甲冑の知識を1枚の折本に オンラインのつながりが生んだ同人誌『超入門 かっちゅうの!折本にございます』:司書みさきの同人誌レビューノート
自分で作る楽しみもあります。
朝夕に虫の音が涼やかに聞こえてきます。秋に向かう時候の別名は月見月、紅葉月、菊見月なんていうのもあるそうですよ。暑さが少しだけやわらぐ中、今月は雅やかで華麗な和の世界をかわいらしく感じられる作品です。
今回紹介する同人誌
『超入門 かっちゅうの!折本にございます』A4 カラー
著者:うさうらら(usaurara)
1枚の紙から本へと変身。手のひらサイズのかわいい折本
こちらのご本、実は冊子の状態ではなく1枚の紙にプリントされるのを想定してデータを公開されていました(入手方法は後述の「サークル情報」にて)。読者はそれをダウンロードし、印刷したのちに自分で切れ目を入れて、山折り谷折りすると、ぱたぱたとした小さな本が出来上がる仕組みです。A4サイズに刷り出してハサミで切ったり、こちらかしらあちらかしらと折って形作ったりすることの楽しさ、そして出来上がる意外な形。こんな形、なかなか本屋さんでは見掛けない……としばし眺めてから、おもむろにページをぱたりとめくると、そこに描かれているのは、強く華やかな甲冑(かっちゅう)の世界でした。
重厚な甲冑を軽やかに
表紙、裏表紙を足しても合計16ページ。しかも1ページはおよそ5センチ×7センチの小さな中に、ご本を出すに至った経緯、甲冑パーツについての解説、謎に思っていた甲冑の構造で気が付いた点などが、イラストと文章で掲載されています。
16ページの同人誌は珍しくありませんけれど、なにせ手のひらサイズという限られた大きさです。表紙に「超入門」ともある通り、決して甲冑の全てを網羅しているわけではありません。ですが、ときに1ページまるまる文字に費やし、ときに4ページにまたがる絵もどーんと配置され、という独特の形を生かしたページのレイアウトの大胆さ。要所要所のすてきなイラストや図解はスケッチの線を生かしたような抑えめの色づかいのカットもあれば、色鮮やかな鎧兜のイラストも。文章も、手書きがひょっこり入り込む……。この混じり具合が、小さく不思議なご本の形とうまくかみ合い、重く固いイメージの甲冑の世界への第一歩を軽やかに踏み出させてくれます。
オンラインでつながる創作の連鎖
なぜ甲冑のご本を描かれたか、そこにはオンラインを生かした流れがありました。まずは、多様な衣装やポーズなどをTwitter上で披露し参加者がスケッチするエアドローイング会「エア関ドロ会」にて、天心流兵法の滝沢洞風(まーこ)さんが実際の甲冑を身に付けモデルになる会が開催されました。それを偶然にTwitterのタイムラインで知った作者さんが参加され、創作を折本として公開するイベントでかっこいい甲冑姿のスケッチをもとに作品を発表。そうしてその情報をネットで知った私がプリントアウトして、ご本が手元にやってきたのです。
情報発信の間には必ず誰かの“面白そう”“楽しい”という人の気持ちが挟まって、人と場がつながってつながってすてきな作品がてのひらに届いたことが、しみじみとうれしくなりました。作者さんはご本の中で甲冑の奥深さに触れた面白さについてコメントし、「少しずつ書いたり描いたり楽しみながら勉強していきたいなー」と書かれています。発見したきっかけを柔軟に、そして機敏に取り入れて進む楽しさを一緒に体験させてもらうようなご本に、私も軽やかな気持ちになりました。
サークル情報
サークル名:卯楽々堂
Twitter:@usaurara
スケッチモデル:まーこ(@harima_mekkai)
入手方法:セブン-イレブンのネットプリント(9月12日まで)
プリント予約番号「39403958」A4、カラー 1枚60円
今週の余談
涼しくなったとはいえ、まだまだ頑張る暑さを感じながら、ゴーヤーを調理しました。作っているときは「こんなにまでしてゴーヤーを食べる必要があるのだろうか……」、その下ごしらえの手間に遠い目になりつつ、いざ食べるとシンプルな炒め物がおいしいのですよー!
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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