「IT業界の萎縮を招きかねない」 “ブラクラURL書き込みで中学生補導”、弁護士に問題点を聞いた

ネットでは「この程度で補導されるのか」と批判的な声が。

» 2019年03月05日 21時50分 公開
[ねとらぼ]

 ネット掲示板に“不正なプログラム”を書き込んだとして、兵庫県警により女子中学生が補導され、男性2人が家宅捜索を受けたとの報道が話題になっています。ネット上ではこれを受け、「この程度で補導されるのか」と批判的な声が多数あがりました。



 報道によると、中学生らはクリックすると同じ画面が表示され、消えなくなる不正なプログラムのアドレスをネット掲示板に書き込んだとのこと。このプログラムは、クリックすると画面の真ん中に「何回閉じても無駄ですよ〜」という文字や、顔文字などが表示され続けるよう設定されていたといいます。いわゆる「無限アラート」と呼ばれる、JavaScriptを用いたいたずらプログラムとみられます。


無限アラート

 これに対しTwitterなどでは「いたずらでしかない」「ブラクラ(※)を貼ったくらいで補導されるなんて」と行きすぎを主張する声があがっています。編集部では、Coinhive事件も担当する(関連記事1関連記事2)電羊法律事務所の平野敬弁護士にこの件の問題点を聞きました。

※厳密には当該プログラムはブラウザをクラッシュさせないためブラクラ(ブラウザクラッシャー)には当たりません


附帯決議の要請に反し、IT業界の萎縮を招きかねない

 女子中学生が補導されたのは「不正指令電磁的記録の罪」の疑い。2011年6月に法改正で追加された罪で「ウイルス罪」と呼ばれることもあります。「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」を作成したり、提供した者を罰するものです(刑法168条の2及び3)。

 平野弁護士は、「立法時から、この罪は要件が曖昧すぎるとして激しい議論が交わされていました」と指摘しています。「例えばフリーソフトにバグがあり、作者がこれを放置した場合、ユーザーの『意図に反する動作をさせる』ウイルスとして認定されかねません。それを危惧して、情報処理学会から声明が出され、フリーソフトの公開を停止する人も現れました

 実害は少ないけれどもユーザーを驚かせるような、いわゆるジョークプログラムのような「境界ケース」をどう扱うかという点も立法時に争われたといいます。参議院では参考人から、ジョークプログラムは「本来(摘発の対象に)入るべきでないが、条文上でそれがどれだけ明らかになっているか若干疑問を持っている」などの発言があったものの、結局、法案は修正されずに附帯決議をつける形で国会を通過して制定。附帯決議は「捜査等に当たっては、憲法の保障する表現の自由を踏まえ、ソフトウエアの開発や流通等に対して影響が生じることのないよう、適切な運用に努めること」などを求める内容となっています。

 今回の事例で問題となったのは、JavaScriptを用いて、ブラウザ上で無限にアラート画面を出し続ける単純ないたずらプログラムのようだと平野弁護士。「前世紀にはこの手のブラクラを頻繁に見ましたが、今回の場合、ブラウザをクラッシュさせるわけではないので、ブラクラとも言いがたいものです」


無限にアラート画面が出てくるいたずらプログラム

 迷惑ではあっても、システム破壊や個人情報流出など深刻な被害をもたらすものではなく、タブを閉じたりブラウザを終了すれば停止できるプログラムであり、「まさに立法時に境界ケースとして挙げられていたジョークプログラムの一種にあたるもの」と同弁護士。「こうしたささいないたずらまで刑法犯として摘発することは、附帯決議の要請に反しますし、我が国のIT業界の萎縮を招きかねません」と摘発の正当性に疑問を投げかけています。

 「神奈川県警のサイバー犯罪捜査顧問である三輪信雄氏は『日本ってがちがちに規制するじゃないですか。ひとつのいたずらや遊びも許さない。だけど、それじゃ何も育たないと思いますね』と言っておられますが、至言だと思います」(平野弁護士)

 ちなみに2011年に、当時制定されたばかりだった不正指令電磁的記録供用罪がブラウザクラッシャーに適用された事例があります。しかし同弁護士は「この事例では有罪を争わずに略式裁判で終わったため、裁判所の審理は尽くされていません。今回の無限アラートと質的な違いもありますので、同一視はできません」としています。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  2. /nl/articles/2412/20/news034.jpg 「博物館行きでもおかしくない」 ハードオフ店舗に入荷した“33万円商品”に思わず仰天 「これは凄い!!」
  3. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  4. /nl/articles/2412/20/news050.jpg 「マジかーーー!」 新札の番号が「000001」だった…… レア千円を入手した人が幸運すぎると話題 「555555」の人も現る「御利益ありそう」「これは相当幸運」
  5. /nl/articles/2412/20/news148.jpg 浅田真央、男性と“デート” 驚きの場所に「気づいた人いるかな?」
  6. /nl/articles/2412/20/news016.jpg 身内にも頼れず苦労ばかりの“金髪ギャルカップル”→10年後…… まさかまさかの“現在”に「素敵」「美男美女でみとれた」
  7. /nl/articles/2412/18/news144.jpg 海岸で大量に拾った“石ころ”→磨いたら…… 目を疑う大変貌に「すごい発見!」「石って本当にすてき」【カナダ】
  8. /nl/articles/2412/18/news047.jpg トイレットペーパーの芯を毛糸でぐるっと埋めていくと…… 冬に大活躍しそうなアイテムが完成「編んでるのかと思いきや」【海外】
  9. /nl/articles/2412/15/news077.jpg 生後1カ月の保護子猫、後頭部を見るとあのアルファベットが……→9カ月の現在にびっくり 「プレミアム猫」「本当にPですね」
  10. /nl/articles/2412/19/news190.jpg 辻希美、17歳長女・希空に「ダサすぎるって」とツッコんだ格好 
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」