裁判員裁判に参加してみた “6人のうちの一人”に選ばれた作者が描く同人誌マンガ『裁判員になりまして』司書みさきの同人誌レビューノート

意外と知らないあんなことやこんなこと。

» 2020年02月16日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 まだ2月ですが、「春うらら」と言いたくなるような暖かな日が続いています。窓を開けたら思ったよりも風が優しくて、早春が近づいているのを感じます。穏やかで代り映えしない毎日……ですが、そんな平穏な日に届いた、たった1通の通知からハードな日々を送ることになる体験本が、今回の同人誌です。ある日、作者さんは裁判員裁判に参加することになったのです。

今回紹介する同人誌

『裁判員になりまして〜裁判員裁判体験本〜』 A5 44ページ 表紙カラー・本文モノクロ

作者:楼月紫乃


同人誌 図書館 司書 裁判 マンガ 6人の裁判員、そのうちの一人に自分がなった!

「めんどくさそう」…でも情報量が多くて「タマシイ抜ける」日々がやってきた

 裁判員になる前に、まず「候補者名簿に載せますよ」というお知らせが来ます。そこから「裁判員に選ばれたので裁判所に来てください」と招集があり、裁判所に行くとその場で抽選が行われ、最終的に裁判員と補充裁判員になる方が決定されるのだそうです。決まったら次週からいきなり裁判が開始し、情報量が多くて「タマシイ抜ける」日々を過ごしながらやがて判決へ……。イラスト付きで解説されたご本を読むと、まずは「そうなんですね!」「そうなんですか!」の驚きの連続です。

 マンガに描かれる作者さんのお顔も最初は「へぇー裁判員って本当にあったんだ」と、どこか遠い世界を見ているようですが、やがて初めての裁判所にドキドキしながら出掛け、裁判員になることが決まると「マジか…」と思わず顔に汗が。裁判が始まれば「情報量が多くて頭がクラクラ」と、日を追うごとにハードな心情が、描かれたお顔から伺えます。匿名性を考えた結果、カエルやウサギの鳥獣戯画風で描かれた裁判員さんたちの軽妙なかわいさも、専門的で難しそうな裁判の世界との距離を縮めてくれます。

同人誌 図書館 司書 裁判 マンガ 当たった! マジで? の驚愕っぷり……

ランチタイムはどうしたらいい? 気になるところを実体験で解説

 ご本では裁判員に選ばれた方の守秘義務に配慮し、詳細について触れられない部分もあります。けれど「えっ、そもそも裁判員裁判ってどんな感じなの?」といった基本的なところから、時に4コママンガも挟み、読んでいるだけで、裁判所に呼び出されてからのスピード感に驚いたり、「あっ、どんな事件の裁判なのかは、招集されたときに教えてもらえるのね」とふむふむしたり。知らなかったことが作者さんの体験というリアルな声を伴って目の前で繰り広げられます。

 例えばランチタイムは裁判員のみんなに加えて、裁判官さんも一緒に机を囲んで、お弁当を食べたのですって。お弁当の種類から、裁判中にトイレに行きたくなったら!? という、実体験に基づく細やかな目線が光ります。

同人誌 図書館 司書 裁判 マンガ カエルさんチームがどこかほのぼの

やってみてどうだった? ほんとにほんとのホンネのところ

 そしてリアル感が極まるのは裁判員体験後の感想です。これまで世の中の事件にいかに無関心だったか身に染みたこと、裁判のニュースに対する見方が変わったことを挙げて振り返りつつ、さらに踏み込んだ「ここはどうなの!?」と感じた部分が率直に語られています。全く知らない世界に突然放り込まれた戸惑い、ふとした対応や、施設環境のことなど、他の誰でもなく作者さんの「私が体験したなかでの本音」です。

 真摯(しんし)に取り組むべきとみんな分かっている制度だからこそ、一人の小さな声は「こんなこと言うほどのことでもないかもしれない」「大切な制度について些細(ささい)な感想を言うのははばかられる」と、胸にしまっておく方もいらっしゃるかもしれません。けれどそこからもう一歩進んで気持ちをあらわにした個人の感想を個人がまとめたからこその、主観の声が実にストレートに迫ってきました。

