弥生美術館・竹久夢二美術館「アンティーク着物万華鏡」展インタビュー&レポート むしろ着物警察こそ行くべし(1/2 ページ)
9月29日まで東京の弥生美術館・竹久夢二美術館で開催されている、展覧会「アンティーク着物万華鏡」。
大正〜昭和の抒情画とその再現コーディネートがずらりと並ぶ展示。帯や小物を変えた別バージョンのコーディネートや、当時の着用写真も見られます。
抒情画とは、大正から昭和にかけての、少女や女性を描いた雑誌の口絵や挿絵、表紙絵などのこと。抒情画を描く抒情画家たちは、今でいうファッションリーダー的存在でもありました。中でも竹久夢二は、「大正ロマン」を代表する画家。夢二の描いた美人画は「夢二式美人画」と呼ばれ、一世を風靡(ふうび)しました。
着物が日常の時代、抒情画に描かれた着物姿はとても個性的で自由でした。展覧会のキャッチコピーは「着物警察なんて怖くない!」。着物警察とは、着物で歩く人に、自分の知る着物ルールとの差異を「違反」として指摘し、正そうとする人のこと。着物入門のハードルの1つとして近年問題視されています。なぜこの企画が生まれたのか、担当した2人に話を聞きました。
「絵と着物、双方見ることでより理解が深まる」
企画のきっかけを、「アンティーク着物万華鏡」の企画を担当した1人、学芸員の中川春香さんはこう話します。
「絵と着物、双方見ることでより理解が深まるかと思って企画しました。抒情画には、抒情画家が空想で描いたような絵もあるのですが、絵に似た組み合わせの着物も実際にあったりして、『本当に着ていたんだな』と驚くことも多いんです。着てみたいけどどうコーディネートしたらいいかわからない、という方も、抒情画を見て参考にしてもらえれば」(中川さん)
展示を見ると、同じ着物でも帯を変えることで印象が変わり、着物のコーディネートの奥深さが伝わってきます。
「今の着物の着付けは、礼装用のかっちりした着付けを目にすることが多いですよね。でも抒情画を見ていると、抒情画家によって着付け方に差があったりもするんです。着物はコーディネートや着付けでいくらでも変化する、『万華鏡』のようなものだと思います」(中川さん)
今回展示のスタイリングを行ったのは岩田ちえ子さん。岩田さんは、写真家荒木経惟さんのモデルの着物スタイリングを30年以上にわたり1人で担当したスタイリストです。展示会のキャッチコピー「着物警察なんて怖くない」は、岩田さんの発案でした。
「もっとすごいキャッチコピーも考えたんですが、ボツになりました(笑)。着物警察さんは、ある意味親切な人なんですよ。『教室で習ったことを生かさなきゃ』と思っている。でも、今は着物教室も乱立して教え方がまちまちなので、その『教え』が実はあまり実践的でない着方だったりするんです。この展示を見て、マウントとるのをやめて尊重しあえるようになれば、着物人口も増えて呉服屋さんも喜ぶかもしれません。着物のルールはもともとはもうけるために作ったものという見方があります。もしかしたらそんなルールないほうが売れるかもしれないですよね」(岩田さん)
岩田さんは60代。ゲームやアニメ、コスプレも好きと語ります。コスプレイヤーさんに衣装を作ってあげることもあるのだとか。「『千と千尋の神隠し』の湯婆婆とか、『おそ松くん』のお母さんとか。『天空の城ラピュタ』のドーラとか、いつか私たちの世代でコスプレをしてみたいです」(岩田さん)。
「『美は乱調にあり』と思っています。趣味が良い、センスがいい、というよりも、ちょっと悪趣味、バランスが崩れてるのが好き。下品はだめだけど、お下品はいいんじゃないかな? 際どいところもオシャレの醍醐味。お下品や悪趣味がひっくり返って『かっこいい』になる瞬間が、私は一番好きです。その先に美があるものを、私はいつも目指してます」(岩田さん)
真似したくなる着こなしの数々! ゲームで人気の文豪・徳田秋声初公開遺品も
着物に抒情画にかんざしや帯留めなどの小物。約500点を超える展示品の中から、5点をピックアップして紹介します。
展覧会のメインビジュアルにも使われている着こなし。足を出さずくるぶしが隠れるように着るのが、一般的な着物ルールです。しかし抒情画に描かれたこの高畠華宵「(仮題)ニューファッション」は、大胆にふくらはぎ下まで見せています。
おはしょりを大きくとり、ミディ丈に。衿は大きくあけ、レースつきトップスとパールのネックレスを見せて。ビジューのついたスカーフは帯の上から巻いて帯締め代わり。たもと(袖口の下の部分のこと)は、狩衣の一種・水干のようにレースアップ。足元はパンプス。洋服アイテムと合わせて、ワンピース風の着こなしです。
