【無料配信記念】コナンファンが劇場版名探偵コナン「銀翼の奇術師」の魅力を語る
2020年5月1日〜2日に無料配信。
4月17日から順次、「名探偵コナン」劇場版第1作〜第10作がさまざまなプラットフォームで無料配信されています。2日間ずつ交代での無料配信で、5月1日〜2日に配信されているのは第8作「銀翼の奇術師(マジシャン)」(2004年公開)です。
コナンファンの赤いシャムネコさんに、同作のオススメポイントを極力ネタバレなしで聞きました。
殺人事件が引き起こした絶体絶命の飛行機パニック
第3作「世紀末の魔術師」に続き、怪盗キッドが登場する2番目の映画です。怪盗キッドからのスター・サファイア(運命の宝石)を狙う予告状で幕を開け、汐留の劇場での怪盗キッドとコナンの“追いかけっこ”を経て、中盤からはメインの舞台となる飛行機へ。大空を飛ぶ究極の密室空間を舞台にした殺人事件と、逃げ場のない絶体絶命の危機が描かれます。
「世紀末の魔術師」という傑作があるだけに、「どのように差別化するのか」という目で見たくなってしまう本作。もちろん作り手もそんな観客の気持ちをわかっているのでしょう、ガラリと作りを変えてきています。映画開始直後にコナンと怪盗キッドとの対峙シーンを持ってきて、そこから時系列をさかのぼって見せるという構成。しかも序盤からいきなり怪盗キッドが新一の姿で登場してきたり、中盤以降も早々に正体を明らかにしたりと、前作を意識しているファンこそ意表をつかれる展開になっています。
怪盗キッドといえば空中アクション。序盤の怪盗キッドとコナンの追走劇は、夜の東京(汐留)を舞台にしており、立体感や東京の夜景の美しさもあって大変見応えがあります。コナンくんのある意味キッドを信用したすさまじい身の張り方にも唸らされるところ。「世紀末の魔術」の中盤、同じく夜の街を舞台にした大阪での追走劇のBGMともアレンジが重なって、テンションが上がります。
ここの満足度も高いのですが、本作の真骨頂はそのあと。中盤以降は、ほぼ全てジャンボジェットの中で話が展開されます。“飛行機で殺人事件”というと、ミステリファンにとってはアガサ・クリスティーの『雲をつかむ死』、原作ファンにとっては21巻の「工藤新一最初の事件」を思い出す人も多いでしょうが、本作でも飛行機ならではのシチュエーションを活かした毒殺事件が描かれます。
ただこの毒殺事件、一見すると魅力的なのですが……事件発生から10分くらいで謎が解かれてしまうんですね。このスピード感は劇場版でも随一で、本作の犯人を覚えていないという人も多そうです。トリックのシンプルさや犯人の指摘も含めあっさりしていて、ミステリ部分だけを取り出すと、「なぜこの事件を入れたのか?」と思ってしまうようなアンバランスさがあります。
こんなに殺人事件の謎がある意味どうでもいいのは、この毒殺事件そのものが、その後のパニックの布石だからに他なりません。序盤〜中盤までは、飛行機を危機的状況に追いやるための“滑走路”として機能しているのです。本作は、たったひとつの毒殺事件が最初のドミノを倒し、犯人の意図をも超えてジャンボジェットが脱出不可能な極限空間と化していく――という作品です。一度転がり始めた後のパニックの深め方は、コナン映画の中でも特に尺をとって丁寧に描かれており、後半はほとんどまるごと「制御不能となった飛行機をどうやって不時着させるか」のお話になっていきます。
このパニックに次ぐパニックのパートが面白いんですよね……! 入念に取材をしたであろう飛行機のディテールも、危機の作り方に現実味を与えていますし、必死に解決策を探るシーンがより真に迫るものになっています。飛行機という素材を、最大限に使い切っていますね。こんなに被害を出す必要ある? ってくらいに飛行機も空港も破壊されていき、「被害総額はいくらだろう」と余計な心配をしてしまうほど。爆破シーンのスケールは、他作品に引けをとりません。
アツいのは、シリーズ未曾有の危機を乗り越えるため、コナンと怪盗キッドが共闘するところ。2人がお互いをライバルとして意識しながら、同じ目的のために手を組む――関係性と会話がファンにはたまりません。クライマックスで危機から脱出するための“最後の1ピース”も実に見事。絵で見れば一目瞭然、劇場版ならではのスケールの大きさもよし。怪盗キッドものだからこそ生まれた、独自のアイデアに感動します。
キャラクター視点では、最後に園子にフォーカスが当たるのも忘れてはいけません。蘭と園子の友情が自然に描かれ、「紺青の拳(フィスト)」で園子のよさを再認識したファンには、改めて見返すとうれしいポイントがたくさんあります。
そしてキッドものとして作り上げつつも、きちんと“新一と蘭の話”にまとめていくところも、コナンのドラマの作り方のうまさを感じるポイント。飛行機の中でどうやって新一と蘭の話を盛り上げるのかと思いきや、パニックを収束させるための一番美味しいところで、新一と蘭のラブロマンスを入れてくるのがニクいです。
これまでもたびたび言っていることですが、コナン映画のポイントはミステリ的なアイデア、アクション、そしてラブロマンス。本作はそれらの魅力が混然一体となりつつ、メリハリのきいた舞台転換やアクション、危機からの脱出に大きくウェイトが置かれています。純粋なミステリを期待すると小粒ですが、その分パニックムービーとしての出来はシリーズでも間違いなく上位にくるでしょう。リアルタイムに視聴していてピンとこなかった方も、この機会にもう一度見ると再発見が多い映画なのではないでしょうか。僕は非常に好きですね。
最後に触れておきたいのは空の表現のきれいさ。美術の人が意識しているのでしょうが、夕焼けのシーンが多く、夜に向かって刻々と移り変わっていく色使いが見事です。そして実写エンディング映像も、飛行機が離陸するところから始まり、着陸するところで終わる構成が美しいです。長い旅をしてきて、今ようやく着地できたんだな……という感慨が押し寄せてきます。エンディング後の気の利いた一幕とあわせて必見です。
この映画が気に入った人へのオススメ
- 「天空の難破船(ロストシップ)」 本作とセットで見たい作品。同じキッドもの、同じ空が舞台、という材料で、ここまで違う展開を見せてくる引き出しの多さに感動
- 「世紀末の魔術師」 やはり“初代怪盗キッド映画”として挙げておきたいタイトルです
- 「工藤新一最初の事件」 映画ではないのですが……本作同様、飛行機を舞台にした新一と蘭の物語。こちらのほうが謎解きとしては本格的
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