「小足見てから昇龍拳かよ」 週刊ダイヤモンドの「挙動を感じて8フレーム後に昇龍」に格ゲーマーからツッコミが殺到した理由
「8フレームへの反応はいかに困難なのか」「格闘ゲーマーの言う反応とはなんなのか」という視点から、今回の騒動を解き明かします。
週刊ダイヤモンドのインタビュー記事「プロゲーマーだった中高時代、『底知れない1位』という存在にこだわりたい」が格闘ゲーマーの間で物議を醸しています。じげん社の社長である平尾丈さんへのインタビュー記事で、格闘ゲーマーだったという自身の生い立ちを語る内容ですが、その中の「フレーム」に関する記述に物言いがついた形です。
特に問題視されているのはじげんの社長である平尾丈さんが傾倒していたという格闘ゲームに関する話題の中で飛び出した「相手の挙動を感じて7、8フレーム後に(昇龍拳を)打てれば、たいてい勝てます。これが分かってから85連勝しました」という回答。文面通りに読めば、“何らかの動きを見せれば8フレームほどで何らかの入力ができる(反応できる)”ということになりますが、これについて格闘ゲーマーから「ありえない」「“小足見てから昇龍拳”みたいなもの」と批判されることに。

また、「本当にできたら神業」「そんな昇龍拳見たことない」といった声も見られ、いつの間にか平尾さんに「昇龍平尾」という二つ名が爆誕するまでの事態となっています。インタビューのフレームに関する記述がなぜこれほどの騒動となったのか――「8フレームへの反応はいかに困難なのか」「格闘ゲーマーの言う反応とはなんなのか」という視点から、今回の騒動を解き明かしてみます。
「8フレームへの反応」ができたら伝説になれる
ここでいう「フレーム」とは、ゲームの時間を示す単位のこと。平尾さんがプレイしていたという「ストリートファイターII」では基本的に1秒が約60フレームになるため、1フレームは約0.0167秒。8フレームであれば約0.1333秒となります。
しかし、「8フレームの反応」は格闘ゲーマーの一般常識からすると絶対に不可能な領域です。少し難しい話になりますが、もし8フレームで安定して反応できるのであれば、ストリートファイターIIに多数存在する「発生フレーム」(技を入力してから攻撃判定が発生するまでのフレーム数)が8以上の技をほぼ確実にガードできるだけでなく、レバーの入力さえ済ませていればこれらの技を無敵技(※)である「昇龍拳」で狩ることができるようになり、事実上完全に無効化できてしまいます。また、そのような優れた反応を持っていれば、仮に発生フレームが8未満の技であっても相手の技の空振りを見てから狩る「差し返し」が容易になるため、地上戦でも無類の強さを発揮したはずです。
※無敵技:相手の攻撃が当たらない(=無敵)状態になる性質を持った技。ストリートファイターシリーズの「昇龍拳」は基本的にほぼ全て無敵技
実際、(ハードやソフトによって条件が異なるため正確な比較は難しいものの)現在の格闘ゲームで考えても8フレームの動きを「見て(認識して)から対応する」という場面は、数百万円の賞金がかかった大規模大会ですらほぼ皆無です。例えば、現行の最新タイトルである「ストリートファイターV アーケードエディション」の代表的な地上中段技であるリュウの「鎖骨割り」の発生フレームは22フレームですが、猛者の格闘ゲーマーですら、対戦時にこうした技を確実にガードするのは難しいのです。
※中段技:しゃがみガードでは防げない性質を持つ技のこと。ストリートファイターシリーズなどの2D格闘ゲームでは、比較的発生フレームが遅い技が多い
もし、8フレームに反応できるプレイヤーが出現してしまうと、ストリートファイターIIだけでなく、ほぼ全ての格闘ゲームの根本的な駆け引きが一気に崩壊することになります。仮にそんなプレイヤーが居たとすれば即座に有名プレイヤーとなっていますし、数々の大会で優勝をかっさらい、今でも伝説のプレイヤーとして語り継がれていたでしょう。
格闘ゲームにおける「反応」
ところで、格闘ゲーマーはどうやって相手の技に「反応」しているのでしょうか。以下余談(?)となりますが、「フレーム」は反応を語る上で極めて重要な指標ではあるものの、絶対的な基準かというとそうとも言い切れません。
格闘ゲーマーが技に「反応」する際、「複雑な判断が絡んでいないか」「技の視認性は高いか」などフレーム以外の要素も考慮しています。例えば、普段は25フレームでヒットする中段技を安定してガードできても、さまざまなガード崩し手段をチラつかせ意識を散らされるとガードできなくなることもありますし、キャラクターのモーションが小さい(=視認しづらい)場合なども、技の初動を見切るのが難しい分、反応が遅れがちになります。極めて優れた反応を持つプレイヤーなのに相手の前ジャンプを対空で撃ち落せない……というケースがあれば、これも発生フレーム以外の部分が影響しているからと思われます。
つまり、本来発生フレームだけを見て反応できるかどうかは判断できない……のですが、その技がどんな性質をもっていようとも「発生8フレームの反応」は格闘ゲーマーの常識から外れたものであるため、今回のような騒動につながったといえます。もし、仮に「相手が少しでも動いたらボタンを押す」のような極力シンプルな思考を持った上で、極めて良好な視認性を持つ動きに対処しようとしても、8フレームほどで反応して入力するのは、現実的に考えて不可能なのです。
余談中の余談になりますが、「反射神経がよくないから……」と考えて格闘ゲームの世界に足を踏み入れられない人には「反応速度はそこまで重要ではないよ」と言いたいところ。現に編集部員数人で反応速度チェックを行ったところ、社内一格闘ゲームがうまい(多分)筆者ですら編集部内では平均以下でした。
平尾さんはフレーム感覚を間違っていただけ……?
ダイヤモンドの記事については、フレームに関する問題以外にも「本当にウメハラと対戦していたのか」「本当にプロゲーマーだったのか」など、格ゲーガチ勢から批判が殺到しています。しかし、平尾社長はさまざまなインタビューで格闘ゲームについて触れている他、じげん社内に格闘ゲームのマスターピースとも呼べるタイトル「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」の筐体や、格ゲーマー御用達のコントローラー「リアルアーケードプロ(RAP)」を設置するなど、本来は格闘ゲームに造詣が深かったと思われます。
「8フレームへの反応」は不可能なはずですが、平尾さんが格闘ゲームを愛する一人だったのもきっと事実だったのでしょう。もしかすると、平尾さんはフレームの感覚に関して何かしらの勘違いをしていただけなのかもしれませんね……。
関連記事
今も続く「格ゲー初心者はシステムを理解するべきか」議論を分析 初心者擁護意見は66.9%
「初心者お断りのハードル」の話だったはずが……。格ゲーで「勝てないからつまらない」と言う前に基礎を覚えては?→「そういう初心者お断りの姿勢が衰退を招いた」と議論に
「勝つために基本システムを覚えるのは当然」「基礎だけでは勝てないから難しい」「対戦台ばかりで、1人で練習できる環境が少ない」など、さまざまな意見が。マシーナリーともコラム:ツインスティック商品化実現おめでとう! 今こそバーチャルユーチューバー勢は全員「バーチャロン」をやるべきです。やれ。
これから毎日バーチャロン対戦しようぜ?神々が直接殴り合う格ゲー「Fight of Gods」にSwitch版登場か 国内開発社がアマテラスの声優募集
一部の国では販売中止になるなどした色んな意味で話題作。「子持ちのおじさんゲーマーにも夢を持ってほしい」 トッププロゲーマーを影で支え続ける“プロゲーマーの嫁”の内助の功
「西のウメハラ」とも呼ばれたトッププレイヤーの妻であり、マネジャーでもあるakikiさん。私生活やeスポーツシーンについて話を聞きました。インターネットを守る翼竜:バーチャルYouTuber800人全員を追う本物の男に聞く、最近のバーチャルYouTuber事情
