“情報収集”から“サークル設営”まで 同人誌を作りたい人のための同人誌が役立ちそう:司書みさきの同人誌レビューノート
「サークル設営も1つの作品となり得る」
梅の花が咲いて、水仙も咲いて、いよいよ春間近な季節です。暖かくなるとなんだか新しいことが気になったりしませんか。面白そうな活動をちょっとのぞいてみたい、もう一歩深く踏み出してみたいなんて気持ちでそわそわしたり。今回のご本は同人誌制作についてのノウハウ本です。タイトルに「模型」とありますが、実はいろんなジャンルの方に共通するような内容もたくさんです。
今回紹介する同人誌
『模型同人誌を支える技術』A5 120ページ 表紙カラー・本文モノクロ
筆者:jena444、モデラー:ダメ人間
情報集めから即売会参加まで。これ1冊に経験がぎゅっと詰まって、いろんなジャンルに役立ちそう
まず注意として「この本に模型製作テクニックは一切掲載しておりません」と述べられています。模型の同人誌なのに、模型製作の情報無し? じゃあ120ページの大ボリュームにどんな内容が? と言いますと……こちらのサークルさんで本作りのレイアウトや写真加工、そして即売会での卓上ディスプレイを担当されている方の経験と叡智(えいち)がぎゅっと詰め込まれているのです。
そもそもどんな内容の同人誌にするのか? というところから始まり、模型写真を引き立たせるためのレイアウトについて考え、参考資料のレビュー、画像の加工など、情報盛りだくさんです。模型に特化して語られているものの、掲載されているノウハウはいろんなジャンルの活動でも参考になりそうな項目も。
主に文章で説明がされていますが、写真や、すっきりと分かりやすい図解をたくさん使って解説してあるので、ポイントとなる部分が分かりやすく伝わってきます。そんな中、ご本の半分以上のページを割いて説明される、ひときわ熱い項目が。それは「即売会での自サークルの設営」です。
即売会の設営は大切なポイント。実体験からの進化をつぶさに記録
ご本を読んでいて、模型のイベントに行った際、卓上のディスプレイに使われるアクリル板の普及の高さに驚いたことを思い出しました。行き慣れた同人誌即売会と同じように机半分をサークルが使う様式でも、同人誌と模型イベントでここまで道具が違ってくるんだと新鮮に思ったのを覚えています。このご本のジャンルは「模型」。立体物を即売会の現場で魅せたいですよね。でも作品発表として紙の同人誌も大切です。そこで、これまでサークルさんが挑戦してきた「模型と紙の本をいっしょに取り扱うときの卓上ディスプレイのベストバランス」を探る様子が具体的な事例を交えつつ載っています。
どのくらい具体的かというと、使用する道具の入手先はもちろん、前を通る人の視野の範囲を想定したディスプレイ、そしてサークル入場するタイミングまで試行錯誤されているのです。早く設営を初めて落ち着いて心ゆくまでフィギュアのポーズにこだわったりするもよし、まわりのサークルさんのディスプレイを観察して自スペースの展開をよりよく微修正していくのもあり……どう魅せるかって大事で楽しいですよね。自分のサークル、自分以外のサークルさんのことも考えて、無理のない、それでいて効果的なディスプレイを目指す様子は、さまざまなジャンルで参考になりそうです。
そして小さな部分ですが、実際の参加記録の項目に売れ行きの欄があることにはっとしました。なんと「売れ行き×」と書いてあるときも。売れ行き×! 活動の目的が利益最優先という意味ではなく、せっかくの同人誌を見てもらえなかったというショック……。売れなかったときのことなんて、そもそも振り返りたくない気持ちの方が優ってしまうことも容易に想像できるのに、そこから試行錯誤して模型の展示と本とのバランス、見せ方を探り、またそれを丁寧に記録されているのが身に染みる情報になっています。
すてきな作品がもっと広がるように……模型好きさんからの熱いエール
こちらのサークルさんは、そもそも別ジャンルで活動していた作者さんが、プラモデル写真をTwitterにアップしていた方を誘ってサークル活動を始められたそうです。このご本の作者さん自身は「教えられる模型テクニックなんてない」と書いていらっしゃいます。それでも、すごい模型作品を同人誌の形にすることで、「よりたくさんの人に見てもらえるのではないか」という思いで作られたこのご本からは、相方さんの作る模型をどうやったら引き立てられるのか、そしてすてきな作品をもっと多くの人の目に止めてもらえるために自分に何ができるのか、という「作品づくり以外でジャンルを愛する」気持ちがひしひしと伝わってきます。そのためにご自身の経験を惜しみなく、精いっぱい披露してくださっているのがなんともうれしいです。
好きな対象にどんなやり方でアプローチできるか……いろんな方向から考えることができそうなご本です。
今週の余談
かぎ針編みで作っていたバッグがやっと完成しそうです。出来上がりかけるとうれしくってラストスパートしてしまいますね。少しふわっとした糸で編んだので、持ってお出かけするのはまた次の冬かしら……。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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