静岡駅「ごちそうシーチキン弁当」(880円)〜清水港線跡を辿って世界遺産・三保松原へ
【ライター望月の駅弁膝栗毛】(初出:2020年9月7日)
甲府から富士川沿いを下ってきた特急「ふじかわ」が、最後の途中停車駅・清水を発車し、終着・静岡へ向けてラストスパートに入ります。
昔は多くの特急・急行列車が行き交った静岡地区の東海道本線ですが、いまの特急は、日中の「ふじかわ」と、深夜・早朝の「サンライズ瀬戸・出雲」のみ。
約10分間隔で走る興津〜島田間の普通列車と、貨物列車がこの区間の主役です。
国鉄時代の昭和59(1984)年まで、清水駅からは「清水港線」が分岐していました。
大正5(1916)年、江尻(現・清水)〜清水港間で東海道本線の貨物支線として開業。
昭和19(1944)年、清水〜三保間の8.3Kmが全通し、旅客営業も始まりました。
清水港線の廃線跡は現在、主に遊歩道やサイクリングロードとなっています。
また、清水マリンパークの近くには、「清水港線跡」のモニュメントがあります。
(参考)国土交通省・清水港湾事務所ホームページほか
廃線跡の一角にある清水バリンパークには、国鉄清水港線・清水港駅で木材の貨車への積み込みに使われていた、昭和3(1928)年製のテルファークレーンが残されています。
昭和46(1971)年まで43年間稼働したクレーンは、鉄骨トラス構造がレトロな雰囲気。
現在は「清水港テルファー」として、国の登録有形文化財や静岡市の景観重要建造物になっており、清水マリンパークのシンボル的な存在となっています。
1950年代は、国鉄のなかでも黒字路線だったという清水港線ですが、廃止直前は、旅客列車と貨物列車を兼ねた「混合列車」が、1日1往復運行されるだけとなっていました。
現在は「しずてつジャストライン」の三保山の手線が、概ね15分間隔で運行されています。
ちなみに“三保山の手線”は、東海大学三保水族館〜清水駅〜但沼車庫を結ぶ路線。
但沼車庫方面の路線は昔、(国鉄)身延線の芝川まで直通していた時代もありました。
芝川では静岡鉄道・山梨交通・富士急行3社によるバスの“共演”が見られたものです。
清水駅から、しずてつジャストライン・三保山の手線のバスに揺られて約25分。
「三保ふれあい広場」停留所で降りると、かつての三保駅跡が公園となっています。
昔のプラットホームの跡と共に保存されているのは、貨車の入替えなどに使用されていた清水運送のディーゼル機関車と、日本軽金属のアルミナタンク車。
清水港線で昭和59(1984)年まで、アルミナ(酸化アルミニウム)を運んでいたと言います。
清水港線の廃線跡を辿ったら、「三保松原」まで足を伸ばしたいもの。
虹の松原、気比の松原と並ぶ日本三大松原、大正11(1922)年、日本初の名勝となり、平成25(2013)年には、世界文化遺産・富士山の構成資産の1つとなりました。
三保駅跡から三保松原までは、20分ほどの軽いウォーキング。
静岡市の「みほしるべ」という施設が見えてきたら、松原はスグそこです。
三保松原は、天女が衣を枝にかけて水浴びしているとき、漁師が衣を取りあげ、返す代わりに天女の舞を披露してもらったとされる羽衣伝説でも有名です。
「羽衣の松」は、初代が江戸時代の宝永噴火と地震で海に沈んでしまい、2代目は樹齢650年を超えて衰えが著しくなったため、現在の松は「3代目」なんだそうです。
「駿河湾越しの富士山」は……、また空気が澄んだ冬場に取っておくことにしましょう。
(参考)静岡県観光協会ホームページほか
三保松原で“天女”に遭遇することは叶わなかったのですが、静岡駅に戻ると、何と!「東海軒」の売店で新作駅弁に出逢うことができました。
8月1日に発売されたばかり、その名も「ごちそうシーチキン弁当」(880円)!
静岡市を拠点とする日本有数の食品加工メーカー「はごろもフーズ」と静岡駅弁「東海軒」のコラボ駅弁が登場したわけです。
【おしながき】
- シーチキン炊き込みご飯
- シーチキンとシャキッと!コーンの特製蒲鉾
- 黒はんぺんフライ
- 玉子焼き
- 春雨サラダ
- ミニトマト
- ブロッコリー
はごろもフーズが誇る「シーチキン」の炊き込みご飯が、刻み海苔の風味とよく合っていて、どんどん箸が進んで止まりません!
「東海軒」によると、シーチキンがそのままでも美味しいことをみんなが知っているだけに、駅弁としての付加価値を出すことに、とても苦労したと言います。
家では真似できない、明治22年創業の駅弁屋さんの技が詰まった炊き込みご飯です。
当初はサラダなども検討されたそうですが、保存性の観点から加熱が必要なため断念。
はごろもフーズの「シーチキン」と「シャキッと!コーン」を練り込んだ特製蒲鉾を、よりよい食感を出すべく、試行錯誤を重ねながら、由比(静岡市)の老舗と開発したと言います。
6月に静岡県のスーパーで行ったパイロット販売の結果を反映、ようやく駅弁として完成。
量も程よく、シーチキンと同じように老若男女みんなに愛される駅弁になってほしい……。
開発された方にお話を伺いながら、自然とそんな気持ちになりました。
「東海軒」によると、昨年(2019年)から新たに商品開発室を立ち上げて、話題を呼んだ「ちびまる子ちゃん弁当」をはじめ、新作の開発に当たっていると言います。
何かと委縮してしまいがちなコロナ禍にあっても、このような地元に根差した新しい展開が見られると、駅弁をいただくことで元気が出てくるもの。
新しい列車、新しい駅弁には、ワクワクする気持ちも、ぎっしり詰まっています。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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