「名探偵ピカチュウ」は2019年の「ブレードランナー」である “ポケモンと暮らす都市”が描くポケモンの本質とは
「名探偵ピカチュウ」は、これ以上ないほど「ポケットモンスター」の本質、原理にのっとった映画だった。
ねとらぼ読者の皆さま、初めまして、hamatsuと申します。
本日よりねとらぼさんにも寄稿させていただくことになりました。ゲーム系の記事を執筆することが多いかと思いますのでよろしくお願い致します。これまで他媒体だと電ファミニコゲーマーなどでゲーム系の記事の執筆を行ったりしてきましたが、ねとらぼさんでも同様にゲーム系の記事が多めになるかなと思います。
ライター:hamatsu
某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。
Twitter:@hamatsu
というわけで1発目のネタは「Nintendo LABO VR KIT」の予定だったのですが、先日フラッと映画「名探偵ピカチュウ」を見てしまい、内容に大いに感銘を受けたため急きょ予定を変更して「名探偵ピカチュウ」について書いている次第です。ゲームネタじゃなくてすいません!
予告編段階ではしわくちゃフサフサのピカチュウがネットでも話題を呼んでいた本作ですが、実際に見てびっくり、「ブレードランナー2019」とでも呼ぶべき映画になってるではありませんか!
それも単なる上っ面の模倣にとどまらない本質的な「ブレードランナー」らしさを「名探偵ピカチュウ」という映画は内包しているのです。
社会インフラとしてのポケモン
そもそも「ブレードランナー」の、特に都市の描写はなぜ優れていたのでしょうか。それは、単なる見た目の格好よさを超えて、その世界にある架空のテクノロジーや生活様式、インフラを極めてフレッシュな形で描いた点にあるといわれています。
そして、「名探偵ピカチュウ」で主人公が訪れることになる街、「ライムシティ」の描写が優れている点もまた同様です。ポケモンとの共生をうたうこの街では、ポケモンは単なる人間のペットという立場ではなく、生活を共にするパートナーとして、都市を支える生活基盤、社会インフラとしての役割を果たしていることが映画の至るところで描写されます。
「ブレードランナー」のちょっとした広告や看板、飲食店の描写がその世界の奥行きを感じさせてくれるように、「名探偵ピカチュウ」のポケモンの描写からはその世界の奥行きが感じられるようになっているわけです。
交通整理をするカイリキー、料理の手伝いをするヒトカゲ、スピーカーの代わりをするドゴームなどなど、都市の中に普通に存在し、人と共生するポケモンの細かい描写はこの映画の見ていて非常に楽しい部分になっていますし、この都市の描写をずっと見ていたいという気分にさせる点も「ブレードランナー」と共通する点だといえるでしょう(比較的最近の映画だと「ズートピア」の都市描写なんかも近いものがあるかもしれません)。
ではなぜこの映画ではポケモンをそのようなものとして描いたのでしょうか。ポケモンを使って無理くり「ブレードランナー」をやりたかったのでしょうか。私は、それはむしろ逆で、そもそも「ブレードランナー」と「ポケットモンスター」はその根本で通じるものがある、相性の良いコンテンツだからだと考えます。パートナーとしての「ポケモン」、生活基盤、社会インフラとしての「ポケモン」、これらは「ポケットモンスター」というコンテンツに最初から内包されている要素だからです。
「ポケットモンスター」とは何か
そもそも、「ポケットモンスター」とは何なのでしょうか。1996年に登場して以来、世界のエンターテインメントシーンのトップを走り続ける「ポケットモンスター」とはどのようなコンテンツなのでしょう?
