作者は現役テレビ東京社員! テレビ業界のウラ側をAD視点で描いた漫画『オンエアできない!Deep』の衝撃(1/2 ページ)
「ステキな海外ロケを夢見たけれど、テレ東にそんな甘い番組はなかった」。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で収録が中断し、思うように「オンエアができない!」苦境に立たされるテレビ界。そのようなさなか、くしくもテレビ界のウラ側を描いた衝撃のコミック『オンエアできない!Deep』が発売されました。作者は、なんと現役のテレビ局社員!
『オンエアできない!Deep』は、架空のテレビ局「はじっこテレビ」で働くポンコツAD(※)「まふねこ」の視点から描いたテレビ業界漫画。ギャンブルが好きすぎて会議をすっぽかすディレクター、弁当の奪い合いになる編集室、アクセントに納得がいかないと原稿を読んでくれない大御所ナレーターなどなど、ひと癖もふた癖もあるテレビ業界人が続々登場します。
※アシスタント・ディレクター。番組制作実務を補佐する助手
作者はテレビ東京の現役局員で、現在はBSテレビ東京に出向中の真船佳奈さん。主人公のAD「まふねこ」は、ほぼAD時代の自分自身。
2012年にテレビ東京へ入社し、2014年に制作局に配属。以来、バラエティ番組「所さんのそこんトコロ!」「昼めし旅」や「テレ東音楽祭」「プレミアMelodiX!(メロディックス)」など音楽番組のADとディレククターを務めました。現在は編成局員として「ワタシが日本に住む理由」「徳光和夫の名曲にっぽん」「日経プラス10」を担当しています
そんな真船さんが描いた1冊目『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます(以下、オンエアできない!)』(2017)のあまりにも赤裸々な暴露っぷりが話題を呼び、一躍、時の人に。そしてこのたび、テレビ界をさらにディープに掘り下げた2冊目が発売となったのです。
テレビ界という魔窟に生息する魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちの姿を、まさにDeepに描き出す真船さん。現役のテレビマンが描く漫画ですから、それはもうリアル。彼女にこの漫画を通して読者に伝えたいことと、そしてはからずも刊行直後にテレビ界を襲った新型コロナウイルス騒動について、お話をうかがいました。
新型コロナウイルスに翻弄されるテレビの現状
―― 真船さんは、テレビ東京から「BSテレ東」の編成部へ出向されていますね。テレビ東京のAD時代のように床や椅子で眠りながらやる過酷な仕事は、今はないのですか。
真船佳奈(以下、真船):さすがに床で眠るような仕事はもうしていないですね。今の部署は“どホワイト”ですよ(笑)。
―― 新型コロナウイルスの影響で、制作局の方々は、今どうされているのですか。
真船:収録もロケも一切禁止になっているので(取材時5月上旬時点)、現場の人たちも同じく、家でできる仕事をしている状況です。
―― 本来はスタジオや屋外でやる仕事ですから、家でできることは限られているでしょうね。
真船:新型コロナウイルスでどの部署も影響を受けていますが、もっとも大変なのは編成局と制作局の2部署だと思います。新撮ができない。けれども、このままずっと総集編や再放送というわけにもいかない。なので、全部リモートで収録する番組を急きょ企画したり、「Zoomを使って収録してみようか」と試したり。遠隔でも番組制作ができる方法を模索する動きになってきています。こういう状況下で、なんとか新作を撮って、視聴者に楽しんでもらって、テレビ離れを防ごうとしているんです。
番組で使う「ワケがわからないイラストで鍛えられた
―― 新刊『オンエアできない!Deep』を拝読して、3年前に出版された1冊目の『オンエアできない!』に比べて格段に絵がうまくなっていると感じました。
真船:自分で言うのもなんですけれど、絵、うまくなっていますよね!(笑) なんせ1冊目の『オンエアできない!』は「漫画初めてセット」を文房具屋さんへ買いに行くところからのスタートだったので、当時の絵はそうとうヤバかったです。でもそんな稚拙な絵でしたが、「お前、漫画の単行本を出したんだって? ちょっと番組で使うイラストを描いてくれよ」と社内で頼まれるケースが多くなり、必死に描いているうちに、多分上達したんだと思います(笑)。
―― テレビに使うイラストを真船さんがお描きになっていたのですか。例えば、どのようなものを。
