好物を聞くとイメージが変わるマリー・アントワネット 彼女が愛した素朴な郷土料理「クグロフ」とは(1/3 ページ)

パンがなければケーキを食べれば……なんて言ってないらしい。

» 2020年04月08日 11時00分 公開
[高橋ホイコねとらぼ]

 「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない」との発言で有名なマリー・アントワネット。こんな発言をする人は、いったい何を食べていたのでしょう。想像を絶するほどぜいたくできらびやかな料理かと思いきや、意外にも素朴な味を好んでいたようです。

 どんな食事をしていたのか、世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト“音食紀行”を主宰する遠藤雅司さんに聞きました。

遠藤雅司さん

歴史料理研究家。世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト「音食紀行」主宰。著書に『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』(柏書房)、『英雄たちの食卓』(宝島社)、『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓』(春秋社)。『Fate/Grand Order 英霊食聞録』にて監修担当。


マリー・アントワネットの肖像画 マリー・アントワネットは何を食べていたのだろう(エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン [Public domain]

マリー・アントワネットが愛した素朴な郷土料理「クグロフ」とは

――マリー・アントワネットは、どんな食事をしていたのか教えてください

 そもそも大食漢ではないこともあって、食事に関する記述が非常に少ないんです。肉をガッツリ食べるような人ではない一方、無類のお菓子好きです。お気に入りの一品として知られるのがクグロフです。

――クグロフとは、どんな食べ物なのでしょうか?

 当時の資料を元に再現しましたが、素朴な焼き菓子といったところです。レーズンやアーモンドが生地に入っていて、焼き上げたあとに粉砂糖で化粧をします。面白いのは、ビールを使っていることです。少しほろ苦い風味がします。


クグロフの写真 お気に入りだったという焼き菓子「クグロフ」(画像提供:遠藤雅司さん)

――これはフランスの焼き菓子ですか?

 もともとはフランスのアルザス地方の郷土料理です。マリー・アントワネットはウィーンのハプスブルク家の生まれですが、お父さんがアルザス地方の人ということもあって、子どもの頃から食べていました。

 フランス王室に嫁いだあとも、毎週欠かさず食べたと言われています。国同士の国際結婚の場合、宮廷付きの料理人も一緒に連れて行きます。そういった料理人を使って、ヴェルサイユの人たちにウィーンの名物をもてなします。

 もともとフランスのお菓子だったクグロフがウィーンに行き、彼女によってフランスに戻ってきたんですね。


切ったクグロフの写真 ビールが使われているというクグロフ。素朴な味がする(画像提供:遠藤雅司さん)

――「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない」なんて発言するくらいの人なので、こんな素朴なケーキを好んでいたとは意外です。

 あの発言は、実際には言っていなくて、ゴシップ紙によるデマだということが分かっています。逆に、母親であるマリア・テレジアに宛てた手紙に「パンが値上がって庶民が大層苦しんでいるので、祝典はささやかなものにします」といった趣旨のことを書いているくらいです。

 「パンがなければ……」の発言は、フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーによる自伝『告白』に出てきます。そこでは、とある大王妃の言葉とあり、マリー・アントワネットが言ったとは書いていません。そもそもこの『告白』は1765年頃の刊行で、当時、彼女はまだ10歳になるかならないかでした。年代が全く合わないのです。

 フランス宮廷は、ルイ14世以降、財政赤字が続いていました。それなのに貴族はぜいたくな暮らしを続けていました。もともと、庶民からひんしゅくを買っていた状態で、外国から世間知らずな王妃を宮廷が迎え入れた形になり、庶民の不満がそこに向かってしまいました。

 いろんな逸話に尾ひれがついたことで、マリー・アントワネットが言っていないのに言ったように受け取られてしまいました。ですので、実際の彼女の実像とイメージのギャップが大きくなってしまったところがあります。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/24/news088.jpg ヤフオクで出品されていた「20万円の引退品」→開封すると…… “まさかの中身”に賛否 「ゾッとしたわ…」「しゃーない」
  2. /nl/articles/2412/25/news115.jpg 辻希美&杉浦太陽、家族6人でクリスマスに豪華料理 長女・希空が作った“プロ級のケーキ”も…… 「凄くいい時間だった」
  3. /nl/articles/2412/24/news092.jpg 「バグってる」 シャトレーゼの“864円で買える”「1人用クリスマスケーキ」に大絶賛の声 「企業努力すごい」
  4. /nl/articles/2412/24/news037.jpg 毛糸で作ったお花を200個つなげると…… “圧巻の防寒アイテム”完成に「なにこれ作りたい……!!」「美しすぎる!」と100万再生【海外】
  5. /nl/articles/2412/25/news152.jpg 「思わず泣きそう」 シャトレーゼの“129円クリスマスケーキ”に衝撃 「すごすぎない!?」「このご時世に……」
  6. /nl/articles/2412/23/news078.jpg そば屋の看板のはずが…… 雪で“別の店”みたいになってしまった光景が北海道の豪雪のすさまじさを物語る
  7. /nl/articles/2412/25/news009.jpg 若かりしころの父と母→36年後…… 苦楽をともにしてきた“現在の姿”に「泣いた」「本当に素敵」と1700万再生突破【海外】
  8. /nl/articles/2412/23/news025.jpg 幼少期から“ディズニー”大好きな2人→25年後…… まさかまさかの“現在”が話題 「映画のワンシーンのよう」
  9. /nl/articles/2412/25/news021.jpg 大型ワンコが猫に育てられた結果…… 驚きの行動連発に「自分を猫だと思っていないっw?」「かわいすぎる!」
  10. /nl/articles/2412/24/news156.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」される夫婦の苦悩……“年の差33歳差”カップルに反響【個性的なカップル特集2024】
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  3. 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  4. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に【大谷翔平激動の2024年 「お菓子」にも注目集まる】
  5. 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  6. “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  7. 「バグってる」 シャトレーゼの“864円で買える”「1人用クリスマスケーキ」に大絶賛の声 「企業努力すごい」
  8. 「昔モテた」と言い張るパパ→信じていない娘だったが…… 当時の“驚きの姿”が2900万再生「おおっ!」「マジかよ」【海外】
  9. トイレットペーパーの芯を毛糸でぐるっと埋めていくと…… 冬に大活躍しそうなアイテムが完成「編んでるのかと思いきや」【海外】
  10. “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」