「ポケットモンスター」とは、ポケモンという生態系、ポケモンという社会インフラ、そして何よりポケモンという最良のパートナーを通じて、自分がまだ触れたことのない世界に触れるエンターテインメントだと私は考えます。
初代「ポケットモンスター赤・緑」から一貫して、ポケモンを介することで、見たことの無い景色や、今まで見ていた景色の新しい側面を体験し、主人公が成長を遂げるという物語を提供してきました。
それは、「ポケットモンスター赤・緑」が少年たちのひと夏の冒険と成長を描いた映画「スタンド・バイ・ミー」を強く意識した作りになっていることからも明らかです。「ポケットモンスター赤・緑」に他の場所と比較しても非常に異質な場所であるシオンタウンがなぜ存在するのかといえば、「スタンド・バイ・ミー」における、少年たちが探しにいく「死体」の存在と同様の位置付けのものだからです。ちなみにこの「死体」というキーワードが、「名探偵ピカチュウ」においても非常に重要だったりするのですが、ネタバレになるのでここでは詳細は割愛しておきましょう。
そして、「ポケットモンスター」というゲームが本当に素晴らしいのは、その物語と「ポケットモンスター」というゲームによって得られるゲーム体験が極めて高いレベルでシンクロしていたということです。
ポケモンを介して新しい世界に触れるゲーム中の主人公と同様に、「ポケットモンスター」というゲームを介してゲームプレイヤーは、ゲームの外側の世界に触れることができます。たとえ常時インターネット接続がなされていなかったのだとしても、広大な世界に対して、ポケモンを介したコミュニケーションの可能性を見いだし、今まで見慣れていたはずの世界が変わって見えるようになります。「ポケットモンスター」とはそのように世界とのつながりを再構築し、世界の見え方を変えてしまうゲームなのです。
「ポケモン GO」というゲームアプリがここ数年のエンターテインメントシーンの中でも最高レベルの話題をさらった理由は、スマートフォンでの展開という理由も当然あるのでしょうが、ただでさえ世界的人気が高い「ポケットモンスター」というコンテンツの持つ本質的な価値、ポケモンを介して世界とのつながりを再構築し、世界の見え方を変えてしまうということを、下手すれば本編以上に体現するものだったからではないでしょうか。
話を「名探偵ピカチュウ」に戻します。「名探偵ピカチュウ」という映画は、ここまで述べたような「ポケットモンスター」の本質、「ポケットモンスター」の原理にこれ以上ないほどにのっとった映画になっています。そこに私は一番感動しました。
この映画の主人公は、ポケモン(この映画ではピカチュウ)を介して新しい世界に触れ、今まで見えていた世界、自分が思い込んでいた世界が別の見え方をし始めるさまざまなことを経験し、やがて彼なりの成長を遂げます。だから、主人公が迷い込む異界としての「ブレードランナー」的都市描写は、ポケモン的な主題を映像的に、映画的に表現する上では必然の選択なのです。
そして新しい都市、新しい世界に迷い込んだ主人公が経験することの詳細についてはネタバレになってしまいますので、これ以上は書きません。ぜひとも劇場で見てください。
ちなみに予告編段階ではなんか気持ち悪く見えていたフサフサだったりしわくちゃになったりするピカチュウはメチャクチャにかわいい! そして声をあてているライアン・レイノルズの、早口で軽口をまくしたてる様が、ほぼ「デッドプール」で最高!
「ブレードランナー」×「デッドプール」って映画ファン的にも最高の組み合わせじゃないですか?
そんなわけで「名探偵ピカチュウ」は映画ファンにもポケモンファンにもどっちにも推せるめちゃくちゃ面白い映画ですので、まだ見てないという方はぜひ!!
関連記事
「“ポケモン世界の実写化”として完璧」 ポケモンオタクが描く「名探偵ピカチュウ」感想漫画がナイスプレゼン
作り手の原作愛が伝わる実写化でした。しわくちゃなのにかわいい「しわしわピカチュウ」が絵師の間で流行中 きっかけは「名探偵ピカチュウ」の新PV
愛らしさにやられた人たちによるイラストや手芸が、次々と投稿されています。ラテの上で踊るピカチュウがかわいすぎる! ポケモンラテアートで全国ずかん制覇を目指すインスタが注目集める
カントーとジョウトは制覇済み。DeNA、「ポケモン」のスマホゲームを今期配信へ ポケモン社との協業で
決算発表の中で明らかに。「懐かしすぎてニヤニヤ」 “はかいこうせん”を喰らったラッキーのポケモンものまね動画が驚異の“いいね”たたき出す
初期ならではのあるあるにニヤリ。「名探偵ピカチュウ」が実写映画化 海外メディア報じる
なるほど、そっちか……!英語版「名探偵ピカチュウ」声優に71歳のベテラン俳優を推す声 署名サイトで約4万人が熱烈に支持
これも見てみたい。ピカチュウが渋い声でしゃべってる! 見たことのないピカチュウに出会えるゲーム「名探偵ピカチュウ」登場
こんなダンディなピカチュウ見たことない!
