「けもフレ」福原Pのケモかわ新作アニメ「モクリ」インタビュー “ファン参加型会議”“二次創作自由”みんなで創る新たなエンタメとは?
オンライン制作会議の参加者を募集中。
しっぽの先から耳の中まで100%ケモかわいい生き物「モクリ」(キャラクター原案:つくしあきひと)の“みんなで創るCGアニメプロジェクト”が始動。制作に関わってくれる仲間をクラウドファンディングで一般公募しています。
「けものフレンズ」「ケムリクサ」の福原慶匡さんが統括プロデューサー、「バーチャルマーケット」運営のVR法人HIKKYが原作を務める同作。最大の特徴は、クラウドファンディングで募った“開拓者”を巻き込んでの制作過程にあります。
8000円以上のコースに含まれる「オンライン制作会議 参加権」は、文字通り製作段階からプロジェクトに参加できるチケットです。開拓者、すなわち出資者は、アニメ本編に先駆けて、いち早く「モクリ」の世界に飛び込めます。
「モクリ」が目指すエンターテインメントの形とは? ねとらぼでは、福原プロデューサーら制作陣にインタビュー。その答えは、VR空間で誕生したモクリの出自にありました。
「主役はあくまで“開拓者”のみなさんで、僕らの仕事はまとめること」
――注目しているアニメファンも多いと思います。そもそも「モクリ」とは何者で、どのようなストーリーが展開するのでしょうか?
舟越靖さん(以下、舟越) キャラクターとしてのモクリは、モノ作りが大好きな生き物です。材料を探して冒険したり、集中しすぎて変な場所に迷い込んだりしながら、壮大な物語に巻き込まれていく……はずです。
舟越靖
VR法人HIKKY代表取締役。エグゼクティブディレクターとして「モクリ」の権利を“一応”管理している。8日で70万人以上が来場したVR上の即売会「バーチャルマーケット」の仕掛け人。
――はずです、とは?
舟越 というのも、現段階では「モクリのプロフィール」と「舞台となる世界の設定」しか厳密には決まっていないんです。どんなキャラクターが登場して、どんな風にモクリと関わるのか。この世界に暮らす当事者たちの物語は、これからみなさんと作っていきたいと思っています。
――ここでいう「みなさん」とは、クラウドファンディングで募る“開拓者”のことですね。なぜこのような制作方法を取ろうと思ったのでしょうか。
舟越 そもそも「モクリ」は“みんなで遊べる”をコンセプトとしてVR空間に誕生したキャラクターです。公式サイトでは、誰でもモクリになれるVR用のアバターを無料配布しています。
ちなみに、配布している3Dモデルは「レッサーモクリ」という種族で、オリジナルの「モクリ」とは完全に別個体です。そのぶん自由にパーツや設定を付け加えていただいて結構ですし、Vtuber活動に使ったり、VR空間でのアバターにしたり、条件付きではありますが商用利用も許可しています。モクリの権利は我々VR法人HIKKYが“一応”管理していますが、本当は「みんなのもの」という感覚なんです。
さわえみかさん(以下、さわえ) みんながVRChat(※)等で使いたくなるような、かわいくて、権利的にもクリーンなアバターを配布しようと。
※VRChat:VR空間でのコミュニケーションを目的としたソーシャルVRプラットフォーム。世界各国のユーザーで活気に満ちる一方で、著作権を無視したアニメキャラのアバターが歩き回るなどカオスな側面も持つ。
