ポストコロナ〜大きく変わるこれまでの価値観
「自由を制限することに対するパフォーマンスの良さ」は証明されてしまった。
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月17日放送)に慶応義塾大学教授の神保謙が出演。新型コロナウイルスが収束した後の世界はどうなるのか、ポストコロナにおける国際社会のあり方について解説した。
ロシアと中国が電話会談〜習近平氏はコロナを政治問題化したアメリカを批判
ロシアメディアによると、プーチン大統領は16日、中国の習近平国家主席と中露首脳電話会談を行った。習氏はアメリカを念頭に「新型コロナウイルスの大流行を政治問題化させたり、根拠のないレッテルを張ったりすることは国際協力の役に立たない」と述べ、中国とロシアがこうした動きに協力して立ち向かうよう主張した。
ポストコロナ〜我々はもとの世界に戻れるのか
飯田)新型コロナウイルスが世界中に蔓延して、人の流れも経済も止まりました。IMFは「大恐慌以来だ」という表現をしていましたが、100年に1度の価値観が変わるような事態になるのではないでしょうか?
神保)控え目に見積もっても第二次大戦後、最大の世界的危機だと思います。しかもコロナ感染がどういう形で収束するのか、収束したときに我々はコロナ前の世界に戻れるのかということも含めて、国際関係のあり方が大きく変わる可能性があると思います。
民主主義よりも独裁の方が有用という議論
飯田)そのなかで、中国とロシアの電話会談。双方の国は共に人権を国家の意思が超越します。更に中国は、スマホや監視カメラで人々の行動をコントロールしています。この方がウイルスに対して有効なのではないか、ある意味で民主主義よりも独裁の方が有用なのではないかという議論が、一部で出ています。これはどうですか?
神保)この20年くらいの傾向ですが、リベラルな民主社会のパフォーマンスが落ちていると言われています。権威主義体制は、自由な経済体制のなかではどこかで持たなくなると言われていたのですが、実は社会における統制や国家資本主義的な経済システムによって、経済は持たせるし政治体制も強固になるというトレンドがありました。そして新型コロナウイルスという公衆衛生上の脅威に直面したときに、やはりデジタル権威主義のパフォーマンスはよかった、ということになると思うのです。ロックダウン後の中国や、シンガポールのように人々のクラスターをデジタルで追いかけるのもそうだし、ベトナムのような社会主義体制では感染者が少ない。いろいろな体制と国民との関係で、自由を制限することに対するパフォーマンスのよさは証明されてしまったということですね。
飯田)ただ、そもそもの戦後のリベラルな国際秩序から見れば、どちらかというと私などはアレルギーがある方なので、これを生理的に認めたくないという気持ちがあります。自由な民主主義で法の支配があり、報道の自由があることを何とか維持して行きたいと思うのですが、難しくなるのでしょうか?
神保)ポストコロナでどういう価値観が共有されるのかにもよると思うのですが、人間の生活のなかで安全は最大の価値だと思うのです。安全の上にさまざまな自由や文化的活動が乗っているのだったら、それをまず確保しなければ、リベラルな社会の前提は失われます。その安全を確保する手段が、いまは社会の統制によってしか生み出せないという部分が、非常に苦いところです。これを非常時のフェーズとして次に持って行くことに変えられれば、リベラルは存続するでしょうし、我々がコロナウイルスや次の感染症に備えなければいけないと言うのであれば、自由の制約は長期間にわたって続く可能性があると思います。
今回の流行は権威主義体制の引き起こした過ち〜その後の統制能力は評価せざるを得ない
飯田)一方で権威主義体制、中国がその典型ですが、初期に武漢で封じ込められなかったのは、権威主義体制のなかで声を上げた人を潰して、正しい報道ができなかった。隠ぺいがそのまま蔓延につながり、世界中に伝播してしまった。これを権威主義体制の失敗と見るかどうかで議論は変わると思うのですが、そのように見ていない人もいるということでしょうか?
神保)きっかけとなった武漢におけるさまざまな告発も、現場の行政的な配慮によって面子を潰されたくないという形で正しい報道を規制したのは、初期対応における最大の失敗だったと思います。確かに硬直的な権威主義体制で陥りがちなミスが、世界的危機を招いてしまったのは忘れてはならないことだと思います。ただ、危機が始まって拡大したときの権威主義体制の統制能力は評価せざるを得ないところがあるので、我々の捉え方の違いだと思います。
飯田)民主主義、特に議会制民主主義も、かつてある総理大臣が「期限付きの独裁」と表現したことがあります。後からのバランスチェックと危機に対しての権限付与のシステムづくりを、これから考えて行かなければならないのでしょうか?
今後の国際関係を含め、考えなければいけない課題は多い
神保)危機の際はどうしても指示がトップダウンになりがちで、これは民主主義でも、選ばれたリーダーが決断しなければいけないことはかなりあるわけです。やはり民主的な手続きを取っていると時間的に間に合わないケースは、今回のような危機も含めてたくさんあります。例えばデジタルで、多くの個人情報を収集して分析するというときに、誰が管理するのか。企業なのか、警察なのか、情報当局あるいは保健衛生当局なのかによって、民主主義社会が持っている個人情報や、データの取り扱いに関する関係性が変わって来るわけです。できればそれを一元化せず、多くの国民の判断に委ねる。「こういうデータがありますが、次の行動をどうしましょう」という形で、判断がより民主的に共用されるやり方であれば、データを収集しても民主社会のなかで、国民が納得する形で利用できるような運用の仕方はあると思います。
飯田)いまはまさに危機対応の真っ只中ですが、冷静に考えながら次を議論して行かなければならない。これも出口戦略の1つということになりますね。
神保)やはり世界が変わるというところで注意しなければなりません。例えば企業のサプライチェーンだと、いままでは最適生産方式で、原材料や部品を分散して生産するという形だったのが、人の移動や物流が途絶えたときにはどうやって再生するのか。更にもう1つは、国際秩序でもリーダー不在と言われていて、中国とロシアが「アメリカはいかん」と言っています。けれど、では自らが本当に秩序を提供するような医療体制、安全保障、金融システムを他の人のために提供する国があるのかなど、国際関係を考えて行く課題は多いと思います。
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