MaaSって何? CASEって何? 交通のラストワンマイル問題に挑む「ニッポン発」の小難しくない自動運転(1/2 ページ)

おぉこれは老後が安心……!! ヤマハ発とWHILLの取り組みに期待。

» 2019年02月25日 18時00分 公開
[太田百合子ねとらぼ]

 ひと昔前、通信業界で「ラストワンマイル問題」という言葉がよく使われました。

 最後の1マイル、あと少し足らない──。ラストワンマイルは通信回線を利用者の家や会社までつなげて、ネットが使えるようになるまでの最終区間や最終行程のことを指します。「あと少しでできる」、あるいはそれがなければ「肝心のところがだめ」の例えとしても使われることがありました。

photo CES 2019の会場で走行デモを行ったヤマハの自動運転カート「Public Personal Mobility」。6人乗りのEVゴルフカートをベースに開発

 実は今、超高齢化社会となった日本を初めとする先進国の交通インフラにも「ラストワンマイル問題」が出はじめてきています。

 自動運転が実現した未来の交通社会はどうなっているのか。自動車メーカーが多数参加するようになり、近年はまるでモーターショーのような様相もある、米国で行われたITの大型展示会CES 2019。この展示会で多くの企業が未来を示し、期待させる多くの自動運転技術を披露しました。

 ここでは、実際に私たちの生活に直面する問題だと自然に理解できた、2つの日本メーカーの取り組みを紹介します。

お年寄りと地域の課題を分かりやすく解消 ヤマハ発の「自動運転カート」

 「自動運転車」で頭に浮かぶのはどんなクルマでしょうか。ロボットが操縦したり、映画に登場するような未来的なデザインのクルマを、あるいはテスラのような何となく実現に近いイメージのある乗用車かもしれません。

 二輪車メーカー大手のヤマハ発動機が示したのは「自動運転のEVカート」です。その形は、ゴルフ場にあるカート、あれです(ちなみにヤマハ発動機はもともとゴルフカート、ランドカート製造の大手でもあります)。同社はCES 2019の会場でこの自動運転カートのデモ走行を披露し、多くの来場者がデモを実際に体験していました。

photo Public Personal Mobilityは「電磁誘導線の引かれたルート上」で自動運転する仕組み。敷地内の移動や路線バスのように、決まったルートを走る用途に特化することで、早期導入や低価格化を進めやすいのがポイント。センサーや自動ブレーキを搭載し、歩行者や障害物を回避しながら走行できる

 ヤマハ発動機は、2017年から国土交通省が先導する「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実証実験」に参加する1社。自動運転の中でも「電磁誘導式」の仕組みを用いた自動運転車両の開発を進めています。今回のCES2019で披露したのは、この実験車両を一歩進めた新世代マシン「Public Personal Mobility(PPM)」です。

photo 国交省が先導する「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実証実験」の実験イメージ(出典:国土交通省「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実証実験」サイト)

 ヤマハが述べるPublic Personal Mobilityの何よりのメリットは、「低コスト」なことです。

 開発競争が著しい自動運転車は確かに、夢から“もう、すぐそばまで来ている”と感じられるようになりました。しかし現段階では汎用的な乗用車向け自動運転のための部品だけでも、10万ドル(約1100万円)を超えるコストが掛かるという話です。レーザーレーダーや3Dセンサー、制御システムなど、自動運転の技術や部品からそもそもとても高額。数千万円の乗用車を買える人は限られます。バスなどの大型車両となればさらに高額になることでしょう。

 それに対して、電磁誘導式は決められたルートのみを走るシステムです。自律して走行するのは同じですが、走行エリアを限定するので他の汎用的な自動運転車やシステムと比べれば軽いシステムで済みます。車体価格もヤマハによると、「既に商品化済みのEVゴルフカート」をベースにできることから、2019年1月時点でも1台当たり数百万円単位で実現できるそうです。

 もっともベースは電動のEVゴルフカートですから、速度は最大でも時速20キロほどで、前述したように決められたルートしか運行できません。遅い? 不便そう? いえ、利用シーンに特化すれば、これはむしろメリットです。

 分かりやすい利用シーンは、街中で駅や要所を定期巡回する「地域のコミュニティーバス」です。「ある地域。住人がいるので需要はある。人口は減っているが、その分割合の増した高齢者の多くにとって、たった1つの移動手段であるほどまでに重要である。しかしおカネの面もそうだが、それよりも先に運転手のコストと人手の確保に大きな課題があり、継続の是非を問われている──」。地方自治体の多くに望まれているのは、「人」にフォーカスしたこうした乗り物なのだそうです。

 そこでPublic Personal Mobilityは「AI車掌」と呼ぶ機能を実装しました。クルマは無人ですが、機械が車掌の代わりに乗車チェックや乗客とのコミュニケーションを担います。事前登録した情報から、カメラで乗客の顔を認証したり、その乗客がAI車掌に向かって「いいよ!」といったジェスチャーをすると発車する、といった仕組みを備えます。

photo AI車掌は顔認証で乗客と乗降を管理する。ジェスチャーで走る/止まるを指示する制御も可能。全員が一緒にジェスチャーすると動き出すといったゲーム的要素も含められるので、遊園地などでの利用シーンにも向きそう

 顔認証による乗客の管理も、田舎の小コミュニティーなどでの運用を想定したからこそのものだそうです。ご近所の皆さんを認識できるならば、乗車/降車だけでなく安否確認もできますし、移動スーパーなどの機能と絡めた決済機能、通報・通知機能や防犯などを結び付けるといった応用もできるかもしれません。

 デモ走行では、人が横から飛び出してくればしっかりと認識してそっと停止。極めてスムーズでした。

 自動運転の車両は慣れないと漠然とした不安がまだ残るものですが、乗客はカメラに向かってジェスチャーすれば一定の制御もできます。Public Personal Mobilityは、まず速度がゆっくりなことがまず大きいのですが、いざというときに制御できることも不安を感じなかった理由かもしれません。とても快適な乗り心地でした。

PPMのコンセプトカーも出展

 ヤマハブースにはPPMベースのコンセプトカーも出展していました。

photo PPMのコンセプトモデル。運転席が不要な分、スペースはかなり広く取れる。コミュニケーションを楽しみながら移動するシーンを想定

 これはまさに「“移動する”憩いの場、公園のベンチ、あずまや」。

 将来PPMが単なる公共交通として使われるだけでなく、お年寄りのコミュニケーションの場となっている姿も想像し、なんだかほっこりしてしまいました。……いえいえ。人ごとじゃありません。このお年寄りの姿は20年後、30年後の私、そしてあなたかもしれないのですから。

photo テーブルを広げてたくさんの荷物を積めるようにしたり、仕事や食事をしながら移動したりするといったシーンもある

 続いては、「日々の買い物」や「広い施設内の移動」の課題も解決する自動運転技術です。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた