「小足見てから昇龍拳かよ」 週刊ダイヤモンドの「挙動を感じて8フレーム後に昇龍」に格ゲーマーからツッコミが殺到した理由

「8フレームへの反応はいかに困難なのか」「格闘ゲーマーの言う反応とはなんなのか」という視点から、今回の騒動を解き明かします。

» 2019年03月01日 19時00分 公開
[ねとらぼ]

 週刊ダイヤモンドのインタビュー記事「プロゲーマーだった中高時代、『底知れない1位』という存在にこだわりたい」が格闘ゲーマーの間で物議を醸しています。じげん社の社長である平尾丈さんへのインタビュー記事で、格闘ゲーマーだったという自身の生い立ちを語る内容ですが、その中の「フレーム」に関する記述に物言いがついた形です。

 特に問題視されているのはじげんの社長である平尾丈さんが傾倒していたという格闘ゲームに関する話題の中で飛び出した「相手の挙動を感じて7、8フレーム後に(昇龍拳を)打てれば、たいてい勝てます。これが分かってから85連勝しました」という回答。文面通りに読めば、“何らかの動きを見せれば8フレームほどで何らかの入力ができる(反応できる)”ということになりますが、これについて格闘ゲーマーから「ありえない」「“小足見てから昇龍拳”みたいなもの」と批判されることに。


フレーム 小足見てから昇龍拳:「相手のしゃがみ弱キックを昇龍拳で迎撃する」という意味。しゃがみ弱キックは非常に発生が早いため事実上は不可能な技術ですが、「(格闘ゲーマーの)ウメハラは可能らしい」という都市伝説が一時期流れていました。この件については、2010年のニコニコ生放送で本人が「無理に決まってんじゃん」と否定しましたが、「”俺以外には”無理に決まってんじゃん」「”お前らには”無理に決まってんじゃん」という意味だったと解釈する人もいるようです

 また、「本当にできたら神業」「そんな昇龍拳見たことない」といった声も見られ、いつの間にか平尾さんに「昇龍平尾」という二つ名が爆誕するまでの事態となっています。インタビューのフレームに関する記述がなぜこれほどの騒動となったのか――「8フレームへの反応はいかに困難なのか」「格闘ゲーマーの言う反応とはなんなのか」という視点から、今回の騒動を解き明かしてみます。

「8フレームへの反応」ができたら伝説になれる

 ここでいう「フレーム」とは、ゲームの時間を示す単位のこと。平尾さんがプレイしていたという「ストリートファイターII」では基本的に1秒が約60フレームになるため、1フレームは約0.0167秒。8フレームであれば約0.1333秒となります。


フレーム 自分の反応速度を計測するサイト。0.133を出すのがいかに困難かが分かるはず……

 しかし、「8フレームの反応」は格闘ゲーマーの一般常識からすると絶対に不可能な領域です。少し難しい話になりますが、もし8フレームで安定して反応できるのであれば、ストリートファイターIIに多数存在する「発生フレーム」(技を入力してから攻撃判定が発生するまでのフレーム数)が8以上の技をほぼ確実にガードできるだけでなく、レバーの入力さえ済ませていればこれらの技を無敵技(※)である「昇龍拳」で狩ることができるようになり、事実上完全に無効化できてしまいます。また、そのような優れた反応を持っていれば、仮に発生フレームが8未満の技であっても相手の技の空振りを見てから狩る「差し返し」が容易になるため、地上戦でも無類の強さを発揮したはずです。

※無敵技:相手の攻撃が当たらない(=無敵)状態になる性質を持った技。ストリートファイターシリーズの「昇龍拳」は基本的にほぼ全て無敵技

 実際、(ハードやソフトによって条件が異なるため正確な比較は難しいものの)現在の格闘ゲームで考えても8フレームの動きを「見て(認識して)から対応する」という場面は、数百万円の賞金がかかった大規模大会ですらほぼ皆無です。例えば、現行の最新タイトルである「ストリートファイターV アーケードエディション」の代表的な地上中段技であるリュウの「鎖骨割り」の発生フレームは22フレームですが、猛者の格闘ゲーマーですら、対戦時にこうした技を確実にガードするのは難しいのです。