「毎日最低4時間はログインしてます」NHKに慣れていると衝撃的 AbemaTV「大相撲中継」の“民放感”ある編集にやられる人が続出中
格ゲーかな。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
昨日の総合アクセスTOP10
お水を飲みたいカラスさんがとった行動とは……? 人間に“ある方法”でお願いするカラスが賢くてかわいい
トンボの目の前で指をグルグル回したら……衝撃の展開が!! まさかのラストを描いた体験漫画に驚きの声
猫「は、恥ずかしいニャ〜!」 黒歴史を思い出した猫ちゃんのポーズが人間そっくり
【なんて読む?】今日の難読漢字「颯と」
Windowsの「ごみ箱」を作業フォルダにしてる人がいる? 意外な使い方がネットで話題に
なんて恐ろしい 遊び方を守らないと股間が大変なことになりそうなすべり台
【漫画】「すこしくらい反応してくれてもいいじゃん…」 家主に気付かれない座敷わらしがとにかくかわいいい
でっかいワンコが子猫を優しく抱き寄せて…… ママのような愛情を注ぐ姿に心があたたまる
「別に高望みしてない」のにフラれ続きの男のタイプとは? 思わぬ答えが飛び出す漫画に「最高尊い」「それは高望みだよ」の声
口裂け女 VS 赤マント 女子高生の命をめぐる都市伝説の縄張り争い漫画がカオス
先週の総合アクセスTOP10
- 鳥取砂丘から古い「ファンタグレープ」の空き缶が出土 → 情報を募った結果とても貴重なものと判明 ファンタ公式も反応
- 「モンストのせいで彼氏と別れました」→ 運営からの回答が“神対応”と反響 思いやりに満ちた言葉に「強く生きようと思う」と前向きに
- 「この抜き型、何ですか……?」 家で見つけた“謎のディズニーグッズ”にさまざまな推察、そして意外な正体が判明
- 人間に助けを求めてきた母犬、外を探すと…… びしょ濡れになったうまれたての子犬たちを保護
- 幼なじみと5年ぶりに再会したら…… 陸上選手から人間ではない何かに変わっていく姿を見てしまう漫画が切ない
- ブルボンの“公式擬人化”ついにラスト「ホワイトロリータ」公開 イメージ通り過ぎて満点のデザイン
- 「幸せな風景すぎて涙出ました」 じいちゃんの台車に乗って散歩するワンコのほのぼのとした関係に癒やされる
- 「遺伝ってすごい」「足長っ!」 仲村トオルの“美人娘”ミオがデビュー、両親譲りのスタイルに驚きの声
- 猫「飼い主、大丈夫か……?」 毎日の“お風呂の見守り”を欠かさない3匹の猫ちゃんたちがかわいい
- 天才科学者2人が最強最高のロボを作成するが…… 高性能過ぎて2人の秘密がバラされちゃう漫画に頬が緩む
先月の総合アクセスTOP10
- 「訃報」「愛猫」「手風琴」って読める? 常用漢字表に掲載されている“難読漢字”
- 安達祐実、グレー髪への“勘違い指摘”に「白髪は悲しくないですよ」と切り返し 加齢の考え方が称賛を呼ぶ
- 「これは妙案」「明日の朝はこれ」 “レジ袋1枚”でできるフロントガラス解氷テクに目からウロコ
- 嫌がらせ急ブレーキで追突 トラクターの進路を妨害した「あおり運転」ベンツ、ぶつけられたと運転手がブチギレ
- “東大王”鈴木光が『CanCam』デビュー “美しすぎる東大生”の新たな一面
- 柴犬たちが追いかけっこしていたら…… ワンコの“突然の裏切り”に「声出して笑った」「4コマみたい」の声
- 元「うたのおにいさん」今井ゆうぞうさんが脳内出血で急逝 生前最後のブログには“目の異常な充血”
- 「虚無僧」「言質」「古刹」って読める? 常用漢字表に掲載されている“難読漢字”
- 保護した子ネコに「寂しくないように」とあげたヌイグルミ お留守番後に見せた子ネコの姿に涙が出る
- 「えっ!? おきゃくさまっ!」 スターバックスでやけに長いレシートに遭遇 店員さんのテンションがすごかったエッセイ漫画