藤原道長は「ふじわら『の』みちなが」なのに、足利尊氏は「あしかが『の』たかうじ」でないのはなぜか?(2/2 ページ)
少し想像を巡らせてみてほしいのですが、日本史に出てくる「藤原」という氏名の人物はどのくらいいるでしょうか。辞書が手元にある方はそれを引いてみていただいてもよいでしょう。道長、頼道、鎌足、不比等、公任、純友、兼家、道綱……。
そう、「藤原氏」が多すぎるのです。当時の平安京で「藤原さん」と呼びかけてしまうと、とんでもない人数が該当したのでしょう。「藤原氏 家系図」などと検索すると、横にも縦にも広く連なったものがたくさん見られます。
そこで、京都に住む藤原氏たちは、住む場所によって個人を区別することを始めました。一条通りに住んでいるなら「一条殿」、堀川通りに住んでいるなら「堀川殿」といった具合です。
こうした称号が何世代にもわたって続いて一定の家系を指すようになったとき、それが「名字」となりました。「五摂家」といわれる一条家、二条家、九条家、鷹司家、近衛家もこのパターンです。
武士の名字
藤原氏は公家だったので邸宅で呼び合いましたが、同じように同族が増えていったほかの氏名はどうでしょうか。
源氏や平氏は武家だったので、京にとどまらず各地に散って領主となっていきます。そこで、武士は各々が治めていた領地を称号にし、これが後に名字となっていきました。
例えば、足利尊氏を生んだ足利家は源氏の子孫ですが、祖先が足利荘(あしかがのしょう、現在の栃木県にある地域)の領主であったため「足利」という名字を名乗るようになりました。足利尊氏の名前を略さず書くと「源」が登場します。
徳川家康もまた源氏の子孫であり、「徳川(得川)」や旧姓の「松平」は、祖先がそうした名前の地域の領主であったことに由来します。
つまるところ、「源」「平」「藤原」などはもともと氏名(うじめい)ですが、「足利」や「徳川」は、もともと同じ氏名の人を呼び分けるための称号だった、という点で違っているのです。
その後は
治めていた地名が名字になるということは、領主階級たる武家の象徴でした。こうした背景から、身分階層の分離が進んだ江戸時代には、武家以外が名字を公の場で名乗れないよう制限されました。武家だけが刀を持ち歩けたことと合わせ、「名字帯刀」と呼ばれます。
しかし、明治時代になると、新政府は古代からの氏名・中世以来の名字・姓(カバネ、天皇が有力者に与えた称号)などをひっくるめて「名字」としました。分かりやすい戸籍の整備のために、全ての人は「名字+個人名」で構成される本名を一つだけ名乗ることと定め、現代に至っています。
この記事では大きな流れだけを説明していますが、日本人の名前の多くはルーツを非常に長くさかのぼることができ、複雑です。自分の名字や歴史上の人物の名前がどう生まれ、どういう構成になっているか、ぜひ探ってみてください。
参考文献
中村友一『日本古代の氏姓制』八木書店、2009
奥富敬之『日本人の名前の歴史』吉川弘文館、2018
大藤修『日本人の姓・名字・名前 人名に刻まれた歴史』吉川弘文館、2012
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