※中段技:しゃがみガードでは防げない性質を持つ技のこと。ストリートファイターシリーズなどの2D格闘ゲームでは、比較的発生フレームが遅い技が多い


フレーム 地上中段技の代表格「鎖骨割り」(通称「中ゴス」)

 もし、8フレームに反応できるプレイヤーが出現してしまうと、ストリートファイターIIだけでなく、ほぼ全ての格闘ゲームの根本的な駆け引きが一気に崩壊することになります。仮にそんなプレイヤーが居たとすれば即座に有名プレイヤーとなっていますし、数々の大会で優勝をかっさらい、今でも伝説のプレイヤーとして語り継がれていたでしょう。

格闘ゲームにおける「反応」

 ところで、格闘ゲーマーはどうやって相手の技に「反応」しているのでしょうか。以下余談(?)となりますが、「フレーム」は反応を語る上で極めて重要な指標ではあるものの、絶対的な基準かというとそうとも言い切れません。

 格闘ゲーマーが技に「反応」する際、「複雑な判断が絡んでいないか」「技の視認性は高いか」などフレーム以外の要素も考慮しています。例えば、普段は25フレームでヒットする中段技を安定してガードできても、さまざまなガード崩し手段をチラつかせ意識を散らされるとガードできなくなることもありますし、キャラクターのモーションが小さい(=視認しづらい)場合なども、技の初動を見切るのが難しい分、反応が遅れがちになります。極めて優れた反応を持つプレイヤーなのに相手の前ジャンプを対空で撃ち落せない……というケースがあれば、これも発生フレーム以外の部分が影響しているからと思われます。


フレーム 「常に冷静な判断ができるかどうか」「意識の配分切り替えを的確に行えるか」、これも格闘ゲーマーの強さを語る上で重要なポイント

 つまり、本来発生フレームだけを見て反応できるかどうかは判断できない……のですが、その技がどんな性質をもっていようとも「発生8フレームの反応」は格闘ゲーマーの常識から外れたものであるため、今回のような騒動につながったといえます。もし、仮に「相手が少しでも動いたらボタンを押す」のような極力シンプルな思考を持った上で、極めて良好な視認性を持つ動きに対処しようとしても、8フレームほどで反応して入力するのは、現実的に考えて不可能なのです。

 余談中の余談になりますが、「反射神経がよくないから……」と考えて格闘ゲームの世界に足を踏み入れられない人には「反応速度はそこまで重要ではないよ」と言いたいところ。現に編集部員数人で反応速度チェックを行ったところ、社内一格闘ゲームがうまい(多分)筆者ですら編集部内では平均以下でした。

平尾さんはフレーム感覚を間違っていただけ……?

 ダイヤモンドの記事については、フレームに関する問題以外にも「本当にウメハラと対戦していたのか」「本当にプロゲーマーだったのか」など、格ゲーガチ勢から批判が殺到しています。しかし、平尾社長はさまざまなインタビューで格闘ゲームについて触れている他、じげん社内に格闘ゲームのマスターピースとも呼べるタイトル「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」の筐体や、格ゲーマー御用達のコントローラー「リアルアーケードプロ(RAP)」を設置するなど、本来は格闘ゲームに造詣が深かったと思われます。


フレーム 弊社にもほしいです(941::blogの記事より)

 「8フレームへの反応」は不可能なはずですが、平尾さんが格闘ゲームを愛する一人だったのもきっと事実だったのでしょう。もしかすると、平尾さんはフレームの感覚に関して何かしらの勘違いをしていただけなのかもしれませんね……。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  7. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  8. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  9. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
  10. /nl/articles/2411/13/news045.jpg “雑草ボーボー”で荒れ果てた庭→22歳素人が“2日間かけて”伐採をしたら…… 見事なビフォーアフターに「すごい感動」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた