女流棋士の”表情”が変わる瞬間。里見香奈 VS 室田伊緒 将棋イベント初心者が見た「将棋界のふしぎ」体験レポート(3/4 ページ)
いよいよ対局。ここから空気が一変する
休憩が終わったあとは、いよいよ対局です。里見女流四冠と、室田伊緒女流二段。その意気込みを語り、将棋盤の前に座ります。
(なお、ここからは将棋大好きなねとらぼアンサー編集長・杉本に筆者(辰井)のガイド役を担ってもらいます)
辰井:礼の角度が深いですね。皆さん将棋棋士の方は礼の角度が深いような。
杉本:はっきりそういう傾向があるように思いますね。おじぎの深さで有名な人とかいるんですよ。森下先生(森下卓九段)っていう。
盤上に座ると、2人の表情は打って変わって真剣モード。目つきが変わり、キッと怖ささえ感じるような顔つきに。先ほどまでにぎやかにおやつを食べていたのが信じられないほどです。
解説の声が、対局者に聞こえまくる!
はじめての公開対局観戦。ここで、テレビ対局などではありえないシーンに出くわします。解説と聞き手の声がふつうにスピーカーを通してみんなに聞こえていて、対局者にも丸聞こえなのです。
対局者にヒントを与えてしまうのでは? と思ってしまいますが、イベントなどではこういった形式はよくあるのだとか。ただ、要所になると「▲2三銀」などと具体的な符号は口に出さず、盤を操作しながら「これをここに」という風に、対局者に分からないように示していきます。
さらには対局者をいじるエピソードをまじえながらの爆笑トーク。まさにいま戦っている対局者は気になったりしないのでしょうか? ちょっとハラハラします。
杉本:室田さんもですが、里見さんはかなり前傾姿勢が深いというか、盤上に没頭している感じがありますね。
対局者の「目線」で戦況が分かる
杉本:対局者を見ていると、目の動きが、自陣を見ているときと、敵陣を見ているときとがあって。いま目線が上下してるから、盤面全部を広く見てるなとか、自陣を見ていればもちろん守りを考えているし、敵陣を見ていれば詰まそうとしているのかなとか。っていうのも一つ楽しむポイントですね。
辰井:形勢をどう考えているかもそこで分かると。
負けられない室田女流二段も、徐々に里見女流四冠と同じぐらいの前傾姿勢に。そして、乗ってきた里見さんの体が、前後に揺れだします。
銀で桂馬を「食いちぎる」? 将棋用語の面白さ
里見女流四冠が室田女流二段の桂馬を取ったとき、聞き手の山口女流二段から「いやらしい桂馬を食いちぎりましたね」というコメントが出ました。桂馬を食いちぎる……若い女性らしからぬ猟奇的な発言です。
辰井:いまのもそうですけど、将棋の人って言葉遣いが面白いですね。
杉本:そうですね。桂馬を銀(この日の将棋では金)で取るときは、食いちぎるってよく言いますね。
辰井:常用フレーズみたいなのがあるんですね。
杉本:なぜかいつも桂馬は「食いちぎる」ものなんですよね。ほかにも「竜をしかりつける」とか「歩を打って謝る」とか、駒を擬人化したような表現もいろいろありますね。
どんどん局面が変わりに変わりまくるので、解説と聞き手は大変です。ときに里見女流四冠はプレッシャーをかけるためなのか、秒読みに入ってからもほぼ時間を使わずに指すことも。展開の早い攻防を見ていると、まるでスポーツ観戦のような感覚を覚えました。
そしてついに、里見女流四冠の迫力の攻めが決まり室田女流二段が投了。対局前「結果を出したい」と語っていた室田女流二段の悔しい表情が、スクリーンに一瞬映りました。1時間前のほんわかとしたトークショーのときとは別人の顔がそこにはありました。
仕事終わりにちょっと「異世界」を垣間見られる
2時間がアッという間にすぎました。トークコーナーのゆるさと、対局時間の真剣勝負とで大きな対比が感じられる、いままでまったく味わったことのないイベントでした。
和の伝統と礼儀が現代的なものとミックスされることによって、他から見ると興味深い独特のカルチャーが息づいているのが将棋界で、それが垣間見えるのが「将棋イベント」。「将棋界という、気品とユーモアのある異世界」を感じたいときは、お仕事終わりに寄ってみるとちょうどいい催しだと感じました。
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