さわえ おかげさまで「こんなかわいい、つくしさんデザインの3Dが無料で、しかも自分たちで改変できるなんて!?」と盛り上がっていただけて、今ではファンのコミュニティーも大きくなりました。レッサーモクリのアバターを着てVR空間で集会したり、「新しい仲間が誕生したよ〜」「かわいいね〜」と褒めあったり。自分で作ったパーツを配布する方や、レッサーモクリの姿でライブパフォーマンスをする方もいらっしゃいます。
さわえみか
VR法人HIKKYアートディレクター。「モクリ」を企画した生みの親。バーチャル発ファッションブランド「VADER VADER」を立ち上げるなど幅広く活動。
――ユーザーの遊びを通じて成長したコンテンツだからこそ、アニメ制作の過程すらも遊びにしてしまおうと考えたわけですね。
舟越 その通りです。主役はあくまで“開拓者”のみなさんで、僕らの仕事はアニメを作品としてまとめることだと思っています。
さわえ レッサーモクリのDiscordがあったりもします。アニメ化をきっかけにモクリを知った方も、遊び仲間に加わっていただけたらうれしいですね。
舟越 あ、でも気を付けてください。実写アイコンでチャットに参加すると、さわえが「舟越さん、やめてください。ここはモクリの世界なので」とかうるさいんですよ。CGプロデューサーの野澤君ですら「怖いおじさんが入ってきちゃダメでしょ!」って追い出されてました。
さわえ 実写がいけないってわけじゃないんですよ! アイコンはその人の印象を強く決めますから。2人の実写の顔アイコンだと、威圧感があるよ! みんなと仲良くなりにくいよ! という忠告です。
――(笑) 福原プロデューサーは「てさぐれ!部活もの」「直感×アルゴリズム」など実験的な作品を多数手掛けてきましたが、今回の“ファンとの共同制作”についてはどのようにお考えですか。
福原慶匡さん(以下、福原) 「ストーリードリヴン」「キャラクタードリヴン」という言葉があります。要は物語が先か、登場人物が先か、という話ですね。今回は最初に「モクリ」の3Dモデルがあって、そこに僕らや開拓者の皆さんがお話を肉付けしていくわけですから、完全にキャラクタードリヴンです。
キャラクタードリヴンの魅力的な“物語(ものがたり)”が生まれるためには、ナラティブに“物語る(ものがたる)”過程が必要なんです。例えば桃太郎……が実在の人物かは分かりませんが、動物を従えたり、鬼と戦ったりするヒーローを見て「あいつめっちゃ面白い!」と人々が“物語った”結果が“物語”として世に残る。
福原慶匡
アニメスタジオ「ヤオヨロズ」を立ち上げ、アニメ「けものフレンズ」「ケムリクサ」をプロデュースした。「モクリ」では統括プロデューサーを務める。
――クラウドファンディングで集まった開拓者が、その“物語る”役割を担うと。
福原 はい。生もののコンテンツだからこそ、開拓者のみなさんがアイデアを出してモクリを物語っていく。あるいはレッサーモクリとして活動している方が“物語られる側”としてアニメに登場するかもしれない。まさに魅力的な“物語”ができる仕組みになっていると思います。
――「レッサーモクリ」って、つまり個人のアバターですよね。そんなチャンスがあるんですか?
福原 開拓者のみなさんのアイデアをどのように吸い上げていくかはまだ決まっていませんが、思わず笑っちゃったり、「やられた」と感じたり、要するに心が動いたアイデアは取り入れていきたいですね。だって面白い方がいいじゃないですか。
さわえ 「よろしければデザイン案をください!」とか普通にお願いすると思います。頼りますよ、私は!
