消えてしまった地名を求めて―― 同人誌『旧町名をさがす会』が掘り起こす、かつての町の痕跡:司書みさきの同人誌レビューノート
ひっそりと楽しむのが粋ですねえ。
1月もはや中旬を迎えましたが、2020年最初の同人誌レビューです。皆さまは新年をどんなところでお迎えになったでしょうか。どんな町や土地の名前が浮かんでくるでしょうか。今回は、その町の名前に注目した同人誌です。
今回紹介する同人誌
『旧町名をさがす会 入会のご案内』 A5 32ページ 表紙・本文カラー
作者:102so(じゅうにそう)
名前を探して町歩き。1人で楽しむお宝探し
ご本の冒頭はこんな言葉ではじまります。
「ヨドバシカメラをご存知ですか?」
あら、土地の話なのに家電量販店の名前の話? と思ったら、なんとヨドバシカメラさんの社名は、かつて東京都新宿区に「淀橋」という町名があったことに由来しているのだそうです。知りませんでした! でも「新宿区淀橋」は1970年に「西新宿」に変更され、消えてしまったとのこと。しかし、ご本ではさらにこう呼びかけられます。
「もう見ることができない旧町名・新宿区淀橋。ですが、今でも現地に残っているとしたら見てみたくないですか?」
んっ? なくなったんですよね。何を見ることができるのでしょう? とページをめくると、確かに「新宿区淀橋」の札が! 筆使いの感じられる文字も味わい深く、ただの地名表記のはずなのに、埋もれていたお宝に出会ったような高揚感が湧いてきました。
豊富な実例、地名リストつき。キミは旧町名を見つけられるか!
こちらのご本では、住居表示の実施によっておおむね昭和40年(1965年)前後に消滅し、今では使われなくなった東京23区の町名を対象として、実際に町を歩いてその痕跡を探す楽しみ方の詳細を書いています。ご本のタイトルに『旧町名をさがす会入会のご案内』とあり、ちゃんと巻末に入会試験の問題も掲載されています。が、「旧町名さがしとは入会するものではなく心のあり方です」ということで、気になったそのとき、誰でも参加できる会なのです。
活動も(1)旧町名を知る→(2)町に行く→(3)探す→(4)痕跡を認める……の最終目的は、(5)喜ぶ、なんです。しかも現地で騒がず、大っぴらに表現するのはお家に戻ってから! 知識と体力を兼ね備え、その上、心の中で喜びをかみしめるという深い楽しみの味わい方をも得ることができる、なんと重厚な遊びでしょうか。
参考になるように、対象の地名リスト、どんなところに痕跡が残っていやすいか、実際の痕跡の実例写真もたくさん掲載されているのに加え、作者さんが実践されている探し方レポートもあって、実用、読み応えともに抜群です。すっきりした紙面構成もとっても読みやすいです。
痕跡から、暮らしのおもかげを追って
地名の表示版のほか、お寺やビルの表札、タバコ屋さんの看板、そして、かつて電力会社が各戸に設置したと思われるレトロな電力看板。旧町名の表記はそういったものに残っていやすいのだそうです。どれも町中にある、そんなかけらから、かつて町の名前を書いて、読んで、暮らしていた人たちの姿がほんの少し見えるような気がしました。
そこに町があるから、呼び名が付けられた、それは当たり前のことなのですが、なぜ変わってしまったのか、そしていまこの町はどんな顔をしているのか、わずかな文字から当時をうかがうことができ、実際の町を感じることで、現在へとつながっていくような気がします。
地名としては既に消滅した「誰かがそこに暮らしていた証」。町にひっそりと残る痕跡をたどるのは、ほのかなささやきに耳を傾けるのに似ているのではないでしょうか。小さな、けれど奥深いお宝を探しに……まずはページをめくってくださいませ!
今週の余談
お餅、召し上がりましたか? 焼いて良し、ゆでてとろとろも良し、汁物に入れてもおいしい万能感。甘いのもしょっぱいのもおいしいですよね。持久力を必要とするアスリートさんにお餅は好評という説を聞いてから、お餅をたくさん食べるときにどこか感じていた罪悪感が薄れてきました! ……全くアスリートではありませんが。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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