浴衣の彼女には笑っていてほしい「宇崎ちゃんは遊びたい!」8話 あの夏の花火の思い出(1/2 ページ)
高校時代の夏に見たのは、花火だったのかそれとも……。
ウザくて、かわいくて、SUGOI DEKAI! 「宇崎ちゃんは遊びたい!」(原作/アニメ)は、マイペースで一人の時間が好きな桜井真一(さくらい・しんいち)と、彼にまとわりついてくるキュートだけどちょっとウザめの後輩、宇崎 花(うざき・はな)の、ニヤニヤな距離感を楽しめるキャンパスコメディーです。
前回飲みすぎて桜井の家で吐いてしまった宇崎ちゃん。すっかりへこんでいる彼女ですが、やはりこのままではちょっと……8話では桜井と宇崎ちゃんは夏祭りに行くことになりますが、果たして関係は修復できるのか?
宇崎ちゃん、へこむ
8話は原作2巻にある夏祭り回をベースに、大幅にオリジナルエピソードを追加し、宇崎ちゃんと桜井の心情を丁寧に描いた内容になっています。
7話でゲロを吐いて桜井の布団をダメにしてしまい、すっかり意気消沈の宇崎ちゃん。桜井としては「少し布団を汚しただけだろっ!?」「(飲むのは)初めての経験だったんだからしかたないって!」とガチフォローをする程度に気にしていなかったのですが、今までにないくらい宇崎ちゃんはへこんでいました。
彼女は確かにウザ絡みの多い子です。しかし本当に相手に取り返しのつかない迷惑が掛かることはしないですし、そもそも意図的じゃない事故で困らせる行為に関しては罪悪感がとても強いようです。この心理は今まであまり描かれてこなかったところ。
亜実「あれで花ちゃん、そのへんのラインはキッチリ守ってるでしょ。桜井君も本気でひどい目にあったこと、今まで一度もないんじゃない?」
バイト先で相談したときの亜実のこの意見は、かなり鋭いところを突いています。もっとも一般的な人から見たら、桜井への行動は紙一重あるいはライン超えしているのが宇崎ちゃんではあるんですが、それでも今回の嘔吐(おうと)事件は「意識してやったことではない」「物をダメにした」「恥ずかしい」などの多数のネックがあり、明らかに異なっている事態なんでしょう。今までのやりとりとは雰囲気が違います。
宇崎ちゃんと夏祭り
亜実とマスターの協力で、夏祭り花火大会に行くことになった桜井と宇崎ちゃん。まだ宇崎ちゃんは引きずっていて、緊張気味です。「先輩…今日は自分なんかを誘っていただき、まことにありがとうございます」。
正直、申し訳ないんですが、このしおらしいモードの宇崎ちゃんめちゃくちゃかわいい。チョコバナナをチロチロなめて、射的の弾が胸の谷間に挟まったら赤面して。これはこれで大変素晴らしい。ただし、最初からこういうキャラなら素直に喜べるんですが…これは本来の宇崎ちゃんではない。
桜井としても、普段散々バカにされているハイテンション宇崎ちゃんのことを思い出すと、ちょっとイラッとはします。しかし無理に明るく振る舞っている宇崎ちゃんを見て、「やっぱなんとか元気づけてやらないと」と考えてしまう。ある意味これこそが、今まで関係を積み重ねてきた、桜井の宇崎ちゃんに対する今の包み隠さない思いです。
ここで使用するのが「歯の浮くセリフで褒めまくる」会話デッキ。
桜井「(浴衣)いいな、似合ってる」「(下駄)いいな!ピッタリだ!」「花飾りも夏って感じでいいな!」「髪型も今日はいつもと違うな!」
なんかもうやけくそである。でもそもそも普段褒められない宇崎ちゃん。海でも水着褒められただけで一発KOだった程度に褒められると弱い。へこんだ心もあっという間に戻りました。
ただし衣装類を褒められたときのうれしさと、自らを褒められたときの恥じらいは全く別です。どういう風に別なのかは宇崎ちゃんにしか分からないと思いますが、「かわいい」という言葉をかけられたとき、宇崎ちゃんの表情はがらりと変わります。
