漫画の「キャラクター」は著作物ではない? 「同人誌の法的位置づけ」を巡り画期的判決、弁護士にポイントを聞いた

同人作家が無断転載サイトを訴えていた裁判の控訴審が決着、判決文に意外な形で注目が集まりました。

» 2020年10月09日 19時00分 公開
[池谷勇人ねとらぼ]

 いわゆる“同人誌転載サイト”に自身の作品を無断で掲載されたとして、同人作家の女性がサイト運営元に対し損害賠償を求めていた裁判(控訴審)で、知的財産高等裁判所は10月6日、被告側の控訴を棄却し、一審判決(関連記事)は妥当であるとの判決を下しました。また、公開された判決文の中で、二次創作同人誌の法的位置付けについて(あくまで同人作家と第三者による裁判という点には注意が必要ですが)著作権侵害にはあたらないとの判断が示されたことも大きな注目を浴びています。



二次創作同人誌 判決 被告が運営していたサイトの1つ「BL同人801館」(現在は閉鎖)

 一審の記事でも触れた通り、今回の裁判では「二次創作同人誌は著作権で保護されるか」という点が大きな争点となりました。原告の同人誌は『ハイキュー!!』や「TIGER&BUNNY」「おそ松さん」といった漫画やアニメ作品を元にしており、被告側はこれについて「違法な二次的著作物」であり、訴えは不当であると反論。一審では最終的に「違法な二次的著作物であると認めるに足りる証拠は存在しない」として、被告側に約219万円の支払いを命じましたが、これを不服として争っていたのが今回の控訴審となります。結局、知財高裁でもこの判断は覆らず、一審の判断がそのまま支持された形となりました。


二次創作同人誌 判決 原告の作品および、その原著作物との同一・類似点(裁判結果より)

漫画の「キャラクター」は著作物にあたらない?

 これに加えて、今回の判決でもう一つ注目を浴びたのが、漫画のキャラクターについて「著作物には当たらない」と判断されたこと、また二次創作同人誌について「原則として、原作の複製権を侵害する違法なものではなく、適法に権利行使できる作品である」という判断が示された点です。原告側代理人を務めた平野敬弁護士(電羊法律事務所)も裁判後、「同人誌の法的位置づけについては以後これがリーディングケースになると思われます」とツイートしています。

 平野弁護士が続くツイート(123)で抜粋したのは、判決文の以下の部分。

漫画の「キャラクター」は、一般的には、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから、著作物に当たらない(略)。したがって、本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって、これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。

シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである

判決文より)


 つまり、漫画のキャラクター自体は「著作物にあたらない」ため、同人誌に原作のキャラクターを登場させたとしても、それだけで著作権侵害にはならない、ということになります。平野弁護士のツイートはこれまでに1万回以上リツイートされ、「かなり衝撃」「マジか……」など驚く声も多くみられました。

 あらためて、今回の判決のポイントについて、鹿児島県弁護士会の上岡弘明弁護士に詳しく解説していただきました。

_


二次創作同人誌でも「二次的著作権が成立し得る」との判断

―― 二次創作同人誌であっても「原作の複製権を侵害する違法なものではない」というのはどういうことなのでしょうか。

上岡弁護士:従来、作品の登場人物の顔、姿などの恒久的な表現(キャラクター)については、特定のコマと対比するまでもなく著作権侵害になるとの見解がありました(※)。しかし、これに対して判決では、同人誌が原作の著作権を侵害していると主張する場合「原作のどのシーンの著作権侵害か特定しなさい」と述べ、上の見解を明確に否定しました。そして、今回は原作シーンが特定されていないので同人誌に著作権侵害はないとした形です。

※被告側が引用した「サザエさんバス事件判決」(東京地裁昭和51年5月26日判決)などに基づく見解

―― キャラクター自体は著作物にあたらず、原作の「特定のシーン」に対して類似していなければ著作権侵害にはならないということですね。

上岡弁護士:そうですね。これだけで判決としては十分なのですが、裁判所はさらに踏み込んだ判断をしました。仮に原著作物のシーンが特定されたとしても、著作権侵害が問題となり得るのは、キャラクターの「容姿や服装など基本的設定に関わる部分」のみ、しかも複製権侵害に限られるとし、「その他の部分については、二次的著作権が成立し得る」と述べたのです。複製権侵害の危険性は残る文章ですが、本判決では原作と同人誌で主人公などの容姿や服装に共通ないし類似する部分があると認めつつも、侵害の立証としては不十分としています。限界は示されていませんが、一般的な同人誌で(少なくとも主人公などの容姿や服装が共通しているだけでは)複製権侵害と認定されるケースはまれではないかと思われます。

