なぜ単線の路線で電車はぶつからないの? いちばん分かりやすい「単線」と「閉そくの仕組み」のお話:月刊乗り鉄話題(2020年9月版)(3/3 ページ)
ローカル線の北条鉄道に採用された「最新式の通票方式」に注目 ローカル線も進化している
電気技術が発達し、列車の位置を線路側で検知できるようになりました。こうしてタブレット方式は「自動閉そく式」に置き換わりました。
自動閉そく式では、閉そく区間の両側に信号機を置いて管理します。「閉そく区間に列車が存在しない」ならば両側とも青信号になり、列車が閉そく区間に侵入すれば両側の信号機が赤になります。これで「1つの閉そく区間に1つの列車だけ」となります。駅間の閉そく区間を複数に分割すれば「一方通行状態でも複数の列車を続行運転できる」ようにもなりました。
もっとも、自動化で便利になる反面、弊害もあります。「列車を検知する装置のコストが高い」ことです。また、行き違いを行う駅では「駅員が」信号やポイントを操作する必要もあります。これを遠隔操作するシステムもありますが、やはり高価です。
そこで北条鉄道が導入した仕組みが「票券指令閉そく式」です。
簡単に言うと、かつての金属製タブレットの代わりに「ICカード」を、タブレット閉そく機の代わりに「ICカードリーダー」を使います。
運転士は閉そく区間用のICカードを持ち、駅の出発時と到着時にICカードリーダーにピッとかざします。このICカードを反対側の列車の運転士と交換します。その情報を本社の運転指令員が確認して、各列車の運転士に出発を許可します。
この方式のメリットは、信号機方式に比べて設置、運用コストが低いこと。そして、行き違い駅に1日数本のためだけに専任の係員を配置しなくても済むことです。
運行本数が少なく、売り上げ規模も小さいローカル線で、閉そくシステムが幹線の単線と同じではキツい。今後赤字に悩みつつも、行き違い設備を増やしたい/利用者の利便性を高めたいというローカル鉄道で、票券指令閉そく式が広まるかもしれません。
感染症の流行などに起因する景気の冷え込みで「閉そく感が漂う今日このごろ」とか、病気の名前だと「腸閉そく」とか。何となく後ろ向きなイメージがある「閉そく」ですが、鉄道ではそんな「閉そく」がとても大切なのです。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。JR路線の完乗率は100%、日本鉄道全路線の完乗率は99.69%(2020年3月時点)
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