消えてしまった地名を求めて―― 同人誌『旧町名をさがす会』が掘り起こす、かつての町の痕跡司書みさきの同人誌レビューノート

ひっそりと楽しむのが粋ですねえ。

» 2020年01月12日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 1月もはや中旬を迎えましたが、2020年最初の同人誌レビューです。皆さまは新年をどんなところでお迎えになったでしょうか。どんな町や土地の名前が浮かんでくるでしょうか。今回は、その町の名前に注目した同人誌です。

今回紹介する同人誌

『旧町名をさがす会 入会のご案内』 A5 32ページ 表紙・本文カラー

作者:102so(じゅうにそう)


同人誌 図書館 司書 消えた町の名前、ご存じでしたか?

名前を探して町歩き。1人で楽しむお宝探し

 ご本の冒頭はこんな言葉ではじまります。

 「ヨドバシカメラをご存知ですか?」

 あら、土地の話なのに家電量販店の名前の話? と思ったら、なんとヨドバシカメラさんの社名は、かつて東京都新宿区に「淀橋」という町名があったことに由来しているのだそうです。知りませんでした! でも「新宿区淀橋」は1970年に「西新宿」に変更され、消えてしまったとのこと。しかし、ご本ではさらにこう呼びかけられます。

 「もう見ることができない旧町名・新宿区淀橋。ですが、今でも現地に残っているとしたら見てみたくないですか?」

 んっ? なくなったんですよね。何を見ることができるのでしょう? とページをめくると、確かに「新宿区淀橋」の札が! 筆使いの感じられる文字も味わい深く、ただの地名表記のはずなのに、埋もれていたお宝に出会ったような高揚感が湧いてきました。

同人誌 図書館 司書

同人誌 図書館 司書 確かに淀橋の地名が残る札が

豊富な実例、地名リストつき。キミは旧町名を見つけられるか!

 こちらのご本では、住居表示の実施によっておおむね昭和40年(1965年)前後に消滅し、今では使われなくなった東京23区の町名を対象として、実際に町を歩いてその痕跡を探す楽しみ方の詳細を書いています。ご本のタイトルに『旧町名をさがす会入会のご案内』とあり、ちゃんと巻末に入会試験の問題も掲載されています。が、「旧町名さがしとは入会するものではなく心のあり方です」ということで、気になったそのとき、誰でも参加できる会なのです。

 活動も(1)旧町名を知る→(2)町に行く→(3)探す→(4)痕跡を認める……の最終目的は、(5)喜ぶ、なんです。しかも現地で騒がず、大っぴらに表現するのはお家に戻ってから! 知識と体力を兼ね備え、その上、心の中で喜びをかみしめるという深い楽しみの味わい方をも得ることができる、なんと重厚な遊びでしょうか。

 参考になるように、対象の地名リスト、どんなところに痕跡が残っていやすいか、実際の痕跡の実例写真もたくさん掲載されているのに加え、作者さんが実践されている探し方レポートもあって、実用、読み応えともに抜群です。すっきりした紙面構成もとっても読みやすいです。

同人誌 図書館 司書 見つけて喜ぶのが最終アクションです!

痕跡から、暮らしのおもかげを追って

 地名の表示版のほか、お寺やビルの表札、タバコ屋さんの看板、そして、かつて電力会社が各戸に設置したと思われるレトロな電力看板。旧町名の表記はそういったものに残っていやすいのだそうです。どれも町中にある、そんなかけらから、かつて町の名前を書いて、読んで、暮らしていた人たちの姿がほんの少し見えるような気がしました。

 そこに町があるから、呼び名が付けられた、それは当たり前のことなのですが、なぜ変わってしまったのか、そしていまこの町はどんな顔をしているのか、わずかな文字から当時をうかがうことができ、実際の町を感じることで、現在へとつながっていくような気がします。

 地名としては既に消滅した「誰かがそこに暮らしていた証」。町にひっそりと残る痕跡をたどるのは、ほのかなささやきに耳を傾けるのに似ているのではないでしょうか。小さな、けれど奥深いお宝を探しに……まずはページをめくってくださいませ!

同人誌 図書館 司書 豊富な実例とほんわかレポートも掲載されています

同人誌 図書館 司書

サークル情報

サークル名:旧町名をさがす会

Twitter:@102so

Webサイト:https://9cm.hateblo.jp

次回イベント参加予定:第4回マニアフェスタ(2020年2月8日)



今週の余談

 お餅、召し上がりましたか? 焼いて良し、ゆでてとろとろも良し、汁物に入れてもおいしい万能感。甘いのもしょっぱいのもおいしいですよね。持久力を必要とするアスリートさんにお餅は好評という説を聞いてから、お餅をたくさん食べるときにどこか感じていた罪悪感が薄れてきました! ……全くアスリートではありませんが。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/11/news033.jpg 妻「“157センチ、43キロが理想”と言う夫に、かわいいと言われたい」→プロに依頼したら…… 「エグッ!」「黒木瞳さんかと」
  2. /nl/articles/2502/11/news078.jpg “スーパーお嬢様”の現役モデル、実家で「総額3億円の15台の車」を所持 “18歳の時にもらった車”に驚きの声も
  3. /nl/articles/2502/10/news155.jpg 実家の間取り「5LLLLDKKBB」の超豪邸 “異次元お嬢様”が話題 専属使用人は「世界最強の兵士」で香取慎吾ら驚がく
  4. /nl/articles/2502/11/news025.jpg ←夫に出すやつ 自分で食べるやつ→ 目を疑うレベルの“落差”に爆笑「わ〜おw」「なんかとんでもないのいた」
  5. /nl/articles/2502/08/news015.jpg パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  6. /nl/articles/2502/09/news027.jpg マインクラフトで作った“超有名ゲームでおなじみの場所” 2カ月かけて建築した大傑作に絶賛「背景まで……」「全部ブロックだ!」
  7. /nl/articles/2502/11/news009.jpg 鮮魚店で瀕死の“巨大ガニ”を購入→家に連れて帰り、お風呂場に放ってみると…… まさかの展開に「こわっww」と800万表示
  8. /nl/articles/2502/11/news012.jpg 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  9. /nl/articles/2502/11/news044.jpg クラシック奏者「加工して絶世の美女にして」とAIに依頼→“とんでもない事故”になってしまい思わず二度見 「怖くて泣いた」
  10. /nl/articles/2502/11/news040.jpg 自衛隊で“ネットミームまみれの張り紙”が目撃され約1000万表示の反響 見覚えあるポーズに「めっちゃ笑った」「おもろすぎるww」
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  2. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  3. 14歳のとき、親友の兄と付き合うことになった女性→13年後…… “まさかの結末”に「韓国ドラマみたい」【海外】
  4. リンゴを1年間、水の中で放置→顕微鏡で見てみたら…… 衝撃の実験結果に「これはすごい」「息をのみました」【海外】
  5. 海釣り中、黒猫に「ちょっと来い」と呼び出された釣り人 → 付いて行くと…… 運命のような保護から2年、飼い主に話を聞いた
  6. “駐車場2台分”の土地に、建築家の夫が家を建てたら…… “とんでもない空間”に驚き「すごい。流行る」
  7. 「なんだこの暗号は……」 マクドナルドの“大人だけが読めるメッセージ”が410万表示「懐かしい〜」「読める人同世代w」
  8. 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」 投稿者に話を聞いた
  9. ズボラ母が5人分サンドイッチを爆速で作ったら…… 目からウロコの時短テクと美しい仕上がりに「信じられない」
  10. 【今日の計算】「7−2×0+9」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議