真船:「ロック歌手の誰誰さんが売れない時代に昔の旧型Macを背負って歩いている姿」とか、「不倫したタレント3人が文春砲におびえる挿絵」とか。ワケわかんないイラストばかりです。そんな依頼が多くて、否が応でも鍛えられました。
―― それは無理難題ですね。でも、番組で使うイラストって、ADが描くものなんですか。
真船:本来は違うんでしょう。けれども、そこはテレ東ですから。
―― そう言われると、ぐぅの音も出ませんね。急ぎでたくさんのイラストを描いてきた自信からでしょうか、絵の「肉筆感」がすごい。線の力が強いですね。
真船:1冊目の印税でiPadを買ったので、今は液晶画面にApple Pencilで描いています。タブレットで描いていると言ったら、驚かれるんです。「絶対に紙に手描きだと思った」って。昔から筆圧がすごくて、メリメリ音がするくらいの圧で描いてますね。Apple Pencilのペン先をいくつダメにしちゃったか分からないです。
―― 真船さんは、「前説(まえせつ)」(※)もやっておられたのですね。
※観客公開型のテレビ番組において、本番前に観客に番組進行の説明を行う役目のこと。観客の気分を高揚させるための話術を必要とする
真船:やっていました。私は南海キャンディーズさん司会の「プレミアMelodiX!」という音楽番組に配属になって、先輩スタッフたちに「一人で前説をやれ」ってポーンと投げ出されたんです。それまで前説をやった経験がほとんどなかったので、最初のころは全然できなくて。緊張して、お客さんの前でただただ「あ……あ……あ……」って言って震えているだけの人でしたね。
―― 漫画でも観客の雰囲気を凍らせてしまい、ディレクターに激怒されていましたね。
真船:「前説」は、本来は観客席を盛り上げて、出演者がやりやすいように会場の雰囲気を暖めるのが仕事なんです。司会者がスタンバイしている間に前説がお客さんの気分を高めて、「お待たせしましたー。はーい、南海キャンディーズのお二人でーす」って呼び込むのが私の役目。でも私がしゃべると、お客さんがめちゃめちゃ「しーん」としちゃって……。見かねた南キャンの山里さんが「お客さん、本当にごめんなさいねー!」って助けに入ってくれて。前説がやりやすいように出演者が盛り上げてくれるっていう逆転現象(苦笑)。
―― 前説がやりやすいようにタレントが会場を暖めるとは本末転倒ですね。
真船:「このままじゃいけない」と思い、前説で話すフリートークの台本を事前に書くようになったんです。収録準備とか、やらなきゃいけないことがたくさんあるのに、それらを全て投げ打って2時間くらいかけて台本を書いていました(笑)。
―― 「前説の台本」って、どんなことを書くんですか。
真船:昔「恋のから騒ぎ」に出演していた時期に話した悲惨な恋愛ネタを入れて。「大学生のときの初デートで動物園にパンダを見に行ったら、その日の朝に死んでて、パンダの遺影が置かれていた」とか「デートで深夜バスで大阪へ行く途中、バスが爆発して救助された」とか。すると、どっかんどっかんウケるようになってきたんです。Twitterとかにも「あのお姉さんには幸せになってほしい」などとツイートされるようになってきて。そしてある日、山里さんが「前説いいじゃん」って褒めてくれて。もう、すっごい救われました。それから一層前説を一所懸命やるようになりましたね。他の仕事をほったらかしにしてでも。
―― またまた疑問なのですが、前説って、普通は若手の芸人さんとかがやるものじゃないのですか。
真船:以前は芸人さんに来ていただいていたらしいんです。けれども私が制作にいたころは「お金がない、お金がない」って、芸人さんを呼ぶ予算が削られ、いつしか前説はADがやる伝統ができていました。「プレミアMelodiX!」は新人が配属されることも多い番組なので、今の若いディレクターは誰しも前説を経験しているんじゃないかな。そういう点で、みんな山里さんに育てられたところはあると思います。
―― いやぁ、山里さんの好感度が爆上がりしました。
当時は「みんな死ね」と思っていた
―― この漫画には仕事に厳しい技術さんがたくさん登場します。特に「音効さん」(※)の見た目は怖そうですね。本当にあのような感じなのですか。
※音響効果。映像にBGMや効果音をつける仕事
真船:音効さん、怖かったですね。基本的に元バンドマンが多いんです。だから、金髪で、イカツイんスよ。そして見た目通り、怒らせるとマジで怖い。
―― 実際に怒られたんですね。
