「物語の命の火を消さないでいたい」ージョン・ファヴロー監督、「ライオン・キング」に吹き込んだ新たな“魂”

監督が「ライオン・キング」を語り直す理由。

» 2019年08月09日 07時30分 公開
[のとほのかねとらぼ]

 1994年に公開されたディズニーのアニメーション作品を、最新の技術を駆使して映画化した「ライオン・キング」が8月9日に公開されました。劇中で走り回るシンバやティモン、プンバァ、ナラといったおなじみのキャラクターたちが、“超実写”とうたわれるにふさわしいリアルな姿となって再び私たちの前に現れます。

 「ライオン・キング」の監督を務めたのは、主人公以外全てCGを用いた実写版「ジャングル・ブック」(2016年)で実績のあるジョン・ファヴロー。今回行なった監督へのインタビューでは、長きにわたって愛されるオリジナルへのリスペクトを語ってくれました。

ライオン・キング ジョン・ファヴロー ディズニー ジャングル・ブック ジョン・ファヴロー監督がねとらぼに語ってくれました

――まるで自分がその場にいるような素晴らしい映像でした。あらためて、具体的にどのように撮影したのか教えてください。

ジョン・ファヴロー監督(以下、ファヴロー): 全てコンピューターで制作していて、物理的な撮影はしていません。作り方としては、ピクサーのようなアニメーションと似ています。

 他の作品と決定的に違うのは、VR空間で撮影をしたこと。撮影スタジオにカメラはなく、VRで作った世界の中にヘッドセットを付けて入ると、その中に撮影の機材があって、コンピューターにどんなカットを撮影するかというカメラワークを指示できるというものです。

 (自身が撮影した撮影現場の動画を見せながら)スタジオにはたくさんのモニターがあって、VRの世界に入らなくても、どう撮影されているのか確認できるようになっています。それを見ながら、例えば「(ムファサとスカーの崖のシーンで)スカーをもう少し左に動かして」と指示をしてVR空間でのカメラの動きを決めていきました。

 キャラクターは、本物の生き物のように動かしたかったので、実際のライオンの動きをコピーしました。(本物のライオンとモデリングしたライオンを比べた映像を見せながら)これは、5つの別のライオンの映像をつなげて、モデリングしたキャラクターに取り入れることで自然な動きにしています。

ライオン・キング ジョン・ファヴロー ディズニー ジャングル・ブック (C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

ライオン・キング ジョン・ファヴロー ディズニー ジャングル・ブック (C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

――ある意味実写との融合と言えますね。よりリアルに近づいた一方で、ディズニー・アニメーション特有のコミカルな動きや表情の動きなどは制限されてしまったように感じました。

ファヴロー: 人間的な表情をキャラクターたちに表現させてしまうと変なので、そういう選択肢は僕たちにはありませんでした。テスト段階では、表情を感情的に表現させてみたこともありましたが、やはり僕たち自身が違和感を覚えてしまったんです。

 それに、1994年に公開されたオリジナル版が本当に素晴らしい作品で、四半世紀たった今でも全く色あせていません。それを、ピクサー的なCGアニメーションとして全く同じものを作ったとしても、たぶんそれを見たいとは思わないですよね。それなら、新しいテクノロジーと素晴らしい音楽を使ったドキュメンタリー映像のようなアプローチで、映画を見た人が「これはリアルなんじゃないか」と見たこともないようなイリュージョンに圧倒されて、その世界に没入してもらう方を選択しました。

ライオン・キング ジョン・ファヴロー ディズニー ジャングル・ブック (C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

――2016年に「ジャングル・ブック」を制作した際、「何が現実かわからない状態を作り出すことがゴール」とおっしゃっていましたが、「ライオン・キング」では何を目指していましたか?

ファヴロー: この作品に本物は何もないし、見る人も最初から偽物だと分かって見るので、「ジャングル・ブック」よりも困難でした。その中でのゴールというのは、できるだけ現実的にすることでした。

 方法としては、撮影の仕方は逆に人間的であること。あまりにも完璧すぎると、実写的ではなくなってしまうからです。それから、キャラクターに本物の生き物たちがすること以上の行動をさせないことも大切でした。観客がイリュージョンを感じること自体に僕は力があると思っているので、そのイリュージョンを崩さないようにしました。

ライオン・キング ジョン・ファヴロー ディズニー ジャングル・ブック (C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

――リアルを追求する上で、監督が大事にしていることは?

ファヴロー: 答えるのが難しいな……一貫性ということかな。例えば、他がしっかりできているのに、1つ失敗してしまうと、それだけで説得力がなくなる。信ぴょう性のレベルが全部同じところに到達するよう意識しています。

 人間が「リアルじゃない」と感じるのは、重力と物理。例えば、ライオンがある場所から違うところにジャンプして移動するときの重力の移動を表現するのは一番難しい。その表現をそのまま映すと、見ている人が違和感を覚えるから、あえてカット割りをしていたりするんです。

――CGの限界は感じましたか?

