ネコ耳キャラクターはどこからやってきた? 困難な調査に挑み続ける同人誌『現代獣耳研究』に拍手を司書みさきの同人誌レビューノート

「獣耳」という樹海のごときジャンルへの挑戦。

» 2020年11月01日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 昨日は「ハッピーハロウィーン!」という言葉をあちこちで見聞きしました。この時期には街の図書館では「ハロウィーンの成り立ちを子どもに知ってもらいたいので絵本か紙芝居を……」と求める利用者さんに対応することも多々です。あたりを見渡せばかぼちゃや魔女のイラストに混じって、目についたのがネコでした。黒ネコは魔女の使いですものね。ネコの耳やしっぽをつければかわいい仮装になりますが、考えてみれば人型に動物の耳が付いているイラストなどはハロウィーンでなくてもあちこちで見掛けます。今回はそんな「獣耳」についての同人誌です。

今回紹介する同人誌

『現代獣耳研究 Vol.1〜2』A5 48P 表紙カラー、本文モノクロ

『現代獣耳研究 Vol.3』A5 40P 表紙カラー、本文モノクロ

著者:白根こま


同人誌 図書館 司書同人誌 図書館 司書 あまたある獣耳から表紙には黒猫をチョイス

ネコ耳キャラクターはどこからやってきた? 人型に付く動物耳に注目

 こちらのご本『Vol.1〜2』では、およそ40年ほど前に出された同人誌『シベール』や歴代の獣耳キャラに注目しながら“獣耳はどこからやってきたか”に迫ります。『Vol.3』では“キツネ耳の巫女(みこ)さん”、“獣耳系VTuberさん分布”など、新たな視点を持ちつつ調査を進めています。基本的に著者はお1人のようで、ご自身が調査した作品やキャラの分類をしながら、自論は主に文章で、時にグラフや引用の図を交えながら展開されています。

 いやはやもうね、もう! “獣耳はどこからやって来たか”に迫る最初のページを読んだときに、ずがーんと私に雷が落ちました。「この方、めちゃくちゃに険しい道を進もうとされている……!」と。

 「○○はいつからあるの?」の調査には、まずはそれをどう定義するかの難しさがあります。「獣耳と擬人化は違うのか?」、文中にも、「ディズニーは?」「犬ホームズは?」と触れられている通り、「人型ってどんな?」とは、実に複雑です。

 また、まだ他にまとまった参考資料の無い状態で、自分でこつこつと資料を探して集約する根気のいる取り組み……。実はこの定義と資料の取り扱いについては、私は『Vol.1〜2』については不安を覚えたのが正直なところなのです。

 定義や調査範囲が明確にされていない状態で文中に「史上初」と表記されると、私はそわわわーっとしてしまいました。おそらく作者さんは1970年代はリアルタイムで体験されていない世代と推察され、しかしあえてご自身にとっては“伝説の”時代に出された『シベール』に着目し、過去の情報のなさにご苦労されながら道をかき分ける様子に、面白さを感じながらも、はらはらしつつ読んだのです。ところが、『Vol.3』になると明らかな変化が見られます。

同人誌 図書館 司書 約40年前の同人誌にキツネ耳初登場か…?(『現代獣耳研究 Vol.1〜2』より)

続刊で進化中。書き続けること、調べ続けることの力

 『Vol.3』では時期設定を「2000年代には」などとはっきりさせたり、調査した方法と結果を補記したり……。もしかしたら、研究や論文を書いている人には「なーんだ当たり前のこと」と思われるかもしれませんが、これ、行き届いた書き方をするのは、実はなかなかの技がいりますもの! 興味ある自論を追いながら、他者にも理解されやすいように丁寧に補足するのは、わりと面倒くさい調査が必要なんです。けれどその面倒くささを乗り越えて、より読者に分かりやすく伝わるように進化されている!

 さらに内容も、より作者さんの身近と思われる2000年代の話をメインにしたり、今現在のVTuberさんの調査、そして「ネコ耳種族がペットになっている(それが当たり前の世界)」から社会の構造を読み解こうとするなどの、ご自身の得意な方向と特有の視点を伸ばしていらっしゃるのに、よりわくわくとしてきて、その進化の様子にまた私は雷に打たれたのでした。

同人誌 図書館 司書 ひとくちに「ネコ耳のいる世界」と言っても描かれ方はさまざま(『現代獣耳研究 Vol.3』)

獣耳という樹海に敢然と降り立つ勇者に幸あれ!

 このご本を手にしたときの雷は私には「ものすごい樹海に降り立った人がいる……!」という感動でした。ネコ耳もイヌ耳も、キツネ耳も……いまや獣耳の世界は多種多様です。あきらかに広い!

 そんな中であえてとても困難な「はじまりはいつから?」にチャレンジしたり、自ら資料をまとめたり。先行の研究や他者の論が豊富に読める分野が、道筋のついた公園だとしたら、獣耳の世界は森。豊かで奥深くて、そしてまだ道無き樹海ではないでしょうか。そこに降り立った人の手にあるのは「自らの興味」という灯火だけ。これまでのマンガやアニメの世界をリアルタイムで追ってきた世代の方、マンガやアニメでなくてもネコ耳表現に興味のある方など、賢者がいらっしゃるならどうぞ樹海で勇者に出会ったら「昔……東の方におまえさんの求める泉があったのう……」とか「このキノコはよく似ておるが毒キノコじゃ」とか教えてあげてほしいのです。いまはまだ完璧な大正解とはいえないかもしれない、けれど果敢に挑むご本に触れ、私はそう願わずにはいられませんでした。

 マンガやアニメ、ゲームのジャンルはいまだ図書館や博物館で資料保管や所蔵公開例が少なく、“さかのぼる”“調べる”ためのアクセスが難しい状況にあると思っています。頭の中で「○○って○○かなぁ?」と思っているだけなら誰にも否定されず、けれど誰にもその考えは伝わりません。そこをあえて同人誌という声を上げて、調査し、広くて深い獣耳の樹海に立つ勇者に幸あれと願うのです。

同人誌 図書館 司書同人誌 図書館 司書 今どきのVTuberさんにも注目です(『現代獣耳研究 Vol.3』)

サークル情報

サークル名:S猫出版部

ブログ:http://kemomimi.doorblog.jp/

現在入手できる場所:メロンブックス

Twitter:@KemomimiLife



今週の余談

 気候が穏やかになって、秋祭りやハロウィーンもあって。お店の飾りがもうクリスマス仕様になってびっくりしたり!近づいてくるのが楽しみなことがある日々はうれしいですね。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた