親でした。祖父は「何事も一番にならないと意味がない」と言っていて、この言葉はそれほど重く捉えていなかったけれど、向上心を植え付けてくれました。“常識”が一段上に設けられたので。
飯田:
大学生になってから「まさか東大に受かると思ってなかったわ」と言われました(笑)。両親とも勉強について言ってくるタイプではなくて、模試の結果など自分の成績はちゃんとコメント付きで伝えていました。麻布には校内の実力試験の結果と過去の進学先をまとめたデータがあって、一つの指標になっているんです。そこでも悪くない成績だったので、てっきり安心しているかと思ったら実は心配していた。そこのギャップには驚きました。ちなみにうちの親もネットをよく見ていて……なんであんなに受験情報を集めたがるんですかね?
――笑。
(つづく)
試し読み:『2月の勝者』第2話
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