興味深いのは、桜井はひたすらやけくそにかわいいかわいいと連発しているだけだということ。あまりにも「かわいい」しか言えないので、周囲のモブからは「語彙力ねーな」と思われてしまうほどです。そもそも桜井の「かわいい」は、宇崎ちゃんの気持ちをフォローするためのもので、そこまで心がこもってはいません。
一方宇崎ちゃんはこの「かわいい」連発攻撃に完全にノックアウト。これだけ連発されているのに「かわいい」のゲシュタルト崩壊が全く起きていません。今まで散々押しても手応えがなかった相手から、予想外の量の褒め言葉が流れ込んできてパニックになっているようにも見えます。
ただ一ついえるのは、宇崎ちゃんはこれはこれで幸せそうだ、ということです。
夏の日の思い出
アニメ版では比較的宇崎ちゃん側の視点で話が進むことが多めです。なので「宇崎ちゃんから見た先輩」像がオリジナルカットで挿入されることも増えています。
今回は回想シーンまるまる増量。高校時代、水泳部の先輩である桜井と、泳げないマネジャーの宇崎ちゃんの様子が描かれます(内容は全然違いますが、コミック4巻の回想シーンと比較すると面白いです)。
大学の桜井は(宇崎ちゃんから見ると)ぼっち行動が多くて、いつもぼんやりしていて、なんだかパッとしない。しかし高校時代の桜井は(これまた宇崎ちゃんから見ると)美しいフォームでしなやかに泳ぐ憧れのエース。このときはまだ、同等に話すことなんてできない関係でした。
ある日の部活の帰り道、河川敷で花火大会が行われていました。焼きとうもろこしを食べながら二人で見た、大輪の花火。
このときの心理はなかなかに複雑です。宇崎ちゃんは全く泳げずふがいないことに対し、桜井に「なんかすいません」と謝っています。全く気にしなくてもいいのに、彼女としてはそこにとてつもない申し訳無さを感じているようです。励ましてくれる桜井の言葉にうれしさを感じつつも、気持ちはこじれてしまう。
しかし花火があがったとき、宇崎ちゃんは満面の笑顔で大喜びして、落ち込んでいたことを忘れます。その一方で、桜井の目に映っていたのは笑顔の宇崎ちゃんの方でした。
今回の花火デート(?)での二人の心理状態に重ねてみることができる部分、多数。宇崎ちゃんが序盤に「自分なんか」と卑下していたのを考えると、彼女のへこみポイントはどちらも、自らのふがいなさにヒントがあるようです。また桜井は過去も今回も、不器用ながらも励ましたいという気持ちと、笑顔を見たいという思いがかぶっています。
踏んだり蹴ったりで大騒ぎする二人の日々は、とても楽しいものですが、ときには立ち止まって本心を語り合うのは大事なこと。
桜井「言いたかないけど…おまえの…おかげで…あと…まあ…なんだ…だからそんなに落ち込まんでくれ」
宇崎「しょ、しょうがないッスね…先輩のぼっち夏休み、私がいくらでもつきあってあげますよ!」
宇崎ちゃんが桜井につきまといはじめたのは「先輩のぼっちを解消する」という大義名分ありきのものでした。でも今は、そうではなくなってきています。ここで桜井が宇崎ちゃんの挫折を解消し、彼女の大義名分を受け入れてあげるという流れは、大きな事件。二人の関係が大きく進歩した瞬間でした。
ただ、こんなにいいシーンなのに、膝枕したら宇崎ちゃんがSUGOI DEKAIゆえに上が見えないというとんでもない構図になっています。
花火はほとんど見えないけれども、桜井の目にはちゃんと見たかったものが、見えているはずです(SUGOI DEKAIじゃないですよ)。
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