―― 二次創作同人誌であっても「二次的著作権が成立し得る」と明言されたのは大きいですね。

上岡弁護士:そういうことになります。ただし、今回のケースはあくまで「同人作家と第三者の裁判」です。二次創作同人誌が“二次的著作物”だとすると、原著作物の著作権も及ぶという判例がありますので(※)、今後もし「原作者と同人作家の裁判」となった場合には、さまざまな点で異なる判断となる可能性はあります。

※キャンディ・キャンディ事件判決(最高裁第一小法廷平成13年10月25日判決)

―― 今回は知財高裁判決ですが、最高裁までもつれたり、今回の判断が覆ったりする可能性はあるのでしょうか。

上岡弁護士:最高裁に行くかどうかは当事者の意思で決めることですが、同人誌が著作権侵害だという主張は譲れないからこそ地裁、高裁と主張してきたのだと思われますので、行くところまで行く可能性は高いと見ています。今回、最高裁で勝敗が覆る可能性は低いと思います。ただし、本判決には他の事件で誤解を招きそうな記載もあり、最高裁が手を加えることはあるかもしれません。


原作者側との裁判になった場合は判断が変わる可能性も

 上岡弁護士の説明にもあった通り、今回の裁判はあくまで同人作家と第三者による争いであり、今後もし、同人作家と原作者側で争った場合にはまた違った判断が下される可能性があるという点には注意が必要です(同人誌が二次的著作物と判断された場合、原作者側も作品に対し権利を行使できるため)。とはいえ、これまで法的位置づけがあいまいだった二次創作同人誌について明確な法的判断が示されたという点では、画期的な判決であることに間違いはなさそうです。

 なお、今回の控訴審では原告側も賠償額の引き上げ(約219万円→1000万円)を求めて控訴していましたが、こちらも一審の判断が妥当だったとして棄却されています。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/24/news014.jpg 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. /nl/articles/2407/25/news017.jpg 「これが生えたら庭終了」 プロも降参する“何をやっても全部ムダな最恐雑草”の正体が400万再生「ほんとこれ厄介」「土ごと変えないと不可能」
  3. /nl/articles/2407/26/news151.jpg イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
  4. /nl/articles/2407/25/news012.jpg 夜、山中の側溝をのぞいてみたら…… 思わず声がもれる“あらぬ生物”の姿に「ヤバいw」「生で見てみたい」
  5. /nl/articles/2407/25/news007.jpg 水槽の中で卵を発見→慎重に見守って1カ月後…… 小さな命の誕生に飼い主も視聴者もメロメロ「まじで可愛すぎるほんとに可愛い」
  6. /nl/articles/2407/25/news138.jpg 「お父さんはママのオタクだった」 母親が「元・おニャン子」のタレント、アイドルとオタクが“つながっちゃいけない理由”を問いかける
  7. /nl/articles/2407/25/news050.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」 中1の“斜め上の解答”に「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2407/26/news119.jpg 工藤静香、15歳の愛犬が天国へ 感謝の言葉つづるも……「泣いてばかり」「心が追いつかない」と悲痛な思い
  10. /nl/articles/2407/26/news008.jpg 外国人が来日して“3年後”…… マクドナルドの“オーダーの変化”に「胃袋が日本人のそれなんよw」とツッコミ
先週の総合アクセスTOP10
  1. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  2. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない
  3. 「お釣りで新紙幣来た!!!!!と思ったら……」 “まさかの正体”に「吹き出してしまった」「逆に……」
  4. 赤いカブトムシを7年間、厳選交配し続けたら…… 爆誕した“ウルトラレッド”の姿に「フェラーリみたい」「カッコ良すぎる」
  5. ダイソーで買った330円の「石」を磨いたら……? 吸い込まれそうな美しさが40万回表示の人気 「夏休みの自由研究にもいいのでは?」
  6. 「これ最初に考えた人、まじ天才」 ダイソーグッズの“じゃない”使い方が「目から鱗すぎ」と反響
  7. もう笑うしかない Windowsのブルースクリーン多発でオフィス中“真っ青”になった海外の光景がもはや楽しそう
  8. アジサイを挿し木から育て、4年後…… 息を飲む圧巻の花付きに「何回見ても素晴らしい」「こんな風に育ててみたい!」
  9. スズメの首は、実は……? 「心臓止まりそうでした」「これは……びっくり!」“真実の姿”に驚愕の声
  10. 【今日の計算】「8×8÷8÷8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」