お金はゲームでいえばパラメータの1つでしかない──うめ小沢高広さんに聞く 「楽しく、遊んで稼ぐ」新しい時代の感覚(2/3 ページ)
楽しんで、遊んでお金を稼いでもいいんだという価値観
――新連載『東京トイボクシーズ』ではプロとしてゲームを競う「eスポーツ」が描かれます。主人公は中学生ですが、第1回では「スポーツ進学」ならぬ、「eスポーツ進学」を提案される。彼はお金のために戦うのでしょうか。それとも名誉のためでしょうか。
小沢 うーん、両方ですねー。「eスポーツのeは、エコノミーのe」などという気もないですけど、連載するにあたって、海外の方も含めていろんな方の発言や配信をみました。すると国内外問わず「好きなことやってお金がもらえるって最高」というフレーズを何度も聞くんですよ。
その気持ちは分かりますよね? だって最高じゃないですか。我々は、たまたま作る側にまわっているけども、もし読むことだけで稼げたら……。それをゲームの世界では成立させているわけです。「ゲームをして食べていける」世界。eスポーツ=賞金というだけではないですが、お金の話は絶対、避けて通れないです。
――「好きなことをして食べる」というフレーズは流通しています。しかし「遊んで食べていける」というのはさらに過激ですね。「それはいいのか?」という感じがまだあります。
小沢 eスポーツに限って言えば、日本は、法的な整備がまだ現状に追いついていない、という大前提はあります。ただそれだけでなく日本の場合、お金というものは「苦労したことの対価」「耐え忍んだ結果、もらえるものである」という、ある種の雇われ根性みたいな価値観が、ベースにあるじゃないですか。結果「嫌儲」なんて言葉も生まれる。「そうじゃないよ。楽しく稼いでもいいんだよ」という感覚を受け入れるのは、やはり欧米のほうが早かったのかなという気はしますね。日本発のゲームが世界で高く評価されているにも関わらず、日本がeスポーツで後進国であるという点と、お金に対する価値観の違いには注目しています。
――『東京トイボクシーズ』で、楽しく新しい価値観を感じてもらうことになりますでしょうか。
小沢 変えていきたい、ですね。たぶん「お金が人生の主要パラメーターであり過ぎたけど、もうそうじゃないよ」と置き換えていく過程と、「楽しんでお金を稼いでもいいんだ」といわれるようになる過程。この両方を動かして、同時にほどいていかないとダメなんだろうな。そこを作中でなんとか描けないかなと考えているところではあります。
正直、感覚としては「ゲームやって遊んで、お金もらえるって変じゃないか」と思う気持ちも、分かるじゃないですか。むしろ、その気持ちがまだ世の中に残ってるうちにやりたいなと思っています。
――「楽しんでお金を稼ぐのは後ろめたい」という感覚に通じるところがありますが、「クリエイターがお金の話をすることは良くない」というムードもありました。今ではオープンになってきましたが。
小沢 だいぶ変わってきましたね。でもまだ「オープンになってきた」という枕をつけないと、話せないところもあります。
SNSなどで、お金の話を吐露してくれる人がぼつぼつ出てきた。でも本来は、そうした話はクライアントなり契約相手とするべきであって、SNSでわざわざ公開するような件でない。事と次第によっては、契約内容の開示ですから、法的なリスクもゼロじゃない。
それでも、しばしばSNSで、炎上覚悟で吐露するところまで行ってしまう現状は、哀しいです。そんなところまで行かないのが当たり前になってほしい。普通に回って当然のはずですから。これに関しては、支払う側の意識の問題のほうが、より大きいと思います。
別に安いと文句を言いたいわけではありません。「仕事の早い段階で、クリエイター側から切り出す前にお金の話をしてください」というお願いですね。それだけでクリエイターの安心感、信頼感が変わります。お金の話は、さっとしてしまえばいい。恥ずかしいことでも嫌なことでもなんでもない。
――意外とプロテスタント社会には「お金を稼ぐのはいいこと」という価値観がありますが、東アジアだと「貧乏をして本だけ読んでいるのがかっこいい」という感じが、どこかあるのかもしれませんね。
小沢 物語にも責任あるのですかねー。貧しい主人公が成り上がるのって、物語の古典的な型のひとつですしね。ただ「日常系」というジャンルが成立して久しいですし、そうじゃない物語も増えてきているので、こちらも次第にバランスが取れてきているのだと思います。
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