 できるなら、本当は裁判が起きるような事態にならない方がいいと、裁判員をされた方ももちろん、きっと誰もが思っていますよね。みんなが穏やかな日々であるように、願っています。

同人誌 図書館 司書 裁判 マンガ 真摯に取り組むからこそ、一方でほっとしてしまう気持ちも、ほんとにほんとのところでは心のどこかにありうるのではないでしょうか

サークル情報

サークル名:カウラン・ファウス

Twitter:@takatukisino

入手できる場所:メロンブックスコミックZIN



今週の余談

 青々しく、わさわさした春菊に手が伸びて、何げなく炒め物にしたら、これが自分で自分を絶賛するおいしさに! 塩鮭ときのこ、そこに春菊を投入するだけのざっくり簡単料理なのですが、春菊と鮭の塩っぽさが合いましたー。冬の名残を惜しむような一皿になりました。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/13/news021.jpg 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  2. /nl/articles/2501/14/news135.jpg ディズニーランド、新イベント前に「強制退園」対応が話題 「これくらい厳しい方がいい」などさまざまな意見
  3. /nl/articles/2501/14/news090.jpg “今日好き出演”辻希美の長女・希空、6人の男子の中で“気になる人”明かす「かっこいい」 しかし相手は……
  4. /nl/articles/2501/13/news013.jpg 夫婦でプラダンの二重窓をDIYしたら…… 予想以上の断熱効果に驚き「す、す、すっごい! 一番分かり易くて、可愛いくて、何より簡単そう」
  5. /nl/articles/2501/13/news039.jpg 長編みの輪っかを作り、ひたすらまっすぐ編み続けたら…… 完成した“冬のおしゃれアイテム”に「すごーい!」「作ってみます」
  6. /nl/articles/2501/14/news029.jpg 「すごっ!!」 手縫いの最中で糸が足りなくなったら…… “もっと早く知りたかった”裁縫ハックが100万再生「これはありがたい」
  7. /nl/articles/2501/14/news115.jpg 「ハライチ」岩井勇気の18年下の妻、成人式に出席 「今日嫁の成人式で」と報告 前撮りで晴れ着姿も
  8. /nl/articles/2501/14/news072.jpg 囲碁教室の看板が「不覚にも爆笑」「こんなんずるいやろ…」と420万表示 「囲碁、始めてみませんか?」からの……
  9. /nl/articles/2501/14/news116.jpg 「お菓子作りはピカイチだけど」 辻希美の17歳長女・希空、“全くできないこと”が明らかに……危うい腕前に母「マジで怖い」「シャシャとできる日は来る」
  10. /nl/articles/2501/13/news023.jpg 「こんなのいるんだ〜」 沖縄の山奥にある“人工池”で釣りをしたら…… “まさかの結果”にびっくり仰天「ロマンしかない」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  2. 「大根は全部冷凍してください」 “多くの人が知らない”画期的な保存方法に「これから躊躇なく買えます」「これで腐らせずに済む」
  3. 浜崎あゆみ、息子2人チラリの朝食風景を公開 食卓に並ぶ“国民的キャラクター”のメニューが意外
  4. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  5. 中2長女“書店で好きなだけ本を買う権”を行使した結果…… “驚愕のレシート”が1300万表示「大物になるぞ!!」「これやってみよう」
  6. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”の家族に反響 ジュノンボーイの幼少期が香取慎吾似?【コンテスト特集2024】
  7. 大好きなお母さんが他界し、実家でひとり暮らしする猫 その日常に「涙が溢れてくる……」「温かい気持ちになりました」
  8. 「やばすぎ」 ブックオフに10万円で売られていた“衝撃の商品”に仰天 「これもう文化財」「お宝すぎる」 投稿者に発見時の気持ちを聞いた
  9. 「こんなおばあちゃんになりたい」 1人暮らしの93歳が作る“かんたん夕食”がすごい! 「憧れます」「見習わないといけませんね」
  10. 【今日の難読漢字】「碑」←何と読む?
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」