真船:怒られましたね。でもADになりたてのころは何が原因で怒られているのかが、分かんないんです。「データの形式を間違えてる」とか、「オフラインがどーだ」とか話が専門的すぎて。だから音効さんからクレームの電話がかかってくると「ま、よく分かんないけれど、取りあえず1時間、説教されておくか」って思いながら、ひたすら謝っていました。今だから言えますけれど、ずっと陰で「フーリガン」って呼んでました(笑)。
―― 真船さんはのちにディレクターに昇格しますが、音効さんに対する印象は変わったのでしょうか。
真船:彼らが何に対して怒っていたのかが分かるようになったのは、自分がディレクターになってからですね。彼らはいいものを作ろうと懸命に考えてくださっていたんです。映像って音がつくと、めちゃめちゃ生き生きしてくるんです。編集して「やばいこれ。面白いのか、面白くねえのか、分かんねえな」みたいな微妙な出来になっても、音がついたらもう急に面白く変わる。それに「こういうイメージなんです」と伝えると、その通りに仕上げてくれる。音効さんの知識と技術って、すごいんです。でもAD時代は、それは分からなかったですね。
―― ディレクターになって初めて分かることがあるのですね。
真船:そうなんです。当時は「みんな死ね」と思っていましたけれど(笑)。大体私が間違っていました。
Tシャツ姿で北海道ロケへ参加したらマイナス4度
―― 先輩ディレクターが経験した「海外ロケでトイレがどこにもなく、民家の台所で差し出された中華鍋にうんこをした」など過酷なロケのエピソードが登場しますが、ご自身のロケ経験はありますか。
真船:ロケはADになりたてのころに「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」で行きました。安田大サーカスの団長さんが誰も降りないようなポツンとある秘境駅の利用者を調べるコーナーがあって、北海道の山奥へ分け入ったんです。「行くときはクマよけスプレーを買っとけ」って言われて震えましたね。そして、初夏の北海道だから暑いと思ってTシャツ姿で行ったら、夜になるとマイナス4度で(笑)。死にかけました。
―― やっぱり、ロケ大変なんですね。
真船:でも、もともとロケがやりたくて制作局を希望したんです。ずっと海外ロケに憧れていて。ただ、ビビリなので作中で紹介した上出遼平ディレクターの「ハイパーハードボイルドグルメリポート」みたいな死と隣り合わせのロケは絶対に嫌です。
―― 真船さんはどんなロケに憧れていたのですか。
真船:「イケメン俳優と一緒にスペインを歩く!」とか、「あんまり怖くない女優さんの冷え性だけに気を遣って、適宜ホッカイロを渡すだけの仕事」をして、夜はうまいもんを食う。そういうロケだけがしたいと激甘の夢を見ていました。
―― テレビ東京に、そういう番組ってありましたっけ。
真船:ひと昔前のフジテレビさんとかだったら、あったかもしれません。けれども、うちにはありませんでした(笑)。
たった一人の人が笑ってくれたらいい
―― 真船さんの漫画に影響を受けてテレビ界にやってくる若者も現れ始めたそうですね。
真船:「『オンエアできない!』を読んでADになりました」っていう子が何人もいて、驚きますよ。「マジかよ。この本をちゃんと読んだの!?」って(笑)。私のことを漫画の主人公のように「まふねこさん」って呼んでくれる女子も少なくないです。飛んで火にいる夏の虫みたいな感じで申し訳ないなあと思いつつ、漫画に描かれている現状を知ったうえでテレビ界に入ってもらった方が、ギャップが少なくて済むかな。
―― 読んでいて「まふねこ、ひでえ」と思いながらも、悪戦苦闘する主人公に共感するし、胸が熱くなるんです。読者へ伝えたいことは。
真船:この漫画で描いているのは「一人の女ADが成長してゆく姿」です。ボロボロになるまで働くのが美しいとは決して思っていないし、ギャグにしないとやっていけないような、リアルに悔しかったり悲しかったりする思い出もあるんです。けれども、そこまでしてでも「たった一人の人が笑ってくれたらいい」、そういう思いでやっているんだというところは伝えたい。テレビはマスメディアだけれども、私は「たくさんの一人一人」に向けて番組を作っている。その気持ちが伝わればうれしいですね。
―― この『オンエアできない!Deep』では、主人公のまふねこが「BSはじっこテレビ」への出向を命じられるシーンで終わっています。BSという知られざる世界のエピソードを満載した続編を期待しております!
(吉村智樹)
『オンエアできない! Deep』試し読み
第6話「ロケ弁、食べちゃってイイですか?」
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