舟越 もちろん制作会議に参加していただくためのルール……というかマナーは必要だと思うので、細かいレギュレーションは本格始動に向けて検討中です。
福原 「アイデアが採用されてもマウントを取らない」とかね。
――ユーザーが主役の“遊び場”だからこそ「みんな仲良くしてね」と。
福原 誰かが「あのキャラの名前は俺が付けたんだよ」とか言い出すとコミュニティーが崩れてしまうので……。だから普通は、二次創作で生まれたアイデアを公式が逆輸入することはありません。でも、今回はそれがメインのコンテンツです。素晴らしいアイデアはみんなで称賛しつつ、かといって「俺がやった!」という承認欲求を押し付けない。そうした精神がどれくらい伝わるかによって、アイデアを取り入れる深度は調整していくかもしれません。
「モクリはあえて生き物臭くデザインしています」
――素朴な疑問なのですが、なぜモクリはケモノっぽいデザインになったのでしょうか? ふさふさした質感など、むしろ3Dモデルでは表現しにくい点も多いかと思うのですが……。
さわえ だからこそですね。当時も人型のアバターはさまざまな方が配布していましたが、ケモノっぽいアバターは造形の難しさから数が少なくて……。海外でもケモノは人気ですし、絶対に喜んでもらえると思いました。
――戦略的な理由があったのですね。つくしあきひとさんのケモノキャラはフェチの塊なので、見る人が見るとちょっとエッチなあの感じを狙ったのかとばかり……。
さわえ いえ、エッチさは大事です。
舟越 モクリはケモノっぽさ……というよりも「生き物臭さ」を大切にデザインしています。生きているから虫を食べたり、体から白い粉が落ちたり、きっと本編ではうんこもするでしょう。そういう「ナマっぽさ」を大切にすることで、ユーザーが自由な発想を膨らませてくれるんじゃないかと。
――デフォルメされた「犬のイラスト」よりも「本物の犬」の方がインスピレーションを刺激する、みたいな感覚でしょうか。
さわえ 例えば美少女アニメだって、監督やデザイナーは「この子の部屋の隅っこには、掃除されてない毛がたまってるんだろうな……」とか考えながら作ってると思うんですよ。そんな生々しさは必要ないから描かないだけで(笑)
モクリの場合は、逆にそうした生々しさがプラスになると考えたので、丁寧に丁寧に描いています。このプロジェクトは、モクリを見たユーザーが「何かを作りたい」と思ってくれるかが肝なので。
――となると、CGプロデューサーの野澤さんにもこだわりを伺いたいです。
野澤徹也さん(以下、野澤) まず、今回のアニメ化にあたり、無料配布している3Dモデルとは別に、アニメ用にアップデートしたモクリをデザインしています。
もともと我々が配布しているモデルはVRChatでの使用を想定しているため、ポリゴン数の制限などもあり、あえて細部を簡略化しているんです。モクリはケモノがもつ温かみを愛していただいているキャラクターですから、ふさふさの毛並みまでこだわって表現したい。かといってリアリティを追求し過ぎても既存のファンは違和感を覚えるかもしれない。全員が納得できる着地点を探している段階です。
野澤徹也
GUNCY'S代表取締役。大規模CGプロダクションでの実務経験を活かし、CGプロデューサー/テクニカルデザイナーとして“軍師”のように「モクリ」の表現を指揮する。
――具体的には、どのような点がポイントになりますか?
野澤 先ほども話題に上がりましたが、とにかく柔らかさ、毛の質感をいかに表現するかがもっとも難しいポイントだと思います。
舟越 キービジュアルのモクリをよく見ていただくと、お尻につぶされた毛がふわっと広がっているのが分かります。こういう細かい部分ってCGにするのは本来は難しいはずなのに、野澤君は「やり方はあります」って即答してくれる。すごいですよ。
さわえ 他にも「モクリは水に濡れたら細くなるんです!」とか、好き放題言っちゃってますね。野澤さんならなんとかしてくれると思って。
野澤 自分でも、決断の速さというか、思い切りはいい方だと思います(笑) とにかく今は、みんなが思い描く「作りたいもの」を引き出しているフェーズなんです。制限のある中でクリエイターがブレーキをかけながら考えるアイデアだと面白くはならないから、技術面からもいろんなヒントを与えて、みんなの「これやってみたい!」を探りたい。
舟越 実際に野澤君のCGにあわせて設定をいじったりもしますね。
――CGを見て原作を変える、というやり方はアニメ制作では珍しい気がします。
