あのころ、電話線の向こうには“未来”があった―― 「パソコン通信」がくれた出会いと記憶:連載「わが青春のインターネット」(2/3 ページ)
チャットがきっかけで遠距離恋愛、そして結婚へ
今回、パソコン通信についての思い出を読者から募集したところ、多かったのが「パソコン通信がきっかけで結婚した」というもの。Twitterユーザーのまなさん(@manaxlowcarb)もその1人で、今では孫も生まれているといいます。
まなさんがパソコン通信を始めたのは1996年。久美沙織さんの『ありがちのラブ・ソング』という小説がきっかけで興味を持ち、趣味のパッチワークや「ポケットモンスター」の情報を集めるために利用を始めたそうです。
最初に出会ったのは1996年の2月。きっかけはNiftyのチャット(CBシミュレーターと呼ばれていた)で、たまたま二人とも椎名誠のファンで懸賞好きだったことから話が弾み、やがて毎日何時間もチャットで会話をする仲に。はじめてリアルで対面したのは9カ月後でしたが、それまでほぼ毎日のようにチャットしていたため、お互い「はじめまして」なのにまったく違和感はなかったといいます。
そこからは普通に遠距離恋愛がスタートし、約1年後の1997年12月に2人はゴールイン。普段はチャットや電話でやりとりしながらデートを重ね、10回目のデートで入籍したそうです。
チャットで異性とやりとりすることについて、当時はどういう感覚だったのでしょうか。
「もともと女性の趣味友達と文通したりしていて、それがスピードアップしただけなのでだけで特に違和感はありませんでした。私はかなりタイピングが早い方なのですが、夫も負けないくらい早くて、チャットでも会話のキャッチボールがちゃんと成立してたのが大きかったですね。また、夫はとにかく聞き上手だったので、おしゃべりが過ぎる私とは相性が良かったのかもしれません」
一方、旦那さんの方は両親にかなり反対されたそうで、2カ月ほど「親と一切口を利かない」期間を経て、「絶対に結婚する、家は出ていく」と宣言し、ようやくそれで両親の方が折れてくれたとのことでした。ちなみにまなさんの方は、全部決まってから両親に報告したものの、両親に旦那さんを紹介したところ、ひと目で気に入ったようで、あとはトントン拍子だったそうです。
それにしても、チャットがあったとはいえ、やはり現実に会って話したくはならなかった?
「会いたくない訳がないですよ(笑)。でも、なかなか会えないからこそ結婚までが早かったのかもしれませんね」
パソコン通信で「プログラミングの師匠」と出会った
TwitterユーザーのGIL(@GIL0920)さんの場合、はじめてパソコン通信に触れたのは1985年、GILさんが小学校高学年のころでした。当時アスキーが出版していた雑誌「パソコン通信」をきっかけに興味を持ち、両親にモデムを買ってもらい、同じくアスキーが運営していた「アスキーネット」に登録。見知らぬ人たちと、ネットワークを通じてやりとりできることに「未来が来た!」と感動したそうです。
「ネットワークを通じて情報を得られる仕組みがあるというのは知っていたのですが、あくまでそれは専用端末の話です。個人のパソコンでそれができる日がこんなに早く来るとは思っていませんでした」
アスキーネットでは日夜、掲示板巡りやチャットに興じていましたが、翌年(1986年)、オンラインゲームの「ローグ」(「不思議のダンジョン」系ゲームの始祖。アスキーネット上で遊ぶことができた)にうっかりハマってしまい、月の電話代が10万円を突破。両親に激怒され、アスキーネットは退会させられてしまいます。しかし、その後もNIFTY-Serveや草の根BBSへと活動拠点を移し、パソコン通信自体は継続。好きだったアーケードゲームの情報収集などに活用する傍ら、後に「プログラミングの師匠」と呼ぶようになる人と出会います。
「95年に僕は社会人になり、ゲームプログラマーとして働くようになりました。当時、まだキャラクターを床に立たせることすらできず、途方に暮れていた自分に、その人は教科書には載っていない『プロが使う方法』を教えてくれました。その後も描画を高速に行う方法、メモリを効率よく管理する方法など、その人からは本当に多くのことを教わりました。一度『なぜ名前も顔も知らない自分に貴重なノウハウを教えてくれるのか』と聞いたことがありましたが、師匠の回答は『別にあなたを特別扱いしているわけではない。知りたい人には誰にでも教えるし、世の中のゲームの水準が上がるならいくらでも教える』というものでした」
GILさんには他にも数人、パソコン通信を通じて出会った「今の自分があるのはこの人のおかげ」といえる人たちがいたといいます。しかし、当時やりとりしていた草の根BBSはある日(97〜98年ごろ)前触れもなく消滅。それまでに会っていた何人かを除いては、そのまま音信不通になってしまいました。今でも「自分が作ったゲームを1つでも遊んでくれただろうか……?」と時折思い返しつつ、GILさん自身もまた、誰かに質問された時には、惜しみなく何でも答えるようにしているそうです。
今も残る草の根BBS
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