つばの大きな帽子、黒レースのショール、黒の網グローブ、黒のブーツ、黒のビーズバッグ。大きな八つ手柄の落ち着いた紺色着物が、モダンでデカダンスな雰囲気に様変わりです。
このコーディネートは、スタイリスト・岩田さんの案。着物に帽子やブーツなど、洋服アイテムをあわせるコーディネートは、まさに大正〜昭和でも行われた着こなしです。
岩田さんいわく、「美術館に来る人の中には、上手に洋服のアイテムと着物を合わせてくる人もいます。その人たちに負けない気持ちでコーディネートしました。アンティーク着物と黒色はとても相性がいいので、迷ったら黒を合わればなんとかなります」とのこと。
ブラウザ&アプリゲーム「文豪とアルケミスト」で人気の文豪、徳田秋声の愛用品。ステッキ、カバン、二重回し(コート)の3品で、今回が初公開のレアな展示です。徳田秋声は家での執筆に集中できないとき、これらを着用し、ホテルへ出かけて小説を書いたとのこと。
学芸員の中川さんいわく、「今回、男性着物はあまり取り上げていませんが、男性の当時のオシャレも少し紹介できれば」とのこと。使用感のうかがえる3点の愛用品、ファンは必見です。
石川県出身の徳田秋声は、東京都文京区の本郷に住んでいました。弥生美術館・竹久夢二美術館の近所で、旧居が今も建っています。
弥生美術館3階では、徳田秋声の師匠・尾崎紅葉の『金色夜叉』、兄弟子・泉鏡花の『冠弥左衛門』の口絵も展示中です。
28歳で亡くなった、昭和初期の女性・浮田良子さんの遺品展示。娘さんが大切に保管しており、「母の着物を展示してほしい」と美術館に働きかけてきたことから、今回の企画は始まりました。
大柄で華やかな文様など、当時の流行を反映した着物の数々。実物のほか、大正〜昭和時代、浮田さんが着用している写真も見られます。
中でもイチオシは、企画「母・娘・孫三代でひとつの着物を着る」。浮田さんの着ていた約80年前の槌車柄の青い着物を、一般公募で募集した母娘三代で着て、写真を撮った企画です。着物が普段着の時代、着物は世代を超えて受け継がれていくものでした。同じ着物でも、帯や小物を変えるだけで万華鏡のように印象が変わります。
弥生美術館設立のきっかけになった画家・高畠華宵の「移りゆく姿」の複製屏風は、昭和初期までの女性風俗の移り変わりを、春夏秋冬の移り変わりとともに描いています。服装は、改造袖、女学生、ビーチファッション、女給など。服の柄も小物もそれぞれ違う、総勢62人が描かれた大作です。じっくり眺めて、お気に入りの子をさがしてみるのも楽しいかもしれません。
ちなみに美術館員のお気に入りは、写真左の、着物に袴姿のお嬢さんとのこと。袴にしめている金の徽章(きしょう)つきのベルトは、実在するベルトです。今もお茶の水女子大学附属中学校で使われています。屏風のどこにいるか、足を運んでさがしてみてくださいね。
着物の多様なコーディネートをこれでもかと展示している、「アンティーク着物万華鏡」展。抒情画家としてあまり取り上げられない、無名や素性のわからない抒情画家もピックアップされており、抒情画ファンも見逃せない展示となっています。
どうしても行けない……という方は、書籍の『アンティーク着物万華鏡 大正〜昭和の乙女に学ぶ着こなし』(中村圭子・中川春香編著 河出書房新社 2019)を購入するのもあり。展示に出しきれなかった抒情画や着物ものっています。もちろん、展示を見る前見た後に、副読本として読むのもありです。
とはいえ、やはり質感や雰囲気も込みで実物を見るのが一番。「アンティーク着物万華鏡」展は9月29日まで開催中です。
また、長襦袢を主軸にすえた展示も同時開催中。華やかな長襦袢の展示のほか、長襦袢の試着もできます。こちらもお見逃しなく。
展覧会名 アンティーク着物万華鏡 ―大正〜昭和の乙女に学ぶ着こなしー
同時開催:長襦袢の魅力 〜着物の下の遊び心、女心〜
会期 2019年7月5日(金)〜9月29日(日)
主催・会場 弥生美術館・竹久夢二美術館
休館日 月曜日(9/23(月)は開館、9/24(火)休館)
入館料 一般:900円/大学・高校生:800円/小・中学生:400円
*2館併せて入館可能
Webサイト http://www.yayoi-yumeji-museum.jp
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