ファヴロー: プロジェクトごとにいろいろなことが可能になっています。「アイアンマン」(2008年公開)のころは、金属だったらCGは違和感なく使えるけれど、他はどうかな、と思っていましたが、「ジャングル・ブック」のころにはCGで毛並みを表現できるようにまでなりました。毛や量子の動かし方は、開発に時間がかかりますが、一度こういう風に表現したら映画として美しいということが分かれば次に取り入れることができます。

 限界というところで言うと、人の表情は今の技術ではまだ作れません。本物の人間と変わらずに見えるものができていないんです。でも、もう少ししたらできるようになるみたいですよ。そうなったらちょっと怖いよね(笑)。

――視覚的な部分以外で監督が「ライオン・キング」に加えた新しさとは?

ファヴロー: キャスト。吹替で見る人、字幕で見る人それぞれいると思いますが、オリジナルキャストにはシンバ役にドナルド・グローヴァー、ナラ役にビヨンセ、その他にも素晴らしい演者が参加してくれています。全員が、「ライオン・キング」のストーリーに対して深い情熱を持っているし、僕の作品に参加したいという熱意も持っていました。僕たちは、94年版を今回の新しいもので置き換えようと思っていたわけではなく、94年版を祝福したいと思っていました。

動画が取得できませんでした

 だから、94年版の方が好きだと言われても悪い気持ちにはなりません。ただ、新たに「ライオン・キング」のスピリットをきちんと捉えた作品を見てみたいと思うならぜひ見てほしい。僕たちも頑張って作ったし、素晴らしい体験をしてもらえると思う。この作品を見て、94年版を見てもらえるきっかけにもなるかもしれないしね。

 僕が9歳か10歳のときに、リメイクした「キングコング」(1976年)を見に行って、それから第1作目の1933年の作品を見ることになりますが、それが今でもお気に入りの1本になっています。リメイク作品を見なければそもそもキングコングに出会っていませんでした。

 私たちが愛する物語を新しい技術などを使いながら、次の世代へと受け継いで、物語の命の火を消さないでいたいと思っています。

ライオン・キング ジョン・ファヴロー ディズニー ジャングル・ブック

ライオン・キング

2019年8月9日(金)公開

ストーリー

 映画、演劇、音楽と頂点を極めた「ライオン・キング」が、 世界最高峰の“キング・オブ・エンターテインメント”へと進化。それは圧巻の名曲の数々と、実写もアニメーションも超えた“超実写版”映像による、映画の世界に入り込むような未知の映像体験! 父を失い、王国を追放された子ライオン<シンバ>は、新たな世界で仲間と出会い、“自分が生まれてきた意味、使命とは何か”を知っていきます。王となる自分の運命に立ち向かうために……。全ての人に“生きる意味”があると気付かせてくれる壮大な物語が、この夏、全人類の心をふるわせる──。

スタッフ/キャスト

監督・製作:ジョン・ファヴロー

声:ドナルド・クローヴァー/賀来賢人(シンバ)、ビヨンセ・ノウルズ=カーター/門山葉子(ナラ)、セス・ローゲン/佐藤二朗(プンバァ)、ビリー・アイクナー/ミキ亜生(ティモン)、キウェテル・イジョフォー/江口洋介(スカー)ほか

ライオン・キング ジョン・ファヴロー ディズニー ジャングル・ブック (C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

「ライオン・キング」関連記事


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/22/news047.jpg 刺しゅう糸を20時間編んで、完成したのは…… ふんわり繊細な“芸術品”へ「ときめきやばい」「美しすぎる!」
  2. /nl/articles/2412/18/news207.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」【大谷翔平激動の2024年 現地では「プレー以外のふるまい」も話題に】
  3. /nl/articles/2412/21/news040.jpg 友達が描いた“すっぴんで麺啜ってる私の油絵"が1000万表示 普段とのギャップに「全力の悪意と全力の愛情を感じる」
  4. /nl/articles/2412/22/news034.jpg 後輩が入手した50円玉→よく見ると…… “衝撃価値”の不良品硬貨が1000万表示 「コインショップへ持っていけ!」
  5. /nl/articles/2412/21/news019.jpg 毛糸6色を使って、編んでいくと…… 初心者でも超簡単にできる“おしゃれアイテム”が「とっても可愛い」「どっぷりハマってしまいました」
  6. /nl/articles/2412/22/news036.jpg 「これは家宝級」 リサイクルショップで買った3000円家具→“まさかの企業”が作っていた「幻の品」で大仰天
  7. /nl/articles/2412/21/news023.jpg 「人のような寝方……」 “猫とは思えぬ姿”で和室に寝っ転がる姿が377万表示の人気 「見ろのヴィーナス」
  8. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  9. /nl/articles/2412/17/news042.jpg 山奥で数十年放置された“コケと泥だらけ”の水槽→丹念に掃除したら…… スッキリよみがえった姿に「いや〜凄い凄い」と210万再生
  10. /nl/articles/2412/22/news020.jpg 余りがちなクリアファイルをリメイクしたら…… 暮らしや旅先で必ず役に立つアイテムに大変身「目からウロコ」「使いやすそう!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」