福原 そりゃそうです。普通のアニメで「グラフィックがよかったのでストーリーから書き直します」なんて言ったら絶対ケンカになりますよ。
普通のアニメ制作ってウォーターフォール方式なんです。水が流れるように脚本→設定制作→作画と作業が進んでいって、逆方向に戻ることはほとんどない。
だけどモクリは、ユーザーさんも含めたみんなで作ってきたプロジェクトだから、デザイナーもグラフィッカーも全員が「原作者」として忌憚なく意見を交わしている。それがHIKKYの社風であり、面白いところですね。
「気持ちと気持ちのファンディングができたらいいな、と」
――まったく新しい制作スタイルに期待が高まる一方で、個人的に気になるのが、いわゆる「正史」はどうなるのか? という点です。
これまでモクリは「ユーザーそれぞれが設定やストーリーを作って楽しむコンテンツ」で、「二次創作こそが主役」というスタンスでした。ですが今回のアニメ化によって、明確な公式設定ができるわけですよね。
舟越 えっと、それは問題ないと思っていて、なんて説明したらいいんだろう。これはきっと「VR発祥」だからこその考え方なんですが……。
さわえ VRChatって、ユーザーが作った世界の集合体なんです。そこに「誰の世界線が正史」みたいな考え方はなくて。別に似たようなパラレルワールドがたくさん存在してもいいんですよね。
だから、私たちはこれからアニメの世界を作りますけど、それだけが正しいとか、どっちが上とか主張するつもりはありません。これまで通り、あなたの作る世界はあなたにとっての正史です。どんどん二次創作してください。「かわいい!」「やべえ!」って、スタッフ一同めちゃくちゃエゴサしてますので。
舟越 VRChatといえば、いつかVR聖地巡礼もやりたいですね。アニメに登場した場所を作って「みんなで見に行こう!」と。そういうツアーを有志の皆さんが組んでくれても全然問題ない……というか、どんどんやってほしいです。もちろん僕らも参加します(笑)
――なるほど。すとんと腑に落ちました。もう1つ気になるのが、「絵やCGは描けないし、お話を考えるのも難しそう……」という方が開拓者になっても楽しめるのでしょうか?
舟越 それは心配ありません! 大丈夫です! 個々人のできることにあわせて、がっつり手伝ってくれる人、アンケートに答えてくれる人、僕らがサボっていないか監視する人、どんな関わり方でもありがたいと思っています。
さわえ 先日、モクリが“ふぁぼりつ”してる線画をTwitterで配布したんです。これならCGが使えなくても、ペイントソフトで色を塗るとか、なんだったら印刷して手書きするとか、それだけで自分だけのモクリが作れますよね。
技術力は関係なく「自分もモクリプロジェクトの一員なんだ!」と感じられるきっかけを用意していきたいですね。
舟越 もし技術的に分からないことがあれば、野澤君が答えてくれるよね。
野澤 そうですね。開拓者の皆さんが目指す形が見えないと良いCGはできませんし、そのためのサポートは惜しみません。僕はずっとCGを作ってきて、誰よりも技術に詳しい自信はありますが、一方で「これを作りたい」という欲求はあまり無いんです。だから、みなさんのアイデアを形にしていけるのは、個人的にも楽しみですね。
――頼もしいです。どなたでもウエルカムだと。
福原 プロデューサーという仕事をしていて感じるのが、お金をいただくよりも、気持ちをいただく方がずっと難しいということです。
1クールのアニメ制作に必要な金額がおよそ3億円ですから、クラウドファンディングだけで資金調達しようとはそもそも考えていません。本当にありがたいのは、お金よりもむしろ皆さんの熱量を感じられることです。大半の作品のBlu-rayが数百本しか売れていない時代に、制作前から「お金を払ってもいい」と言ってくれる方がいる。そうした心の通ったファンの存在こそがヒットには大事なんです。
もちろんリターンという形でお返しはしますが、それ以上に僕らも僕らの心意気を皆さんに伝えたい。制作を通じて、気持ちと気持ちのファンディングができたらいいな、と思っています。
――ありがとうございました。本格始動を楽しみにしています。
「モクリ」は11月7日よりクラウドファンディングサービスmakuakeにて開拓者を募集しています。なお、現時点でアニメの配信方法は未定。「全世界の方に楽しんでいただける形」を目標に検討中とのことです。
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