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
昨日の総合アクセスTOP10
「訃報」「愛猫」「手風琴」って読める? 常用漢字表に掲載されている“難読漢字”
美大生が作った「回転する油絵」がどゆこと???となる不思議さ 作者に仕組みを聞いてみた
“可愛すぎる売り子”ほのか、事務所社長を怒らせ活動制限 「事実を受け止め、反省しています」と謝罪
【漫画】ネトゲで告白してきた美少女が中身ヤンキー男子高生だった! ぶっ壊れ性能なギャップに「かわいい」が止まらない
「天才か」「真似したい」 キャンドゥのアイテムで作る額縁風「ディスプレイボックス」がお手軽かわいい
“龍が巻き付いた剣のキーホルダー”はなぜどの観光地でも売られている? 製作会社に話を聞いてみた
元欅坂46・今泉佑唯、YouTuberワタナベマホトと結婚発表 「お腹の中に愛おしい命を……」と“Wおめでた”を告白
「UUUM」解雇のワタナベマホト、YouTubeチャンネル停止処分で“泣きっ面に蜂”状態
ヒト「お布団にどーぞ!」猫「……なんかちがう」 冬の夜、お布団に入ってほしい人間と猫の駆け引きを描いた漫画
【なんて読む?】今日の難読漢字「輿論」
先週の総合アクセスTOP10
- 「訃報」「愛猫」「手風琴」って読める? 常用漢字表に掲載されている“難読漢字”
- 安達祐実、グレー髪への“勘違い指摘”に「白髪は悲しくないですよ」と切り返し 加齢の考え方が称賛を呼ぶ
- “東大王”鈴木光が『CanCam』デビュー “美しすぎる東大生”の新たな一面
- 柴犬たちが追いかけっこしていたら…… ワンコの“突然の裏切り”に「声出して笑った」「4コマみたい」の声
- 「えっ!? おきゃくさまっ!」 スターバックスでやけに長いレシートに遭遇 店員さんのテンションがすごかったエッセイ漫画
- 東大王・鈴木光、司法試験の結果は「私は残念ながら」 報告の仕方に人間性が表れていると話題に
- えっ、これのどこが……? 「オシャレに見せかけたオタク部屋」の写真が「理想」「住みたい」と喝采浴びる
- 筑波大学、合計20トンの食料を学生に支援 想像を超えるクソデカ配給に「笑うしかない」とうれしい悲鳴も
- 父の再婚で女子高生に“すごいアホそう”な8歳弟ができる漫画が笑いと涙 「最後持っていかれた」「尊死」
- 下着泥棒? と思って防犯カメラを見てみたら―― 体験漫画「フォロワーさんのゾッとしたお話」が本当にゾッとする
先月の総合アクセスTOP10
- 「訃報」「愛猫」「手風琴」って読める? 常用漢字表に掲載されている“難読漢字”
- 井上咲楽、“太眉”を人生初カットで別人に 「可愛いすぎます」「さらにファンになりました」と大反響
- 元「うたのおにいさん」今井ゆうぞうさんが脳内出血で急逝 生前最後のブログには“目の異常な充血”
- 2021年夏の祝日、東京五輪で変更 カレンダーの更新を
- 太眉卒業した井上咲楽、美しさ光るアップショットに大反響 「大人っぽーい」「すっかり美しい路線に」
- 「逃げ場のない恐怖」「爆発音で目が覚めた」 JAL904便がエンジントラブルで緊急着陸、乗客が撮影した映像が怖すぎる
- マックポテト「Mサイズのみ」味が変との声がネットであがる マクドナルドに話を聞いた
- 「これは天才」「来年のノーベル賞候補」 ホットサンドメーカーで焼く「ホットサンドケーキ」が悪魔的サクサク感で話題に
- 保護した子ネコに「寂しくないように」とあげたヌイグルミ お留守番後に見せた子ネコの姿に涙が出る
- アロンアルフアは5秒で接着→「時間が余ったので猫動画をご覧ください」 15秒CMのペース配分がおかしい